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コラム

『編集会議』の裏側

3週間の密着取材で得られたのは「たったの一言」 本田圭佑選手の取材の舞台裏

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「オレのコメントなしの記事、楽しみにしてるよ」

『Number』での本田圭佑選手への直撃シリーズは、2010年の南アフリカW杯後にスタートしました。シリーズ第1回は2010年8月。W杯直後だったこともあって、本田選手ははじめ「W杯のことは話さへんよ」と言っていたのですが、「それは勝ち逃げだ」などと言って粘りに粘り(笑)、ようやく少しずつ話し始めてくれて。それから、ロシアに20回近く足を運ぶシリーズが始まるわけです。

3週間ロシアに滞在しても、わずか一言のコメントしかもらえないということもありました。2013年6月発売の号で本田選手の特集をするということで、3週間の密着取材のはずだったんです。それが、いまはしゃべる時期ではないという理由で、全然話してくれない。滞在の終盤、クラブハウスの外で待っていたら、本田選手が車で出てきて、僕の目の前で止まったんです。

ウインドウがゆっくり下がって顔を出すと、「オレのコメントなしの記事、楽しみにしてるよ」と言い放ち、その場を去っていきました(笑)。

結局その一言のコメントだけで、4ページ分の原稿を書きました。その後、日本に帰国したときにその特集号を買ってくれたみたいで、本田選手のトレーナーから電話がかかってきたんです。僕へのメッセージとして、本田選手が「オレのコメントないのに、やるやんけ」と言っていたと。そうした瞬間はやはり嬉しいですね。

僕は、“知りたい”“解き明かしたい”というのが根源的な欲求としてあるんです。そこで大事になってくるのが、何を知りたいのかということ。金子塾では、書き手の熱がなければ面白くないし、骨がないと原稿として成り立たないという、“熱”と“骨”の重要性を学びました。その骨をつくるために、何を知りたいかという疑問を設定することが大事で、それは常に意識しています。

2014年からは、NewsPicks編集部でスポーツ担当の仕事もしています。編集者の面白さは、あらゆるスポーツの専門家やスポーツビジネスのプロが集まってくるなかで、プロデューサー的な役割を担えること。ライターであれば広がらなかった分野の知識や人とのつながりも増え、勉強になっています。

メディア業界の再編が進むなかで、NewsPicksが存在感のあるメディアに成長する手伝いができれば、というのが短期的な目標です。ただ、将来的には書き手一本に戻ろうと考えています。

本記事は、『編集会議』2015年秋号に掲載されたものです。『編集会議』2016年秋号(最新号)も好評発売中です!



スポーツライター 木崎伸也
1975年東京都生まれ。中央大卒。2002年7月にオランダに渡り、2003年1月からドイツへ。スポニチの通信員として日本人選手を取材しながらNumberなどに寄稿。2009年1月に帰国し、現在はNewsPicksのスポーツ担当として新メディアのビジネス化に挑戦している。著書に『サッカーの見方は1日で変えられる』(東洋経済新報社)など。

『サッカーの見方は1日で変えられる』(東洋経済新報社)

指導者たちに取材して知った内容を、体系化することに挑戦した本。執筆に3年かかった。サッカーの見方に注目した本はなかったため、ロングセラーとなり10刷り越え。