ドイツで考えさせられたジャーナリズム
もともと野球好きだったのですが、あるとき、1996年のアトランタ・オリンピックの記事を大学の図書館で読んだんです。スポーツライターの金子達仁さんが『Number』で書いていた「叫び」と「断層」という記事でした。「マイアミの奇跡」の舞台裏で起こっていたチーム内の軋轢が描かれていて、その記事を読んだことが、サッカーについて書く仕事に興味を持ったきっかけですね。
当時は大学で物理の勉強をしていて、現在のようなライターになることは、まるで考えていませんでした。転機になったのは、大学院在籍中に金子さんが主催する「スポーツライター養成講座・金子塾」に参加したこと。そこでサッカーを書くことにハマり、2002年の日韓ワールドカップ前、金子さんが、前回大会の開催地フランスから日本代表の対戦国であるベルギー、チュニジア、ロシアをキャンピングカーでまわって日本を目指す旅を企画し、その仕切りを任されました。
そして旅の最後の夜、お前には世話になったから一つだけ願いごとを叶えてやると、金子さんに言われたんです。次の言葉を待っていたら「(2006年W杯の開催地である)ドイツに行ってみろよ。そこに行けば仕事はあるはずだし、アパート代とか語学学校の費用は払ってやるから」と言われ、「行きます」と。
ドイツでは、当時ハンブルガー SVに移籍してきた高原直泰選手の通信員をさせてもらい、サッカー選手とは何かを教えてもらいました。ただ、高原選手は日本代表のなかでも中田英寿選手と並んでメディアに対して“しゃべらない”選手だったので、最初は距離を縮めるのが大変でしたね。
ドイツで考えさせられたのは、「ジャーナリズムとは何か」ということです。欧州の記者はとにかく図々しい。読者が知る権利を強く信じていて、嫌な質問も果敢に選手にぶつけます。日本の記者は選手に対して下手に出てしまいがちですが、彼らの意識に上下関係なんてない。選手の言い分を書くだけでは広報になってしまう。ストーリーテラーとしてライティングをするだけなのか、それとも踏み込んで戦うのか。第4の権力と言われるメディアの使命を考えているんだなと思いました。
そのことを自分自身、痛感したのが、2006年のドイツW杯です。チームがバラバラになってしまい、結果はグループリーグ敗退に終わりました。実は高原選手から日本代表の問題点は聞いていたんです。でも書けなかったし、それはメディアのスタンスとしてどうだったんだろうと。W杯は記者を狂わせるようなところがあって、僕も相当悔しかった。それで、もう業界から干されてもいいという覚悟で書いたのが、『敗因と』でした。いま体当たり取材ができるのは、そうした経験が根っこにあるからです。
「『編集会議』の裏側」バックナンバー
- 雑誌不況下でも絶好調、111年の歴史を持つ『婦人画報』のコンテンツ戦略論(2016/12/14)
- 「Yahoo!ニュース 個人」、2016年のベストオーサーに湯浅誠氏(2016/12/07)
- BuzzFeed 鳴海淳義氏が解説「Web記事はタイトルが9割」(2016/12/07)
- お金を払うからには精度を求める、だからこそ「校閲者」は不可欠な存在(2016/12/03)
- 「原稿」は編集者の手を介することで「記事」になる(2016/12/02)
- 紙からWebメディアに移籍した記者の告白「ソニー凋落を機に考えた“辞める日”」(2016/12/01)
- 書き手は、最初と最後の一文にすべてをかけよ(2016/11/15)
- 本職の校閲者から見た「校閲ガール・河野悦子」とは?(2016/11/10)
新着CM
-
AD
宣伝会議
【広報部対象】旭化成のグローバル社内イベント成功事例を紹介
-
販売促進
ニベア花王、駅構内で化粧品が買える自販機 旅行客の忘れ物需要に応える
-
広告にあふれる「家族」。そして「かぞく」。(太田恵美)コピー年鑑2023より
-
AD
マーケティング
さまざまな視点からのマーケティング戦略で売上アップへ
-
クリエイティブ
ファンケルが30歳前後向けシリーズ発売、杉咲花がCMで「一人十色」表現
-
販売促進
「本気になると、人は白目になる。」 『花とゆめ』創刊 50周年 少女まんがのコピ...
-
クリエイティブ
コピーライターとしての現在地を教えてくれる「地図」―『広告コピーってこう書くんだ...
-
特集
「宣伝会議賞」特集
-
販売促進
伊藤園、「お~いお茶」の博物館オープン 35年の歴史とこだわりを公開