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M&Aした企業でも、評価を含むカルチャーは崩さない人が資産の広告業界、人を活かすマネジメントとは?

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マス・マーケティング全盛時代と比べると、クライアントがパートナー企業に期待する機能や役割は変化しています。「メディア枠」の提供からマーケティング課題を解決する「ソリューション」の提供へ。「広告代理店」から「マーケティング支援会社」へと進化が始まっています。広告業界のビジネスモデルが変化をしていく中で、広告業界の経営や人材マネジメントはどうあるべきなのでしょうか。本連載は、自らイベント会社を経営し、広告産業におけるプロジェクトマネジメントの課題に直面した若村和明氏が創業した、その課題解決につなげようと開発された案件収支管理システム「プロカン」を提供するシービーティーと宣伝会議の共同企画。4回目は、ベクトル取締役副社長グループCOO長谷川創氏に話を聞きます。
長谷川創氏

 

現場の声を最優先 工数をかけず正確な数字を出す

―広告ビジネスに現在、起きている変化をどのように捉えていらっしゃいますか。

ここ20年ほどで、広告ビジネスの事業モデルは大きく変わっています。例えば、私たちベクトルは2000年からPRを本業に活動をしていますが、当時はPRの戦術もプロジェクト内容も非常に分かりやすく、月額のフィーでお仕事をさせていただくケースが多かったです。それゆえ、人の評価やプロジェクト別の収支管理もそれほど難しくはありませんでした。

しかし、それから20年超が経過し、クライアント企業のニーズは広告やPRといった手法を限定せずに、とにかくマーケティング上の課題を解決してほしいという流れに移りかわってきました。これだけ、マーケティング課題解決の手段が増えているわけですから当然で、課題を解決する統合的な提案、一気通貫のマーケティング支援が必要とされるようになっています。必然的に、それまで業界内に暗黙知として存在していた「PR会社の仕事はここまで」「これより先は、広告代理店の仕事」…といった領域の垣根もなくなりました。

さらにマーケティング施策に求める目的が、課題解決と本質に向かう一方で、その解決に際して求められる手段は多様化してきました。例えば、最近「PR活動にインフルエンサーを起用し、広告運用したい」という相談が増えています。インフルエンサーも、情報を広めるメディアのひとつ。マスメディアやSNSだけでなく、デジタルメディア、さらにメディアとして機能するものが多種多様に広がっています。

価格がわかりやすいマスメディアが中心だった時代と比較し、マーケティングに活用可能なメディアの種類が爆発的に増えたことで、結果として広告・コミュニケーションビジネスにおけるプロジェクト単位の収支管理が非常に難しくなっているのも事実です。ベクトルが創業した約30年前に開発した経営管理のルールだけでは対応できなくなっている時代に入ってきたのかなと思います。

例えば、プロジェクトが始まった初期の段階だと、課題解決の戦術が複数あるので、戦術一つ一つの収支の見通しが立てづらいケースも多いでしょう。そのためにも、適切な管理のために収支の見える化は重要だと考えています。

多様化するクライアント企業のニーズに対応するためにベクトルでは、2021年から「広告業界のEコマースサイト」をコンセプトに掲げた「ヒロメル」を開始しました。これまでベクトルグループが手掛けた“ヒロメル”手法を事例から選べ、その手法の大枠のコスト感を知ることができ、その事例を手掛けた担当者にオンライン、オフラインと希望に合わせて問い合わせをすることができます。

背景には、課題解決方法の多様化によるクライアント企業の悩みが根底にあると考えています。それに合わせて代理店側も経営管理の方法を変えなくてはいけない時代になってきているのです。

―広告・コミュニケーションビジネスにかかわる中で、経営管理・収支管理・個の評価という点について、ベクトルが抱えている課題としてお感じになられていることをお聞かせください。

広告ビジネスは「人」によって成り立つ、人が資産の業界なので、長く働いてくれることを重視して人的資本形成を行ってきました。そこで、ベクトルでは人が辞めないためには、どのように個を評価すべきかを重視しています。一人ひとりの成果がきちんと可視化され、成果を上げればそれに見合う評価が得られる。そうした個の評価が確立されている上で、収支管理、経営管理を考えていくようにしているのです。

長く働きたくなる環境づくりを最重要テーマに考えているので、例えばM&Aした会社でも、個の評価はその会社のカルチャーに委ねています。事業内容も異なるので、多様なままの状態を維持すべきと考えています。

収支管理について言えば、創業当時は経営管理や収支管理の方法を現場で話しあって決めていました。近年は本社の経営部門が大筋だけ決め、あとはそれぞれの組織がカスタマイズする形を取っています。会社の規模や社会的な役割が大きくなるにつれ、各社ともにスタッフ部門の体制が整ってきましたので、現場はの負担は軽くなってきているかなとは思います。

それでも、えてして起こりやすいのは、管理本部の管理のしやすさを優先しすぎると、現場の工数が増える場合がありますので、そこは管理本部に対して「現場の意見を最優先に聞いて、工数をできるだけかけない形で正確な数字が引き上げられる仕組みを考えてください」と伝えています。

―広告業界は人が資産、さらに人のアイデアが商品になる業界と言えると思います。働き方改革が長らく叫ばれていますが、労務管理、労働時間管理にとどまっている印象を受けます。経営管理、収支管理、さらには個の評価というところまで行き着くと、広告ビジネスで働く一人ひとりにとって、どのようなポジティブな影響が与えられるとお考えですか。

広告ビジネスの全ての職種において、人の採用は難しくなってきています。またこの業界は皆さんが独立しやすい環境なので私も時折、独立や転職の相談を受けることがあります。働き方改革という観点で言えば、個々のアイデアが存分に発揮されるような環境整備や仕組みづくりは前提ですし、経営管理や収支管理といった側面でも、時代にあったアップデートは必要です。一方で、例えば独立の相談を受けた時などは、私は「自分の能力をバランスシートで見たときに、本当に独立したほうが得なのかを考えて」と話します。組織に属していた方が魅力的な環境が整っている場合が多いからです。いろいろな情報に接することができるし、常に情報がアップデートされるので新しいトレンドも読み取れる。それも踏まえて「あなたのバランスシート、純資産はどんどん大きくなっていくのではないでしょうか。そこと比較したときに今独立したほうが有利かどうか自分の中で判断してみてください」と伝えることが多いです。

結局、独立したい人の中には、2パターンがあって、ひとつが給与を上げたい人、もうひとつは社長をやってみたい人です。社長をやりたいという人に対しては「頑張ってください」と応援して送り出すのですが、「ベクトルにいるよりも独立したほうが、お金が儲かるのではないか」と考えている方に対しては前述の話をした上で加えて「本当にあなたの純資産がマーケットで戦えるか自分なりにジャッジしてください」と伝えます。

現場に負担をかけない仕組みの中で、個の評価が確立されて、なおかつ個々人の“純資産”を拡大するような仕事の環境が提供される。組織に属さずとも仕事ができる環境において、広告・コミュニケーションビジネスが優秀な人材を惹きつけるうえでは、この2つが必要な要素と言えるのではないでしょうか。

「編集協力/株式会社シービーティー「プロカン」」

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