カンヌでは、昨年は「イノベーション部門」、今年は新たに「ヘルスケア部門」が追加されたように、毎年のように部門が増えています。
これに対しては、「カンヌがエントリーフィーを荒稼ぎしている」という批判もあります。
確かにそういう面も完全に否定することはできませんが、でもやはりそれ以上に、実際にクリエイティブが解決できる領域が広がっているのだと思います。
つまり、世の中のあらゆる場面でアイデアが求められているということです。
このコラムの初回で、「これまで広告に向けていたアイデアを、広告でないところに向けていくことに広告の未来がある」ということを述べました。
それは、カンヌという業界の最高峰が集う場において、率先して議論されていることなのです。
言い換えれば、カンヌ自らが、業界の仕事の領域を広げようと必死になっているということです。
例えば、出版書籍業界に「本屋大賞」という文学賞があります。
これは、2004年に「全国書店員が選んだいちばん!売りたい本」というキャッチコピーで設立されたものです。
芥川賞や直木賞などの権威からの授与とは違い、「本と読者を最も知る売り場からベストセラーを作ろう」という狙いから運営されています。
そこには、「文学の未来は自分たちで拓く」という業界の意思があるわけです。
カンヌもそうです。
各部門の審査員は、各国から集められた選りすぐりの広告業界関係者たちで組成されます。
各セミナーも、業界関係者たちが最先端のナレッジを共有しようと、これでもかというくらい質の高い内容が詰め込まれています。
それは決して、「業界関係者が自分たちの仕事を評価し合う内輪だけで盛り上がっているイベント」でも、「広告表現の芸術性のようなものを評価している」ものでもありません。
「業界の未来を自分たちで拓いていこう」とする強い意思そのものです。
それが広告という領域を超えて、より良い世の中に貢献するためのあらゆるクリエイティビティを評価するものになってきた意味だと思います。
さて、このコラムも今回で最終回を迎えることになりました。
テーマである「脱広告」という宣言は、まさに「僕たちの未来を僕たちで拓こう」というメッセージを込めてのものでした。
僕たちの追いかけている仕事は、考えれば考えるほどめちゃくちゃなものです。
ロジックだけで完結するものではなく、そこには必ず感情に訴えるものが必要です。
サイエンスだけでなく、アートがあってこそ機能します。
急速なデジタル化の流れにあっても、やはり最後はアナログなものです。
要するに、「人間を追求し続ける作業」そのものというわけです。
それは、追いかけても、追いかけても、答えの出るものではありません。
「そんな不毛なことあるか」と言う人もいるかもしれません。
でも僕たちこの業界にいる人であれば、きっとこう思うはずです。
「いや、だからこそ、最高の仕事なんだよ」と。
※連載『いいかげん、脱・広告宣言!』は今回で終了です。
ご愛読ありがとうございました。
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