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米国広告トレンドの勘どころ【後編】「フィンテック」から見えるエージェンシーの未来

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【ポイント4】相次ぐ巨大買収劇から見える
コンテンツとチャネルの争奪戦

「どんな商品・サービスを提供しているか」ということがブランドにとって重要なのは言うまでもない。しかし近年は、それと同じか、あるいはそれ以上に、オンライン動画の世界でブランドの存在感を高めていくことの重要性が高まっている。

「マスメディア(テレビ)を通じた川上からのコミュニケーション」だけが視聴の対象だった時代から、そのテレビ素材をオンラインにも転載してリーチを拡大するネット時代へ。さらに、最近では「動画投稿が日々膨大な量の動画コンテンツをつくり、それを視聴する何百万・何千万というオーディエンスが存在する」という環境が生まれている。

ユーザーによって日々無尽蔵に生み出されるCGM(Consumer Generated Media)/UGC(User Generated Content)を含めたブランド資産を活用する戦略が、これからの時代の広告主には欠かせない。国境を超えて共有され、拡散していく写真や動画といった非言語コンテンツの対象は、グローバルオーディエンスであり、特にグローバルでマーケティング活動を展開する企業は意識しておかねばならない。

何百万・何千万のオーディエンスにリーチするためのコンテンツを、すべて自前で用意するのは難しい。そこで一つの解となっているのが、膨大な量のオーディエンス(ファン)をネットワークするテクノロジーを持つ企業と連携することだ。

「広告主にとって理想的なパートナーは、いまやエージェンシーではなく、そうしたテクノロジー企業。より多くのコンテンツを求めて、通信会社やメディア、消費財メーカーといった幅広い企業が、テクノロジー企業への巨額出資や買収を加速させている」と榮枝氏は話す。

全世界3億8000万人のユーザーを抱えるMCN「MakerStudios」。

例えば、通信大手のAT&TはYouTube最大のマルチ・チャンネル・ネットワーク(MCN)の「Fullscreen」を約200億円で買収した。「Fullscreen」には、WPP Digitalやコムキャスト・ベンチャーズも出資している。

また、2014年にはディズニーがMCN「MakerStudios」の買収に約900億円の巨額を投じた。質の高いコンテンツを豊富に保有しているイメージが強いディズニーだが、5万5000人のYouTuberを束ねるMakerStudiosを取り込むことで得られる膨大なコンテンツと、それを介してリーチできる全世界3億8000万人のユーザー(アクティブユーザーは月間2600万人)に、大きな魅力を感じたと言える。

MakerStudiosのパートナーにはディズニーやワーナー、ユニバーサル、ソニーピクチャーズといったコンテンツ企業のほか、ペプシやマテル、起亜自動車といったメーカー、ピュブリシス、マインドシェア、スターコム、AKQAといった広告関連企業も名を連ねる。

ターゲットにリーチするためのチャネル戦略は、パブリッシャーにとっても重要な視点だ。

「ターゲットが自社コンテンツに接触する場は、必ずしも自社のサイトである必要はない」という考え方が、大勢を占め始めている。極端な話、自社サイトがなくても、FacebookやTwitter、Pinterestといったさまざまなコンテンツ流通チャネルを活用することで、各チャネルの数百万のユーザー/フォロワーにコンテンツが届き、パブリッシャーはパブリッシャーとして成立する–この考え方を「分散型メディア」といい、それをいち早く実践しているのが『バズフィード』だ。

自社サイト単体でのインプレッションは4億回に留まるが、FacebookやTwitter、Pinterestといった各流通チャネルのインプレッションを合わせると計180億回にのぼるという。

広告・マーケティングの効果評価において、米国企業は販促的な指標よりも「ブランド価値指標」を重視するケースが多い、という榮枝氏の指摘にも触れておきたい。簡単に言えば、広告やマーケティング施策を打った際、コンバージョンはもちろん重要だが、KPIレベルに過ぎないのだ。

最終目標(KGI)としてのブランド価値の向上を考えることが、CMO・CEOが株主に対する答えとして求められる米国において、キャンペーン単体や販促資料での説明よりも、最終的なブランド資産がどれほど積み上がったか、という説明が求められる。

動画を活用したコミュニケーションの目的も、売上に直結させることより、ブランドへの理解や好意度を高めることに主眼を置く企業が多く、ゆえに「オンライン動画は、マス広告でアプローチできない層にリーチを広げるためではなく、コアターゲットのフリークエンシーを高めるために活用されるのが主流となっている」と榮枝氏は話す。

スポーツを中心とするコンテンツスポンサード市場は伸び続けている。
(C)Shutterstock

ブランド価値指標を重視する傾向は、米国企業によるコンテンツへのスポンサード活動が勢いを失っていないことからもうかがえる。

MLBやMBA、NHLといったスポーツを中心とするコンテンツスポンサード市場は、米国内で年率4%の成長を遂げており、マーケティング調査会社IEG Researchの発表によれば、2015年の市場規模は2.1億ドルにのぼる見込み。

データ偏重の広告・マーケティング業界にあって、効果を数値化するのが難しいスポンサード市場が活況を呈しているのは興味深い。

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