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コラム

澤本・権八のすぐに終わりますから。アドタイ出張所

映画『福田村事件』で感じた集団の恐ろしさ(田中麗奈)【後編】

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【前回コラム】CMブレイク時にひっそり感じていたジレンマ(田中麗奈)【前編】

今週のゲストは、先週に引き続き俳優の田中麗奈さん。主演を務めた映画『福田村事件』について、たっぷり語っていただきました。

今回の登場人物紹介

(左から)権八成裕(すぐおわパーソナリティ)、田中麗奈、澤本嘉光(すぐおわパーソナリティ)、中村洋基

※本記事は2023年8月27日放送分の内容をダイジェスト収録したものです。

 

100年前とはいえ、他人事ではない事件を描いた映画

中村:9月1日から、田中麗奈さんと井浦新さんが主演を務める映画『福田村事件』公開されました。これ、どんなお話なんですかね。

田中:これは100年前に起こった本当のお話から膨らませて、映画にしたものなんですけども、今はもう名前が変わってしまってますが、福田村という実在した村に起こった事件が題材です。朝鮮人だという誤解から罪もない別の村から来た行商団たちを村人が殺害してしまう残酷な事件を描いた作品です。森達也監督の初長編監督作品ですね。

権八:関東大震災の直後にそういう流言飛語とかデマがね。朝鮮の方が井戸に毒をまいたとかそういうデマがあって、この村でも朝鮮人が攻めてくるんじゃないかみたいなことでワーッと、集団の心理というかですね。それで讃岐、四国から来た薬の行商の方々を方言があるからというのも多分あって、みんなで惨殺してしまうというですね……。非常に痛ましい。

中村:めちゃくちゃショッキングな映画ですよね。閉鎖的なコミュニティが異常な集団興奮状態みたいなのに陥ってしまうっていうのがどういうことなのかを描いた、すごい映画だなと思いましたね。

澤本:これ1923年の9月1日が関東大震災だから、ちょうど100年経っての公開だけど、100年前にそれこそね、Twitter、今で言うとXとかSNSがない状態ですらデマが飛んで、そのデマに乗っかってみんながものすごく心が不安定になっちゃってっていう状況が、日本の国のいろんなところで起こった。その1個がこれじゃないですか。これ今何かが起こって、もしそれで流言飛語とか出たらもっとやばいなとか。

中村:ああ〜……。今の方がむしろ逆に。

澤本:むしろそういうふうなものへの警鐘にもなってんのかなと思って見ていたんだよね。

中村:あ〜、なるほど。

田中:本当におっしゃる通り。もうご明察でございます。森達也監督がやっぱり、100年前のことでしたっていうことにはしたくないっておっしゃっていて。今の時代のSNSで飛び交う流言飛語とかデマとかそういったものと重ね合わせて、集団になるとこんなに真意がわからなくなってしまうっていうようなことを重ねて見てほしいという想いが入っているようです。

権八:いやでも変な話、逆に言うと本当に今の話のようにしか見えないというか。それに、実際たった100年ですよね。100年って長く感じる人もいるかもしれませんけど、僕らみたいに長い間生きてくると、たった100年前!?ってなる。

田中:そうですね。

権八:つい最近ですよこれ、こんなにひどいことがあったんだっていうのは。

澤本:大学受験するときに、こういうのって一生懸命暗記したじゃん。で、その事実として何か名前を聞いたことあったり、テストの問題として出たら答えられたりはするかもしんないけど、実際こうやって見て「うわ、すごいことが起こってたんだな」ってはじめてわかったっていうんですかね。

田中:本当ですよね。でもその福田村事件で起こった出来事だけではないんですよね。関東大震災の後、朝鮮人だっていうことで殺害されてしまった方、虐殺されてしまった方は本当にたくさんいらっしゃって。千葉県の福田村だけではなくて、それがいろんな場所で起きていた。それこそ自分が住んでいた家の近くでも起きていたことですし。たった100年前に、歩いていたら誰かが殺されているとか、夜寝ていたら誰かが追っかけられている声が聞こえる。そんななかで暮らしていたっていうのがちょっと震えてしまいますね。想像するだけで。

澤本:あとね、途中でも入ってくるけど社会主義の方々とか。

中村:ああ、そうですね。

澤本:大杉栄とか伊藤野枝さんとかみたいな。

田中:ですね。そういう歴史が好きな方が見ると「あ、出てきた」ってなる場面はありますね。

澤本:そこで起こったことっていうのは、人種だけの問題じゃなくて、社会主義等々の問題の事件が、ある数日間で起こっているっていう。もし僕らがこういうのに直面したら、普通でいられるかどうかってなかなかわかんないなと思って。

権八:おっしゃる通りなんですよね。だからいろんな差別意識みたいなものが複層的にテーマとしてあってね。非常に考えさせられるシーンの連続ですよね。

 

映画の登場人物っぽい少し不思議な役を演じる

田中:柄本明さんも出ていらっしゃるんですよね。

権八:すごいですよね、役者陣が半端ないです。井浦新さんと田中麗奈さんが主演で、永山瑛太さん、東出(昌大)くん、コムアイちゃん。木竜麻生ちゃんやピエール瀧さんも。意外な人が意外な役どころで次から次に出てくるから、すごいキャスティングの妙というかね。柄本明さんもそうだし。田中麗奈さんは本作においてどういった役どころになるんでしょうか?

