来店してもらうためのフックと、来店した後のフックは別物
嶋野:ある意味自分に近い感覚がうまくハマっているんですね。狙い通りにいった部分、逆に意識しなかったけどうまくできた部分はありますか。
井川:狙い通りできたのは「ユーザー側の発信から展開していく」こと。だいたい情報の展開はSNSから始まるので、それをサイクルさせるのは大事にしています。狙ってなかったのはタイミングで、予期せぬときにバン!と行っちゃったりすることがありますね。
嶋野:ユーザー側の発信から始めるのは、まさにUGC(ユーザージェネレーテッドコンテンツ)をど真ん中においたやり方ですね。みんながやりたいけど、うまくいっているケースが非常に少ないところです。例えば「味だけで勝負するストロングスタイル」ももちろんありだけど、美味しいのが前提で、ユーザーの発信を優先順位の上に置くのって案外やっているところが少ない。しかも体験込みで。
井川:味がどうこうって、来店してもらった次の話だと思うんですよね。来る前に味はわからないじゃないですか。だから来るためのフックと、来てからのフックは階層が別と捉えてます。めちゃくちゃうまいけど誰にも知られてなかったら、その“めちゃくちゃうまい”にはたどり着かない。そこをおざなりにしているパターンは多い気がします。
尾上:不純喫茶ドープの場合、来てからのフックは何ですか?
井川:空間も含めた体験の面白さですかね。クリームソーダや太いナポリタン、固いプリンみたいな、実際に食べる体験のクオリティも含めて。一個一個のものにフォーカスするより、トータルでの体験を重視しています。コロナ禍で有名店もデリバリーするようになったけど、家で食べるとなにか物足りなかったりする。それが空間のプラスオンの価値だと思っていて。食べ物と空間が合わさっている状態でフック付けしていくイメージです。
嶋野:フックの部分と味(めちゃ美味しいです!※筆者追記)の関係ってどう決めてますか?
井川:単純に自分が好きなものをぶち込んでいる感じですが、その中でも意識しているのは「人に言いたくなるコンテンツづくり」。例えば、「不純喫茶」や「不健康ランド」「せつない気持ちのゴミ捨て場」ってワードは言いたくなるじゃないですか。それに「めっちゃ固いプリン」とか「めっちゃ太いナポリタン」みたいな方が伝えやすいし。
嶋野:井川さん自身が生粋の接客業というか、コミュニケーションが巧みな方だからお店にも反映されてるんでしょうか?
井川:いや、まったくそういうタイプではないですね…。人を思ってつくっているというよりは、自分で面白いものができれば満足で。
尾上:自分だったら言いたくなっちゃうなみたいな。
井川:そうそう、そんな感じです。実際、不純喫茶ドープは20代の女の子が多いんですが、20代の女の子の気持ちは一切わからないわけです。その子たちが喜ぶものを40手前のオジサンが考えて迎合するのも面白くない。逆に私が面白いと思っていることが、20代の女の子からすると逆に新しかったりする。
嶋野:さっきおっしゃっていた、予想外にSNSでの反応がよかった点は何ですか?
井川:ドープの開店前日にバズった、外の食品サンプルですね。食品サンプルっていくらでも世の中にあるものだけど、そこに少しプラスの要素をつけたり、見せ方を工夫することで話題になる。ある程度意図はしていましたけど、思った以上に強い反響でしたね。
尾上:はい、ということで、前半は以上です。今回も濃密でしたね。
嶋野:当てにいかず、自分が好きなものを突き詰めていくことが、逆にギャップがあって、それがSNSでうけたっていうのは、すごく理想的ですね。でも奇跡的な面もあるだろうね。
尾上:井川さんのセンスだからというのもあるかもですね。僕が面白いなと思ったのは、最初にバズの勢いを作ったのが「食品サンプル」ってところですね。料理とか内装じゃなくて。
嶋野:え、そこ? みたいなところがキャンペーンでも話題になるときあるもんね。だから尾上もキャンペーン組み立てるとき、いろいろ一見関係なさそうなものも混ぜておくの?
尾上:いや、まあ、僕的には関係あるところなんですが、結果的に予想外なところで話題になることはありますね。全然何のリアクションない時もありますが。
嶋野:あるある(笑)。では、後編も楽しみにしてください!
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