NPOが“攻めの広報”を実践するためのメールマーケティング

NPOをはじめとする非営利組織の最大の課題であるマーケティング・コミュニケーションは、どのように実践されるべきか。3人のプロたちが、具体的かつ実践的な手法をリレー形式で紹介する本コラム。第2回は、10年以上企業のマーケターとして活躍し、今年10月に“「社会を変える組織」をつくる”をミッションに掲げるPubliCoを設立した長浜洋二氏が、“攻めの広報”について語ります。

ソーシャルセクターにおける広報の限界

NPOをはじめとするソーシャルセクターでは、団体の存在や活動内容を伝えるための広報ツールとして、団体パンフレットやチラシなどの紙媒体や、団体HPやブログ、FacebookなどのWeb媒体が活用されています。企業セクターと比べると、活動地域が限定されていることや資金面、手軽さの観点から、団体の中でも比較的器用なスタッフがチラシを作成し、拠点や活動地域にある市民活動センターやボランティアセンターなどの中間支援組織に置いてもらい、イベントや講座の集客、会員やボランティアの募集、製品やサービスの販売などを行ってきました。実際に、今も昔も変わらず、NPO向けの「チラシのつくり方講座」なる講座が全国各地で人気を集めています。

こうしたチラシを中心とした広報は、それなりの効果は見込めるかもしれませんが、チラシの設置場所に来てくれた人が手にしてくれるまではその効果を発揮しません。つまり受け身の広報といえます。このことは、団体HPも同様でしょう。企業のようにWeb広告を出稿したりSEO対策を講じたりすることができるのは一部のNPOに限られており、HPをつくっても受け身のツールにならざるを得ません。さらには、昨今ソーシャルセクターにおいても積極的に活用されているソーシャルメディアには流行り廃りがあり、そもそも利用者が限定されていること、例えばFacebookは独自の仕様やアルゴリズムにより投稿した記事全てがファンにリーチしているわけではないことなど、限界があることを理解しておかなければなりません。

見込み客情報としてのメールアドレスの取得

こうした受け身でかつ不安定な要素を孕んだ広報から、攻めの広報に転じていくには、自団体でコントロールできる見込み客情報を蓄積し、情報発信をしていく必要性があります。自団体で見込み客に関する情報を保有し最新の状態に保ちながら、確実に情報を相手に届けることができる手段を確保するということです。一般的に、見込み客情報には、名前、住所、電話番号、会社名、性別、年齢などがありますが、Web上で最も簡単に取得でき、かつ永続的に活用できるものがメールアドレスです。

エクスペリアンジャパンの「メールマガジン受信者の実態調査レポート」によると、メールアドレスの保有状況はほぼ100%で、80%強が複数のアドレスを保有しています。理屈の上では、世の中のほぼ全ての人にリーチできるということです。さらに同レポートによると、商品やサービスの情報収集のきっかけ、購入や申し込みの検討、購入や申し込みの決め手のそれぞれで最も利用するメディアがメールである人は7割を超えており、LINE、Google+、Facebook、Twitterなどを大きく引き離しています。つまり、メールは単に情報を発信するだけのツールではなく、NPOにおける重要なコンバージョンである支援者の獲得(寄付や会員など)、商品やサービスの購入、イベント・講座への申し込みなどに活用できるツールであるということです。

NPOにとってのメールの有用性

特にNPOの場合は、常に経営リソースの不足に悩まされているため、自団体の存在や活動内容を確実に伝えることができ、かつ、継続的な関係性が構築できるコミュニケーションが不可欠です。メールの活用は、NPOに以下のようなメリットをもたらします。

(1)メールの配信は件数が増えても配信コストは比例して増えるわけではない

(2)それなりの文章力があれば誰でも作成が可能

(3)HTML形式ではなくテキスト形式のメールであれば高い制作技術は不要

(4)緊急支援が必要な時など、団体側の都合に合わせて即時に広報が可能

(5)NPOの活動は自分事化しにくい社会課題を対象にしているため「ステップメール」(※)が効果的

(※)1つのシナリオに基づいた複数回のメール配信を事前に用意すること

もちろんメールによる広報だけで団体全体のコミュニケーション戦略が完結するというわけではありません。団体HP、ブログ、ソーシャルメディアなどのWeb媒体、パンフレットやチラシ、ポスターなどの紙媒体との相互補完(クロスメディア)が必要です。メールの主たる役割は、あくまで団体HP内に用意された個々のコンテンツへの誘導であり、そこで意図したコンバージョンをしてもらうことがメールの最終的なゴールなのです。

メールマガジン成功の要素

メールを活用した広報戦略においては、団体が定期的に発行するメールマガジン(メールニュース)が中心的な役割を果たします。単なるメルマガの発行からメールマーケティングを実践するという発想への転換が必要です。詳細はまたの機会に譲りますが、以下のポイントを押さえながら、メールマーケティングを実践していきましょう。

