スダラボ視点のカンヌ観察日記(1)

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それぞれの「ジャッジ!」を持つべし。または、ユーは何しに南仏へ?


博報堂 i-ディレクション局 シニアクリエイティブディレクター
須田和博

6月15日(日)

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格安航空券を自前で調達し、羽田発ドバイ経由でニース空港へ向かうエミレーツ航空に乗った。その機内で、澤本さんの「ジャッジ!」を英語字幕付きで見た。(*以下、映画のネタバレを若干、含みます。未見の方、すいません。)

日本の公開時には、お声がけいただいた試写会も、劇場公開も見逃してしまっていて申し訳なかったが、むしろ、カンヌに向かうタイミング、日本人以外の多様な人種・国籍の人々に囲まれた環境で視聴できたのは、かえって幸運だったかもしれない。

映画「ジャッジ!」は、構造的に非常に良く出来た「成長物語」のプロットに、業界の悲喜こもごもや国際広告賞の舞台裏を、大幅にカリカチュアしながらも、かなりリアルにサンプリングしていて楽しめた。

その中の、とあるシーン。審査会が始まってすぐ「うちの病気の子供が!」とか、「赤ちゃんが生まれそう!」などの手前ミソな事情で、2人の審査員が他国の審査員たちの同情票を求めるシーンがある。

対するに、主人公が擁護しなくてはならない作品は、「ちくわ」や「キツネうどん」という日本人以外には、そもそも理解されるはずもない商品の広告であった。

この対比のシンボリックさ。

このシーンに、すでに「答え」が書いてある。国際広告賞での戦い方の「最重要ポイント」が、さりげない形で審査会初日の珍事の中に隠されていた。

つまり、審査員をふくめ世界中の人々の興味や共感を集めるのは、「病気の子供」とか「赤ちゃん」とか、「生きる」とか「死ぬ」とか、「飢える」とか「恐怖」とか「SEX」とか、そういう人種・国籍を超えた鉄板ネタ。地球に棲息する「人間という生物種」であれば必ず理解できて、情動も動くようなテーマに立脚するのが、まずは有利な「キックオフの仕方」なんだ、ということ。

主人公たちのチームは、「ちくわ」を「もったいない精神」が生み出したソリューションと定義づけ、PRパーティーで世界の審査員の方々の理解と共感を獲得した。そう。「ちくわ」では理解されないモノを、「もったいない」=「貧困が生み出した人間の知恵と工夫」の成果と意訳することで、人種・国籍を超えた理解を得る。

「キツネうどん」に至っては、意味の説明を放棄し「ニャー!ニャー!」という「合い言葉」で突破する。「ニャーニャー・ミーンズ・スーパー・デリシャス」という主人公から審査員団への説明には本当は意味がなく、ここから先の展開で描かれるのは「仲間だけに通じる合い言葉をかけあって、関係性を確認したい」という人間の習性や、うまい!など「興奮した時は大声で叫びたい」という本能的欲求。そして、その「合い言葉」と「バカ騒ぎのノリ」がインターネットを通じて瞬く間に世界中に「伝染」していくという現象。

大きくは、この3つ。人種・国籍を超えた「全人類に通じる鉄板ネタ」、人種・国籍を超えて理解される「人間らしい知恵と工夫」、そして人種・国籍を超えた「バカ騒ぎの流行現象」つくり。澤本さんは短い90分の中に、広告の典型スキルも手際よくサンプリングしていた。

ニース空港から、地元のバスを乗り継いで、コート・ダ・ジュールを転々と移動し続けた。モナコのカジノ前のバス停から、本当にたくさんのアジア・アフリカ・ヨーロッパごちゃ混ぜの観光客たちが乗り込んで来て、バスは満員になった。このバスみたいなもんなんだな、国際広告賞の審査会場は、、と思った。

このバスの満員の乗客、全員に通じるネタは何か?
このバスの乗客、全員をノリノリにする方法は何か?

今年も、たくさんのヒトがカンヌに来る。広告業界・日本村も大挙して南仏に集合する。

誰もが澤本さんのように、ここでの体験を「1本の映画」に出来たら素晴らしい。自分は前回カンヌに来た時、考えつづけ問いつづけた結果を『使ってもらえる広告』という1冊の本にした。今回は、その「続きを問う」ツアーだ。

映画を作らずとも、本を書かずとも、そう考えてみることが大切だ。もし、ここでの1週間の体験や知り得たことを、自分が1本の映画や1冊の本にするとしたら、その「タイトル」は何なのか?「背表紙」には何と書いてあるのか?

それが、テーマだ。わざわざカンヌに来る理由だ。
自分の背表紙は、もうとっくに決まっている。

せっかく日本を離れ、絶え間ない現業の忙殺から逃れ、広告の来し方・行く末を問い、世界中の全人類に通用する広告とは何なのか?を見る、時代の最先端のさらに先を垣間見ることで、広告の「変わらない普遍」を洞察する。つまり『新しい普遍』を探す旅。

「ジャッジ!」のもう一人の主人公、ミスター・チェアマンが言った名台詞。
「順位は作るものだ。受け入れるものじゃない。」

皆さまご自身のテーマと判定で、実り多きカンヌでの1週間を楽しまれんことを!

(つづく)

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