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広報担当者の「学び直し」の意義 変化する時代のリカレント教育

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橋本 純次(社会情報大学院大学 広報・情報研究科 専任講師)

人生100年時代において、リカレント教育(社会人の学び直し)が注目を集めている。日々変わる社会環境において、広報担当者に求められる「学び直し」とは。広報・PRのプロフェッショナルを養成する国内唯一の専門職大学院「社会情報大学院大学 広報・情報研究科」の修了生の経験から紐解いてみたい。

入学の動機

広報・情報研究科の学生、言い換えれば、広報の専門家を目指す社会人は、なにを求めて学びの扉を叩いたのだろうか。IT企業で社内広報業務に従事していた下瀬貴子氏は「キャリアアップのため」、地方で6次産業の専門家として活躍する川村結里子氏は「仕事のなかで広報の力が求められていることを感じた」ことを入学の動機として挙げている。一方で、広告会社に長く勤務する津田 亮氏は「広報について体系的に学び、テーマを決めて研究すること」を、新聞社に勤める杉野真介氏は、「コミュニケーションやメディアのあり方について腰を据えて学ぶこと」を期待して入学を決意した。

本稿では、この4名の社会人学生としての経験をもとに、広報担当者が「学び直す」ことにいかなる意義があるか、考えてみたい。

修了生(2期生)によるオンライン座談会を実施。
左上から杉野 真介氏、津田 亮氏(左下)、下瀬 貴子氏(右上)、川村 結里子氏(右下)。

印象に残っている授業

広報・情報研究科は、広報担当者の仕事を「社会動向に基づいて企業の理念を理解し」、「それを適切なコミュニケーション戦略により社会と共有する」という2段階に整理しており、それぞれに対応する科目を設置している。そのなかで学生は自身の興味関心に応じて履修する科目を選択していく。

たとえば、地方でのコミュニケーション戦略を考えるための科目を中心に履修した川村氏は、「アカデミックな部分でコミュニケーションについて考える『情報・文化・コミュニケーション』が興味深かったですね。あとは『自治体経営とコミュニケーション』という授業で、実際に自治体に対して政策提言をさせていただく機会があったのも印象的でした」と振り返る。

下瀬氏は、自身の業務との関連性の高い「インターナル・コミュニケーション」や「組織論」の授業が印象に残っているという。「仕事をしていると他社の方と情報交換をする機会というのは多くないので、そこで学んだ具体的な企業の課題や事例が実務に生かせています」というのがその理由である。

すなわち、広報担当者の学び直しにおいては、広報実務に関連する事柄を体系的に学ぶことと、アカデミックな視点から広報やコミュニケーションを見つめ直すことの両者をバランス良く学修することが効果的であるといえる。

広報担当者の「研究」

広報・情報研究科では、2年間の学修の集大成として、修士論文に相当する「研究成果報告書」を作成する。学生は、日々の業務で直面する課題や今後取り組みたいテーマについて研究を進めることになる。

杉野氏は、自社におけるインタビュー調査から、送り手の価値観や情報の伝え方に関する意識を探っていった。同研究は、情報環境が変化するなかで新聞社の仕事がどうあるべきか考えるための提言につながったという。

合併企業同士の企業文化の融合をマネジメントする方法について研究した津田氏は、「話せる内容の深みが出たというのもありますし、事例の引き出しも非常に増えて、具体的にお客さまとお話しできるようになりました」と、専門家としての自信を覗かせる。

下瀬氏と川村氏はそれぞれ、「企業文化を変革するためのコミュニケーション」、「変革を生むための創造的な学びを実現するためのコミュニケーション」について探究した。コミュニケーション戦略や対話の重要性は常に指摘されているが、研究を通じてそうした価値に真っ向から取り組み、自社や自身の業務を改善するための具体的な施策へと落とし込んだ点で、いずれもきわめて独創的な研究であるといえる。

ここで重要なのは、こうした研究がアカデミックな視点や方法によるものでありながらも、あくまでも実務・ビジネス・収益性といった観点を念頭に置いている点である。専門職大学院たる広報・情報研究科には、広報に関連する多様な領域で活躍する「実務家教員」が多く在籍している。そのため、彼らによる指導を通じて、研究成果の実現可能性や持続可能性が担保されることになる。

大学院での「学び直し」

多様な主体が広報の学びを提供するなかで、2年間の修士課程にはどのような意義があるのだろうか。この点について津田氏は「社会人になってから、利害関係のない仲間がこれだけ一緒に過ごすというのはなかなか得がたい機会で、こういった環境は本当に重要だと思います」と述懐する。川村氏も同様に、「先生もそうですし、クラスメイトもそうですが、絶対ここに飛び込まなかったら得られなかったつながりが得られた」ことを振り返る。

杉野氏は2年間の学修を通じて「自分の興味のある分野の何がわかっていないのかがわかったところがとても大きい」と、さらなる学びへの意欲を燃やす。また、「自分の仕事の価値がわからず、もやもやしていたときに入学した」という下瀬氏は、授業や研究を通じて広報業務の価値や面白さを再確認し、キャリアに前向きになることができたという。

組織において広報機能が細分化されている状況だからこそ、また、他の組織が行う実践に目を向ける時間的余裕がないからこそ、社会の変化やコミュニケーションのあり方を探究し、広報の意義を再確認することの重要性が高まっている。広報担当者にとって必要な学びの第一歩は、そのなかにある。