米国広告トレンドの勘どころ【後編】「フィンテック」から見えるエージェンシーの未来

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「宣伝会議」12月号(11月1日発売)に、ニューヨーク視察研修ツアーのレポートを掲載します。視察から見えてきた米国広告ビジネスの今、そして日本の広告界がめざすべき方向性を5つのキーワードで捉えます。こちらも、ぜひご覧ください。

デジタルインテリジェンス ニューヨーク代表 榮枝洋文氏

9月27日~10月3日の7日間にわたって開催されたBusiness Creation Lab. 2015 in New Yorkは、デジタルインテリジェンス ニューヨーク代表の榮枝洋文氏によるセミナーで幕を開けました。世界の広告・マーケティング界の最先端を行き、新しい概念や手法が生みだされる場所、アメリカ。セミナーでは、この地で見聞きしたことを参加者がより深く理解し、自分自身の実務に落とし込んでいくために把握しておくべき「勘所」が共有されました。本稿では、そのポイントを5つにまとめて紹介します。

前回の記事「米国広告トレンドの勘どころ【前編】業界の地殻変動と、巨大“テレビ・ダラー”のゆくえ

【ポイント3】「フィンテック」から見えるエージェンシーの未来
組むべきパートナーは業界外に存在する

2014年から急速に伸長し、米国内での注目が高まっている「FinTech(フィンテック)」。Finance(金融)とTechnology(技術)を組み合わせた造語で、スマートフォンやビッグデータなどの技術を活用した利便性の高い金融サービスや、それを手がけるITベンチャー企業のことを指す。

例えば、Twitter創業者のジャック・ドーシー氏が始めた決済サービス「Square」はフィンテックの先駆けで、瞬く間に大手クレジットカード会社を圧倒する存在となった。

「米国では、防衛やヘルスケア、金融といった領域でテクノロジーの進化が進み、それが遅れてマーケティング領域でも活用される。フィンテックに注目することは、近未来のマーケティングを考える上で非常に有用」と榮枝氏は指摘する。

今年9月には日本でも、日経新聞の見出しに「フィンテック」の文字が躍り、金融庁が銀行規制を17年ぶりに緩和し、銀行持ち株会社の傘下で新事業への参入を可能にすることを明らかにした。

現行の日本の銀行法では、銀行持ち株会社の金融以外の事業会社への出資が制限されている。今回の規制緩和によって、銀行が付加価値サービスを創造できる環境を早急に整備し、異業種の金融業界参入に対抗したい考えだ。

トランザクションによる利益を見込むApple Pay。広く世の中に浸透させるためには、優れたUXデザインがカギとなる。
(C)Shutterstock

フィンテックに関連したトピックとしては、2014年10月に米国で、今年7月に英国でローンチされた決済サービス「Apple Pay」がある。NFC(近距離無線通信技術)を搭載したiPhone 6および6PlusとApple Watchで利用でき、支払い端末にiPhoneをかざして指紋認証ボタンにタッチするだけで決済が完了する。

こうしたフィンテックを世の中に浸透させるためには、UX(ユーザーエクスペリエンス)の視点、つまり消費者が「つい使ってしまう」ような利便性を担保するデザイン設計がカギとなる。Apple Payも、個人データを活用したビジネスモデルではなく、あくまでトランザクションによる収益を見込んでおり、そこでは優れたUXの設計が不可欠だ。

こうした状況下、新たな付加価値サービスの創出をめざす金融業界各社が、フィンテックベンチャーやUXデザイン会社の買収を進めている。

スペインの大手金融機関であるビルバオ・ビスカヤ・アルヘンタリア銀行(BBVA)が2014年2月にフィンテックベンチャーの「Simple」を1億1700万ドル(約140 億円)で買収したほか、BBVA Compassが2015年4月にUXデザイン会社の「Spring Studio」を、米金融大手のキャピタル・ワンが2014年10月にUX 専門コンサルティング会社の「Adaptive Path」を、会計ソフト最大手のIntuitが2009年に個人用財務管理サービスの「Mint」を買収した。

TechStarsと組んで「Barclays Accelerator」を立ち上げた、英金融大手・バークレイズ。米オフィスはニューヨーク マンハッタンの中心部にある。

企業買収だけでなく、フィンテック分野でアクセラレータープログラムやラボを立ち上げるケースも増えている。

英金融大手のバークレイズがBtoB型アクセラレーターのTechStarsと組んで「Barclays Accelerator」を立ち上げたほか、シティバンク子会社のシティバンク・ベンチャーズがインキュベータのPlug and Playと組んで、米国・ドイツ・シンガポール・ブラジル・スペインでアクセラレータープログラムを実施、またアクセンチュアが主導して立ち上げたインキュベーションプログラム「FinTech Innovation Lab」には、バンク・オブ・アメリカ、メリルリンチ、バークレイズ、シティバンク、クレディ・スイス、ドイツバンク、ゴールドマン・サックス、HSBC、ロイズ・バンキング・グループ、J.P.モルガン、モルガン・スタンレー、ロイヤルバンク・オブ・スコットランド、UBS、ネーションワイドなどが名を連ねる。

こうした社会の趨勢を踏まえ、エージェンシーも、社内の既存人材を育成するのみならず、業界外に新たなパートナーを求め、既存ビジネスを超えたサービスの提供を模索する必要があると榮枝氏は指摘する。

「昨今、エージェンシーで行われる打ち合わせは、IT担当・UX担当・プログラマーが中心にいて、その周りにマーケティング担当、営業担当などが並ぶのがトレンド。新規事業開発も含めた、企業のビジネス課題解決を求められる中、UX、フロントデベロッパーを担う人材の獲得が、エージェンシーにとっても急務となっている」。

次ページ 「【ポイント4】相次ぐ巨大買収劇から見える
コンテンツとチャネルの争奪戦」へ続く

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