宇多田ヒカルの最新アルバムをヒットさせた「マーケティング戦略」の裏側

「宣伝会議サミット2016」が11月17日、ANAインターコンチネンタルホテル東京にて開催され、マーケティング担当者の課題解決に役立つ最新事例や手法を紹介する講演が行われた。本記事では注目企業のキーパーソンによって行われた講演の一部をレポートする。

講演者
ユニバーサル ミュージック合同会社 Virgin Music プロダクトマネジメント本部 部長プロデューサー 梶 望 氏

私は宇多田ヒカルをデビュー前から宣伝面でサポートしています。代表作は、国内外で1000万枚売れ、1999年に日本記録を樹立したアルバム「First Love」や、当時800万DLという世界記録を達成した「Flaver Of Life」です。また最近は、CMソングとして有名なAIの「ハピネス」や、売上10万枚を達成した今井美樹のベスト盤「Premium Ivory」、映画『ONE PIECE』の主題歌を歌うGLIM SPANKYなども担当しています。

ユニバーサル ミュージック合同会社
Virgin Music プロダクトマネジメント本部 部長プロデューサー
梶 望 氏

昨今、マーケティングを行う上で顕著に感じるのは、ガラケー世代とスマホネイティブ世代のコミュニケーションの違いです。CDをコレクションし、マスメディア上の情報を信頼しているガラケー世代に対し、スマホネイティブ世代はインターネットにアクセスして音楽を聴き、多くの人にシェアされた情報を信用します。

また、YouTubeやソーシャルゲームなど、さまざまなエンターテインメントが開発され、世代に関わらず音楽に費やされる時間が極めて少なくなりました。関心を持ってもらえない限り、新たなビジネスは生まれません。音楽業界は今、危機感を抱いています。

一部のアーティストは握手券などの特典を封入したCDを販売しています。またフジロックやサマーソニックなどの音楽フェスも盛り上がりを見せています。どちらも時間に対して価値を提供し、ビジネスとして成功したのです。しかし、私が担当する宇多田ヒカルはフェスや握手会には参加せず、CDへの特典封入も行わないアーティストです。いわゆる録音物を購入していただかない限り、ビジネスとして成り立たないのです。

そこで私が考えたのは、「音源そのものの時間的価値を上げる」という手法でした。今年9月28日にリリースしたアルバム「Fantôme」を発売するにあたり、6年半ぶりに活動を再開した宇多田にアルバムコンセプトを尋ねました。彼女が語ったのは「声と歌詞にフォーカスをあてた邦楽作品をつくりたい」という言葉。それを出発点に、アーティスト本人ではなく、楽曲の世界観でもなく、声と歌詞を届けるための施策で彼女の再始動をスタートさせました。

テレビ番組・CMとのタイアップや、歌詞を掲載したWebサイトの開設など、数々のプロモーションを行うなかで常に気を付けていたのは、ユーザー自身に情報をシェアしてもらい、語ってもらうことです。新曲披露と同時に全貌を明かすのではなく、情報を小出しにして、タイムラインの中に「宇多田ヒカル」「Fantôme」というキーワードを滞留させ、ピックアップされるチャンスを意図的に増やしました。

また今年、宇多田ヒカルの姿が世の中に初公開された『花束を君に』のPVは奇をてらうのではなく、セルフィーを使用しているかのような映像で親近感を出し、ファンとの距離を縮めました。

さらに終盤、宇多田本人がテレビ番組の中で「実は亡くなった母親を想ってつくった」という事実を赤裸々に語り、ストーリーは完結しました。単に情報を小出しにしたり、親近感のあるコンテンツをつくったりするだけではなく、このように、まず作品にフォーカスを当てながらスタートし、最終的に本人が本音を語ることによって完結させるという文脈があったからこそ、バズを生成することができたのです。

まずは中長期的なビジョンで文脈をつくり、どのタイミングでどのように情報を出し、ユーザーに何を語らせるかを考える。それが、情報を伝達する際に最も重要なポイントだと思います。


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