【CES2023】ロレアルとSONYの事例から考える「何のためのテックか?」(玉井博久)

インクルーシブが、テック戦略のコア

ロレアル Innovation and TechnologyのResearch CEO代理であるBarbara Lavernos氏は「インクルーシブが、ロレアルのイノベーションとビューティーテック戦略のコアとなる考えだ」と言います。ロレアル傘下の主要ブランドであるランコムのGlobal Brand PresidentであるFrançoise Lehmann氏も「あらゆる人々が平等に美にアクセスできるべきだ。今回発表したHAPITAを含め、私たちは美というものにもっと誰もが簡単にアクセスできるものにしていく」と語ります。

同じようなアクセシビリティという考えで開発されたプロダクトが、SONYからも発表されました。実際のプロトタイプの展示はなく、イメージ画像だけの発表ではありましたが、4日に開かれたSONYのプレスカンファレンスでPlayStation 5用のアクセシビリティコントローラーキット「Project Leonardo」が紹介されました。

誰もが使いやすいように自分好みにコントローラーの形を変えることができ、人によっては、通常のPlayStationのコントローラーの形にすることもできるようです。詳細な説明はありませんでしたが、こちらも近い将来発売され、誰もが簡単に「ゲームを楽しむ」ということにアクセスできるようにする、という観点で開発されたと考えられます。

SONYのプレスカンファレンスで紹介されたPlayStation 5用のアクセシビリティコントローラーキット「Project Leonardo」。

今回のロレアルとSONYのCES2023での発表を受けて思い出すのが、2019年にカンヌライオンズで拍手喝采を浴びたマイクロソフトの「Changing the Game」とIKEAの「ThisAbles」です。

マイクロソフトの「Changing the Game」の広告は、その年のアメリカ・スーパーボウル放映時のテレビCM枠でも流れており、「これまでで最高のCMだ」という声も上がったブランド活動です。CMで紹介されていたのは、同社のゲーム機Xboxやソフトではなく「Xbox Adaptive Controller」というコントローラーです。これは体の動作に制限のあるプレイヤーに向けて設計されたもので、手を動かすことに制限のあるプレイヤーも、自分がゲームをプレイしやすいように形をカスタマイズでき、ゲームを楽しむことができるというもの。ときに手だけではなく、足でもコントローラーを操作できるようにカスタマイズすることができます。

IKEAの「ThisAbles」は、イスラエルの支援団体とともに立ち上げられたブランド活動です。体の動作に制限を持つ人々にとって、IKEAで販売されている商品がそのままでは使いにくいという課題がありました。例えばドアを開けにくかったり、ソファから立ち上がるのも大変だったりします。しかし肘を使えばドアをあけることができたり、座高を高くすることで立ち上がりやすくなることもあります。

そこで同社は、既存のIKEA商品に、例えば肘を使ってドアを開けることのできるアイテムや、座高を高くするためにソファの脚にはめることのできるアイテムを用意することにしたのです。これらをIKEAで購入した家具に後付けすることで、すべての人がIKEAの商品を使って快適な生活を送れるようになります。

この追加アイテムはすべて3Dプリンターで作ることができ、その3Dプリンター用のデータをすべてウェブサイトで公開・配布。誰もが無料でダウンロードできるようにしています。3Dプリンターというテックが、こうした活動に活用されています。

すべての人々のためのテック

CES2023は史上初めて、大テーマを持って開催されました。それが「テクノロジーはどのように世界の困難な課題に取り組むことができるか」です。そして開催に際して、United Nations Trust Fund for Human Securityという団体とパートナーを組み、Human Security for All(HS4A)というグローバルキャンペーンをサポートすると宣言しています。

このHuman Securityにはすべての人が水や食品にアクセスできるFood Securityや、気候変動などの環境問題に取り組むEnvironmental Protectionなど7つのテーマが掲げられています。ダイバーシティ&インクルージョンはこの7つの中に明記されていませんが、私はロレアルやSONYが今回CES2023で紹介したアクセシビリティに関する取り組みは、このHS4Aの方向と合致する、テクノロジーは何のためにあるのかという問いに答えるものだといえると考えます。

CES会場には、ややもすると“テックのためのテック”があふれているとも言えます。そのなかで、何のためのテックか、誰のどんな課題を解決するためのテックか、が考え抜かれたプロダクトは広大な展示場の中でも、際立っていました。

今年設定された大テーマHuman Security For All。何のためにテックが存在するのかが問われようとしている。

玉井博久
Glico Asia Pacific Regional Creative & Digital Senior Manager 兼 江崎グリコ アシスタントグローバルブランドマネージャー

広告会社のクリエイティブを経て、広告主のブランド構築に携わる。シンガポール在住。現在江崎グリコで全世界のポッキーの広告を統括。カンヌライオンズなど受賞多数。宣伝会議「カンヌセミナー」「メタバース基礎講座」「TikTokスタートアップセミナー」「オリエンテーション基礎講座」など複数の教育講座の講師を務める。著書に『宣伝担当者バイブル』(宣伝会議)、『「売り方」のオンラインシフト』(翔泳社)。日本ソムリエ協会認定ワインエキスパート。


 

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