【事前準備】

  • メールマガジン発行の狙いや目的の明確化
  • 継続的なメールアドレス(配信リスト)の獲得戦略の構築
  • 競合やベンチマーク対象団体のメルマガ利用実態の調査
  • コンテンツ構成やフォーマットの確定(テキスト/HTML形式)
  • 発信内容やタイミングなど他の広報ツールとの整合性の確認
  • 継続して開封してもらうための仕掛けづくり
  • 獲得したい成果や指標の設定(開封率、クリック数、コンバージョン数など)
  • 送信先の環境確認やスマホ対応

【配信方法】

  • 一定期間における配信回数(頻度)、配信曜日、時間帯の決定
  • セグメント配信のバリエーション決定(通常号と号外含む)
  • ABテストの実践

【クリエイティブ】

  • 魅力的な件名(30~35文字程度、数字情報や装飾文字の挿入など)
  • 適切な文量(最大100行程度)と改行(ホワイトスペース)の活用
  • 目次(Index)の設置
  • 冗長な表現の排除(箇条書き、ナンバリングの活用など)
  • 適度な飾り文字や罫線の活用
  • パーソナル感の醸成(冒頭挨拶や編集後記など)
  • 表記の統一ルール策定(こども/子ども/子供、平成27年/2015年など)
  • 適度なURLの配置

メールマガジンは自団体の活動やイベント情報、キャンペーン情報などを一方的に発信する媒体ではありません。NPOは、自分たちの活動を1人でも多くの人に知ってもらいたいという想いが強すぎるあまり、情報の受け手である受益者や支援者が自然なかたちで情報を受け止められるような文脈づくりまで意識できていないケースが多くみられます。

NPOにおけるマーケティングの実践とは、顧客である受益者や支援者を知り、そのニーズを見極め、他にはない自分たち独自の価値を提供することと心得ましょう。

マーケティング コミュニケーション実践論
マーケティング コミュニケーション実践論

■井出留美
office 3.11 代表取締役
青年海外協力隊時代に手書きで配信した「パル通信」、1305号配信した「広報室ニュースレター」など情報発信力が強み。NPOを様々な賞へ導いた実績や企業・NPOの広報室長などの経験を持つ。わかりやすい講演が好評、全国からの依頼は330回。外資系企業管理職から震災を機に退職、起業。メディア出演170回。博士(栄養学)。東京大学農学系(農学部・農学生命科学研究科)広報室会議オブザーバー。


■長浜洋二
PubliCo 代表取締役CEO
かわさき市民しきん評議員/シャンティ国際ボランティア会戦略アドバイザー/NPO法人CRファクトリー コミュニティ・マネジメント・ラボフェロー
1969年山口県生まれ。米国ピッツバーグ大学公共政策大学院(公共経営学修士号)卒。NTT、マツダ、富士通でマーケティング業務に携わる一方、米国の非営利シンクタンクにて個人情報保護に関する法制度の調査・研究、ファンドレイジング、ロビイングなどの経験を持つ。著書に『NPOのためのマーケティング講座』。

■鎌倉幸子
(シャンティ国際ボランティア会 広報課長補佐/認定ファンドレイザー)
青森県弘前市生まれ。アメリカ・ヴァーモント州にあるSchool for International Trainingで異文化経営学の修士号を取得。1999年、シャンティ国際ボランティア会にカンボジア事務所図書館事業課コーディネーターとして現地赴任。2011年に同団体の広報課に異動。広報の仕事と兼務しながら東日本大震災後、岩手県での移動図書館プロジェクトの立ち上げを行なう。著書に『走れ!移動図書館』(ちくまプリマー新書)。

マーケティング コミュニケーション実践論

■井出留美
office 3.11 代表取締役
青年海外協力隊時代に手書きで配信した「パル通信」、1305号配信した「広報室ニュースレター」など情報発信力が強み。NPOを様々な賞へ導いた実績や企業・NPOの広報室長などの経験を持つ。わかりやすい講演が好評、全国からの依頼は330回。外資系企業管理職から震災を機に退職、起業。メディア出演170回。博士(栄養学)。東京大学農学系(農学部・農学生命科学研究科)広報室会議オブザーバー。


■長浜洋二
PubliCo 代表取締役CEO
かわさき市民しきん評議員/シャンティ国際ボランティア会戦略アドバイザー/NPO法人CRファクトリー コミュニティ・マネジメント・ラボフェロー
1969年山口県生まれ。米国ピッツバーグ大学公共政策大学院(公共経営学修士号)卒。NTT、マツダ、富士通でマーケティング業務に携わる一方、米国の非営利シンクタンクにて個人情報保護に関する法制度の調査・研究、ファンドレイジング、ロビイングなどの経験を持つ。著書に『NPOのためのマーケティング講座』。

■鎌倉幸子
(シャンティ国際ボランティア会 広報課長補佐/認定ファンドレイザー)
青森県弘前市生まれ。アメリカ・ヴァーモント州にあるSchool for International Trainingで異文化経営学の修士号を取得。1999年、シャンティ国際ボランティア会にカンボジア事務所図書館事業課コーディネーターとして現地赴任。2011年に同団体の広報課に異動。広報の仕事と兼務しながら東日本大震災後、岩手県での移動図書館プロジェクトの立ち上げを行なう。著書に『走れ!移動図書館』(ちくまプリマー新書)。

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