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プロジェクトはそもそも計画通りにいかないようにできている!?

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プロジェクトの進行管理ツール「プ譜」

概要に入る前に、みなさんはプロジェクトの進行状況をどのようなツールを使って把握・共有していますか?

新規事業であれば、事業計画書を。システム開発であれば、WBSを。それぞれプロジェクト開始前に書いていることと思います。プロジェクトが始まれば、ガントチャートやタスクリストを使い、タスクが適切に処理され、スケジュール通りに進んでいるかを確認していることでしょう。定例会議では議事録をとったり、SFAで営業状況を共有したりしているのではないでしょうか。

プロジェクト管理にはスケジュール表の作成、コミュニケーション、営業などの様々な方法がありますが、プロジェクトが進むことによる内外の状況や関係性の変化、意思決定のプロセスを可視化し、共有していくためのツールはありません。

プ譜は、工学の三要素である観測、記述、制御にのっとった、プロジェクトのための「エディティング(編集的)ツール」であり、「時系列的な遷移も含め、逐次変化するプロジェクトの状況・全体像を可視化するための記述方法」です。

まずは、下記の図をご覧下さい。

①「勝利条件」とはプロジェクトを成功させるための条件であり、単に「(プロジェクトの)ゴール」と捉えても構いません。この勝利条件を満たすため、自身に与えられたリソースが④「廟算八要素」です。要素には、「メンバー/人材」、「予算規模」、「納期/リードタイム」、「クオリティ/機能」、「ビジネスモデル」、「環境」、「競合」、「外敵」があります。廟算(びょうさん)とは、古代中国で戦争を始める前の作戦会議のことです。

廟とは祖先を祭る霊廟のことで、戦争の作戦会議は廟の前で行われていたことから、プロジェクトを行うための諸要素・条件を表す概念として使っています。プロジェクトは、この廟算八要素から出発してゴールに向かっていくわけですが、いきなりゴールにたどり着くことはできません。②「中間目的」はゴールを達成するために細分化された目的です。プロジェクトマネジメントの経験が長い方には、CSF(主要成功要因)と読み換えて頂いても結構です。そしてこの中間目的を達成するために、③個々の「施策」があります。

プ譜を使用してプロジェクトを進めていく上では、最初に「勝利条件」、「廟算八要素」、「中間目的」、「施策」の四つを記述し、これをスタート(つまり、第一局面)とします。

プ譜は一枚では終わりません。一局面一シートとし、プロジェクトがスタートした後、実際に施策を行った結果についても記述しなければなりません。それが「事象」です。施策を行った結果、どのような反応が見込客からあったか。新しい技術を使ってみた結果、どのようなフィードバックが返ってきたか。

プロジェクト工学の第二法則で述べているように、「プロジェクトにおいては、こうあれかしと考えて立案した施策が、想定を超えた結果をもたらす」ことがある以上、こうした情報を記録しておく必要があり、それをどのように受け止め、吟味・評価し、どのような対策を講じるのか、そのまま進めるのか、はたまたその施策は中止するのかといったことを考えなければなりません。この事象の記述が第二局面であり、その事象に応じた中間目的や施策の変更の決定が第三局面となります。

プ譜は、これまでプロジェクトマネージャーが頭の中で処理していた上述の思考プロセスを外在化させたものであり、そのメリットには大きく次の3つがあります。

  1. 認知リソースを低減させることができる。
  2. プロジェクトの状況や環境の変化がわかり、勝利条件や施策のツジツマが合っているかがわかる。
  3. プロジェクトメンバーとプロジェクトのイメージや筋書きを共有することができる。

本稿ではプ譜の概念とメリットについて紹介しましたが、書籍では、具体的な新規事業をケーススタディとして、第一局面から複数局面までのプ譜の書き方を解説しています。

また、想定外の事象に遭遇した時、その情報をどのように受け止め、プロジェクトを進めるための素材や機会として活用していくかといったことを、認知科学や生態心理学、編集工学の概念を借りながら、プロジェクトマネジメント未経験の方にとっても、興味を持って読んで頂けるようにしています。

また、2016年に大ヒットした映画『シン・ゴジラ』を題材にしたプ譜も掲載しており、話題となった作戦シーンをプ譜化することで、プロジェクトのプロセスを可視化するメリットを体験できるようにしています。

本書が提示する方法論は筆者らだけの経験に拠ったものではありません。これまで、企業研修や個人コンサルを通じてプ譜の制作とプ譜を用いたプロジェクトマネジメント支援を行っている他、ドコモ・イノベーションビレッジで定期的に勉強会を開催しており、そこで得られた教訓なども掲載しています。勉強会はこれまで5回開催し、200名を超える情報通信、金融、保険、EC、電機メーカー、自動車・自動車部品メーカー、webメディア、人材派遣、特許事務所、出版、システム開発、ゲーム開発、デザイン、建築、まちづくり、飲食など、様々な業界のプロジェクトマネージャー、現場リーダーがワークショップを体験してきました。

どの業界も、既存のビジネスモデルや価値観が通じなくなり、新規事業などに独自で取り組んだり、ベンチャー企業と提携したりして、様々なプロジェクトを興しています。

アドタイ読者には、広告ビジネスに関わる方が多いかもしれません。広告ビジネスは新しいテクノロジーを使用したり、表現を追求したり、複数の人が絡む仕事としてプロジェクト的ではありますが、単発的・キャンペーン的なものが多いため、プ譜を用いてプロジェクトのプロセスを可視化・共有する必然性は少ないかも知れません。

しかし、広告代理店がデジタルマーケティングの支援に乗り出したり、制作会社が自社メディアや自社サービスを立ち上げたりというように、より長期的なプロジェクトに取り組む機会は確実に増えています。そして、プロジェクトマネジメントに関する教育や指導を受けてきていない方が、ある日とつぜんプロジェクトマネージャーとなる可能性は高まっています。

本書は、今まさにプロジェクトマネージャーであったり新規事業の推進リーダーになったりしている方はもちろん、プロジェクトメンバーである方々にも、プロジェクトを進めるための確かな方法論とフレームワークを提供しています。

刊行後は本書購入者の方を対象にしたワークショップも開催しています。ぜひ本書を手に取って頂き、みなさんのプロジェクトを進めていくための議論・創発の場にお越し下さい。


書籍案内
予定通り進まないプロジェクトの進め方』(3月29日発売)
ルーティンではない、すなわち「予定通り進まない」すべての仕事は、プロジェクトであると言うことができます。本書では、それを「管理」するのではなく「編集」するスキルを身につけることによって、成功に導く方法を解き明かします。