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羽生選手のプレゼンが、人を動かす理由 — 何を語るかを周到に準備せよ

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緊張して話せるのは才能である』大事なプレゼンの前に読みたい、緊張の取り扱い説明書!

男子フィギュアシングルで冬季オリンピック2連覇を達成し、世界最強の座を維持する羽生結弦選手。実は素晴らしいのは技術だけではない。「自分の言葉」を持っていることだ。
緊張して話せるのは才能である』の著者、トップ・プレゼン・コンサルタントの永井千佳氏は、「“何を語るか”を周到に準備している羽生選手からは、ビジネスでも学べることが多い」という。

記者会見での羽生結弦選手(写真:AFP=時事)

羽生選手は、羽生語=「決め台詞」を持っている

羽生選手は “何を語るか” を周到に準備しています。ビジネスのプレゼンでも参考になります。

羽生選手は、「王者になる」「アクセルは王様のジャンプ」「僕は勝ちたい」といった、羽生選手の生き様や哲学などが反映された「羽生語」を持っています。あちこちで繰り返し話すことで、訴求力が高まり、注目されていくのです。

〔羽生語いろいろ〕
1.「アクセルは王様のジャンプ」
→アクセルにこだわる羽生選手ならではの言葉。

2.「王者になる。まずそう口に出して、自分の言葉にガーッと追いつけばいい」
→一番にこだわる。

3.「僕は勝ちたい」
→「『いい演技をするのが目標』なんて謙遜する選手が多いけど、完璧な演技で負けたら屈辱的でしょ! 僕は勝ちたい」とも言っている。あくまで勝負にこだわる。

4.「王者に勝てば自分が王者。だからまねして滑ったんです」(パトリック・チャンと一緒の練習で)
→プライドより勝負に価値を置く姿勢。

5.「ほんとのほんとの気持ちは嫌われたくない」「僕がしゃべったこと、僕のつくってきた歴史は、何一つ変わらない」
→このときメディアで叩かれていました。本当は嫌われたくないけれど、自分の意思は通しますよという気持ちを自分なりの言葉で示している。

なぜ羽生語のような「決め台詞」が良いのでしょうか?
それは、メディアにとって、「羽生選手の決め台詞は、使える」からです。訴求力の高い言葉を使えば、そのまま記事になるので取材の対象になりやすいのです。もし計算してやっているとしたら、羽生選手恐るべしです。

この方法は皆さんも社内で使えます。多くの人がプレゼン資料を作るのに精一杯で、決め台詞を考えていません。この機会に、ぜひ考えてみてください。決め台詞を繰り返せば、聞いた人は他人に言いたくなるのです。社内で「〇〇〇と言えばこの人」となります。決め台詞をプレゼンで使えば、あなたの言った言葉が聴き手に強く記憶され、ビジネスに結びつくのです。

語り部の能力

昔、語り部という人が日本にはいました。語り部が話す面白いお話は、何百年と語り継がれて、「日本昔話」のような物語になって残っています。羽生選手には、この語り部の能力があります。

記者に「足の怪我は大丈夫ですか?」と聞かれて、普通のスポーツ選手なら「はい、大丈夫です!」とか、「リハビリ頑張ります!」とハキハキ答えるのが一般的です。羽生選手の場合は、「痛み止めを飲まないとジャンプが降りられるような状態ではない。跳べるような状態ではない。正直言って……」と、とうとうと語り始めた場面がありました。

羽生選手は、物語を語る高い能力も持っています。自分の言葉で「自分の物語」を人に伝え、人の心を動かすのです。これは、リーダーとして大事な資質です。羽生選手が将来その資質を活かせば、引退後も世界的に影響力のある存在になっていくのではないでしょうか。

一般的なスケート選手は氷上では素晴らしいのに、話し出すと「『あれっ?』な人」が多いものです。羽生選手は、普通のスポーツ選手と違います。「何が何でも頑張ります」「絶対、金とります」といった『単細胞言語』を使いません。羽生選手を見る限り、思いつきで話している内容ではありません。事前に、“何を語るか”を周到に準備していることが分かります。自分の物語を持ち、それを常に考え抜き、自分の言葉で語る能力がある。それが羽生選手の強みです。他の人はここまでしません。その場の思いつきで語る「言葉の自転車操業」をする人が多いのです。

準備するだけで、結果は大きく違ってきます。

人は、物語で動く。

それがプレゼンの神髄なのです。

次ページ 「バリュープロポジションを考え抜け」へ続く