ネスレ日本 代表取締役社長兼CEO 高岡 浩三氏
2010年にネスレ日本の代表取締役社長兼CEOに就任した高岡浩三氏は成熟市場、日本の中で売上、利益ともに拡大を続けている。ネスレコンフェクショナリー・マーケティング本部長時代に「キットカット」受験生応援キャンペーンを成功させるなど、マーケターとしての実績を重ね、現職に就任した高岡氏。お客様にとっての価値を最優先で考える、マーケティングが中心にある企業経営とは。
一人ひとりの社員がお客様にとっての価値を創る
——現在の国内の市場環境をどう見ていますか。
バブルが崩壊してからの失われた20年、日本はGDPが増えることもなく、経済大国として米国に次ぐ2位のポジションも中国に奪われ、さらには長期にわたるデフレを経験し、私たち食品業界にとっても厳しい環境が続いてきました。日本の政治、そして経済のモデルは戦後の高度経済成長期に成功体験を築いてきた「新興国」のモデルと言えます。本来は先進国の仲間入りをし、経済成長がピークに達したバブル経済下で、新興国から先進国モデルへと転換を図るべきだったと思いますが、それができなかったことが失われた20年の要因です。
本来は経済環境に左右されることなく、売上そして利益を伸ばしていくのがプロの経営者の仕事です。それができないのは企業、そして経営者の中に「先進国型のマーケティング」が欠落しているからだと思います。
——高岡社長はトップになってからも“企業都合”で発想するのではなく、お客様の目線になって、自社の商品や提供する価値をとてもシビアに見ていると思います。
常にどうしたらお客様に価値を感じていただけるような提案ができるかを考えるのがマーケターの仕事です。そこでマーケティングを経験すれば、自然とお客様中心にものごとを考えるようになります。ネスレグループの執行役員は約30名ですが、そのほとんどがマーケター出身。これはネスレグループに限らず、グローバル企業では普通のことだと思います。一方、日本の企業ではマーケティング部門よりも営業や製造部門出身のトップが多くいらっしゃいます。裏を返せば、それは日本の企業ではマーケティングが中心にない。つまりは、お客様中心の経営体制にはなっていないということです。
