自分の演技をリセットして臨んだ映画『万引き家族』
中村:役柄に入り込むときに、他の人はやってないかもしれないことをやったりするんですか? 異常な演技のうまさを感じてしまうので。
松岡:特別なことはやってないと思います。でも、何が特別かわからないんですけど、小学校のときから習っているお芝居の先生がいるので、その人のメソッド的なものが根本にあると思います。そこからどうやればいいか、自分で模索してきたと思います。
中村:素人にはわからないんですけど、日常の中でその子になりきって生活してみるなど、そういうことなんですか?
松岡:いや・・・ないですね、それは。
中村:基本的にはメソッドがあって、脚本を読んで、スッと入るという?
松岡:そんなにかっこいいことではないんですけど、誰よりも彼女を愛そうとは毎回思ってます。監督よりも脚本家さんよりも、おこがましいけど、私が一番好きで、味方でいようって思います。その子の声がどこかにあるはずだから。
権八:わからないですね。お芝居って普段我々はしてないから、憑依するというか。上手な人はいろいろな役が来るだろうし、その都度どういう風に演じ分けているのか。特に若くて上手な子は不思議ですよね。なんでできるの?って思っちゃう。
澤本:確かに僕ら言う側は簡単で、「もうちょっと自然にやってください」って言うわけですよ。でも、僕らが急にカメラを向けられて「何か演技しろ」と言われたら、どれぐらいが自然なのかわからないもんね。
中村:もっと自然にやってくれと言われても。
澤本:自然にすると下手くそと思っちゃうもんね。
権八:つい言っちゃうね。もうちょっと自然に、ナチュラルにって。
松岡:でも、明確なものを言っていただけるのはこちらもうれしいと思います。もうちょっとフワッと、キリッとというと、ナチュラルなキリッとか、映像の嘘を使ったキリッとさなのかとなるので、具体名が出ると「なるほど」となります。
権八:賢いね。
澤本:人に説明するときの言葉の選び方が適切だよね。漠然とした「いいですね」じゃなくて。
権八:松岡さんはどうやって育ったのという。育ちがよさそうだよね。
松岡:うれしいです。ご飯を食べるときは手を添えなさいと習いながら育ちました(笑)。
権八:でも、そういうことだったりするじゃない。育ちがいいって、お金持ちじゃなくて、親から愛されて育っただろうなと。
澤本:ね、教育がちゃんとされている感じがしますよね。
松岡:うれしい、両親が喜びます。こじつけるわけではないんですが、家族と役というテーマでは、6月に是枝(裕和)監督の『万引き家族』という作品が公開されます。私が今まで15年間、特にここ何年かで思って来たこうあるべき、こうしないと自分はこうなれないみたいなジンクスを全て手放して、スーパーゼロで挑んだ作品です。とにかくOKが出なかったんですね。自分が今までやってきたことをやると。
権八:へー!
松岡:どうしようと思ったときに全部辞めてみようと思って、やっぱり固定概念というか、こうしなきゃ自分はこう思えない、ここでこっちに目線をやらないとこれを確認できないという、やらしい考えを全て捨ててやったら初めてOKが出て。
よく先輩方から「結局、役というのは自分だから、自分の意地悪な部分を伸ばしたり縮めたり」という話を聞いたとき、私は外につくってそれを入れるものだと思ってたんです。被るもの、着ぐるみに入るという感覚ですね。でも、そうじゃなくて、自分の中からしか出ないんだ、そういえばそうかと初めて思えた作品です。家族をテーマにした作品ですが、どうかアスファルトの都会の方々には見ていただきたいです。
澤本:すごいタイトルだよね。『万引き家族』って。
松岡:タイトルが決まったときはビックリしました。
澤本:これは原作があるんですか?
松岡:ないんです。ついこの間まで違うタイトルでした。カッコ仮で。決まったときはおーってなりました。ビックリするタイトルですよね。
権八:万引きする家族じゃないの?
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