マーケティングの4Pすべてが流動化する時代の広告ビジネス(前篇) 安藤元博×音部大輔

消費者のパーセプション(認識)の変化に着目してマーケティング活動を設計する「パーセプションフロー・モデル」について解説した著書『The Art of Marketing マーケティングの技法』を刊行した音部大輔氏。

企業と生活者が常時接続する時代に、広告枠のモノ取引的な側面から進化をし、広告主が求める効果をサービスとして提供する「Advertising as a service」(AaaS)という概念を提唱する著書『広告ビジネスは、変われるか?―テクノロジー・マーケティング・メディアのこれから』を刊行した安藤元博氏。

「パーセプションフロー・モデル」と「AaaS」は相性が良いのではないか?と考える安藤氏が聞き手となって、両者の接点を導き出していきます。

音部氏が考える消費者のパーセプションに着目したマーケティング活動を実践するうえでは、広告をはじめとするマーケティング活動の受け手である生活者のフィードバックを得ながら進化をさせていく必要があります。それでは、企業と生活者の間に入る広告会社・メディアはどのような役割を果たしていけばよいのでしょうか。両社の対話から、マーケティング活動において、重要な顧客との接点となる広告や広告ビジネスの在り方を考えていきます(本文中・敬称略)。

なぜかメディア先行で進んでしまう、マーケティング・コミュニケーション

安藤:音部さんはマーケティングレイヤーにおける全体最適の考え方を『The Art of Marketing―マーケティングの技法』で、「パーセプションフロー・モデル」として提唱されています。

私が『広告ビジネスは、変われるか?―テクノロジー・マーケティング・メディアのこれから』で伝えたかったことは、音部さんが対象とされている、マーケティング全体よりも狭いというか異なるというか。広告・メディアという領域に絞って、全体最適を実現するための設計図を提示することでした。

音部:安藤さんのご著書の中では、たびたび全体最適の必要性が提示されていますね。またマーケティングの中でも広告に限定すると、コンテンツとメディアの分断が全体最適を阻んでいると考えました。

例えば「お客さまがInstagramで商品を知って購入した」という情報を聞くと、「それでは、Instagramで広告を出しましょう!」という発想になりがちです。なぜ、このように広告活動においては、ツールであるメディア先行で考えてしまうのでしょうか。

これは不思議な状況です。私たちの日常に置き換えると、「お肉が好きな友人に、お中元にローストビーフを贈ろう」、「冷蔵品だから、クール宅急便を使う必要があるな」という順番で考えるはず。でも、先のInstagramの広告のケースのようなものは、「よ~し、クール宅急便で送るぞ」「じゃあ、誰に何を送ろうか?」みたいな順番で考えているに等しいと思うのです。

よく、マーケティングの現場で「今回、発売する新商品はテレビを使うことにしました」というセリフがよく出てきませんか?

安藤:出てきますね。当然ながら、マーケティング活動の目的・戦略に従属する手段としてメディアがあるはずです。たとえば「テレビCMを打つ」ということが先に決まっていて、後付けで「では、何をするか?」を考えるのは順番として全くおかしいと思います。

でも、音部さんがおっしゃるようにマーケティングの実務の現場では「テレビを打つこと」とか「デジタル広告を打つこと」は「決まっています」から話が始まってしまうことも多いですよね。マーケティング戦略に従属して広告メディアプラニング、バイイングがついてくるはずであるにもかかわらず、です。

異なる商習慣で動く、メディアのプラニングとバイイング

安藤:ここで、音部さんの指摘をちょっと違う角度から解きほぐしてみたいと思います。僕の広告会社でのキャリアのスタートは、ストラテジックプラナーという肩書きでマーケティング戦略に立案からかかわることでした。

マーケターは当然、まず戦略を立ててコンセプトやメッセージ、ターゲットを考えていく。ここでは、例えばコピーライティングとかコンテンツ的なことも、ある程度考えていますよね。

しかし問題なのは、ここで一度話が完結してしまっているということ。「では、戦略に基づいて広告を打ちましょう」という段階になったとき、「いつも、テレビを使っているから、今回もテレビを使おう」とか「グラフィックがすでにあるから、ポスターをつくって掲出しようか?」とか、戦略に従属しない形でメディアプランニングが進んでしまうのです。

メディアのバイイングには独特の商習慣があり、それに紐づくプラニングも広告会社の中でストラテジー部門とは異なるノウハウと文化を持った部門の人たちが関わってきました。実際には戦略の粒度そのままにプラニングもバイイングもすることはできない。メディアという売り物も、その売り方もマーケティング戦略とは関係のないところで進んでしまうのです。それゆえ、戦略と広告メディアプラニングの間に分断が生まれてしまうのだと思います。

広告会社でマーケティングに携わるなかで、この分断がずっと気になっていました。マーケティングの戦略に直結する形でのメディアプラニング・バイイングを実現するにはどうしたらよいのだろうか。この問題を考えるなかで、たどり着いたのがAaaSという構想でした。

音部:どれだけ精緻にターゲット像を描いても、そのプロファイリング通りにメディアを買って広告を打つことはできませんからね。

安藤:おっしゃる通りです。最初から分断しているので、音部さんが指摘したような議論が起きるのだと思います。

音部さんはコンテンツと「メディア」の分断という指摘をされました。それとは別に、コンテンツやクリエイティブと「戦略」に関しても、以前はだいぶ乖離がありましたよね。精緻にマーケティング戦略を立てても、広告表現を決める段階になったら「これ、イケてると思うんだよね!」という担当者の感覚や勘でクリエイティブが決まってしまうことが多かったですから。でも、この分断については、近年は解消されてきたと思います。

一方で、まだ分断が解消されていないのが戦略とメディア。これを融合させない限り、音部さんが提唱されるようなマーケティングの全体最適は実現しえないのではないか、と思っています。

ただ、これは広告会社やメディア企業のビジネス慣習が関わる部分なので、マーケティングの戦略を立案する側から変えることは難しい。また自社の仕組みだけ変えればよいわけではなく、エコシステム全体を変えないといけない。そこに手を入れたいというのが、AaaSを提唱した理由です。

これが実現すれば、広告会社や広告メディア企業がマーケティングの全体最適を実現する戦略に寄与し、広告主の事業により貢献できるようになるはず。ですから、音部さんが「パーセプションフロー・モデル」を通じて提唱されるマーケティングの全体最適とAaaSはカップリングできるのではないかと考えていました。


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