田中:私はですね、新さん演じる夫の友和とともに、友和の実家、故郷の方に帰ってきたところから始まるんですね。私は韓国の方に住んでいたっていう設定なので、そこから引っ越しをしてきて福田村の皆さんよりある種俯瞰で町のことを見ているような人物ですね。

中村:そうですよね、俯瞰状態で物事を見ているので、だからどちらかというと興奮する村人たちを止めようとする方向の役柄だったと思うんですけど、本作における田中麗奈さんの役作りの仕方みたいなのもお聞きしていいですか。

田中:やっぱり彼女も韓国で暮らすなかで、いろんなものを見ているんですよね。韓国の方々の土地をどんどん日本の会社が買収していって、それで韓国の人たちが暮らしづらいようになっていく。そしてそういう会社の娘であったりするので、なんか日本人というものに対して少し諦めっていうか、悲しいというか何といいますか……。その戦争が起こした社会の歪み、人間関係の歪み、いろんな影響で少し自分の人格がちょっと崩壊してるところはあるんですよね。だから彼女自身が戦争の被害者でもあって。そういったところからまずスタートしています。

権八:そういう出自を背景に持つ女性という難しさもありながら、新さんとの夫婦仲というか、東出さん演じる船着場の彼との何かやり取りとか、結構スリリングな。

田中:そうですね。夫婦でこちらに来たものの、その夫婦の仲は少し冷めきってるようであるっていうところから、彼女も求めるものがあって。東出さん演じる蔵造さんに、ちょっと思わせぶりなところが出てきますよね。

権八:だからさっきおっしゃったような日本人に対する失望みたいなものと、そのちょっと奔放な感じと。なかなか魅力的というか面白い役どころでしたよね。

田中:ちょっと不思議な役ではあります。地に足が着いてないふわふわした役で、本当に映画の中に出てくる登場人物的な感じといいますか、近くにいるような、いないような。この私が演じる静子と井浦新さん演じる友和はオリジナルと言いますか、この映画のためにつくられた人物像なんです。なので、静子っていう役が少し不思議な映画的な人物なのかなと思うんですけどね。

 

史実だからこその緊張感にドキドキハラハラ

権八:ちょっと違った面でいうと、森達也監督はドキュメンタリーの監督っていうイメージがすごい強いんですが、どうでした?

田中:どんな撮り方をするんだろう?「よーい、スタート!」ってどんなふうに言うんだろう。カメラが常に動いてるんじゃないかとか、手持ちなのかな?とか。そういうイメージがずっとあって。三脚置くのかな?なんて考えたりしてたんですけど、非常にシンプルと言いますか、どっしりと構えられていて、「監督ですね」っていう。なんだか、スッと入られてましたね。

権八:次から次へと個性的ですごい人がいっぱい出てくるじゃないですか。だから「これどういう話になるんだろう」と。実は詳細をあえて予習せずに見て、何かしら関東大震災にまつわる事件が起きるんだろうなと思って見たんだけど、すごい緊張感ですよね。ずっとドキドキハラハラしてました。

田中:そうですね。実際現場も、福田村事件に入ったときの緊張感はすごくて。

権八:はい。

田中:私だったら新さんと夫婦のやりとりだったり、村の人たちと関わるよりはお家の中での様子が多かったので、でもメインキャストが本当に一斉に集まって、今日から福田村事件にいよいよ入って、さあこれから3日間ロケで撮るぞっていう時期に入ったときの緊張感は、ちょっと忘れ難いですね。

権八:すごい時間でしたよね、事件に入ってからの数分間、見ながら口と目両方押さえちゃうみたいな感じでした。

田中:本当ですか。

権八:徐々にね、日にちが時々表示されて。史実にもとづいてる映画なので、日付がちょっとずつ変わって迫ってくる感じとか。すごくつらいというか、来るぞ来るぞっていう。

田中:嬉しいですね。感想を言っていただいて。

澤本:本当にある種のすごい緊張感があったところのひとつは、これは完全に僕の偏見なんですけど、こういう虐殺事件を起こした人たちって、大体男性だっていう意識があったんですよ。街中で暴行して殺害してしまった方々は自警団じゃないですけど、そういう人たちだと思っていたら、結果この村では、女性の方も手を下してるじゃないですか。

田中:そうですね。

澤本:そうなるんだっていうのが、意外と新鮮という言い方はよくないけど、そりゃそうだよな、人間皆そうだろうなって思って見てて。今まで持っていた解釈と、またもう1個乗っかって、新しく今頃解釈し始めるってことになったので。なんでしょうね、お母さんとして自分たちの子どもを守ろうと思ったらやっぱりある種、理解できちゃうっていうか。「ああこれが本当に起こったことなのかな」ってとても強く思って見てましたけどね。

権八:いやその理解ね、その気持ちもわかってしまうから、本当にそういう場面に自分が身を置いたときに、果たしてどういうふうに振る舞えるかとかね、すごい考えさせられてしまう。

 

正義感が生んでしまう歪み

澤本:あと田中さん演ずる静子が止めに入るじゃないですか。入ろうとする瞬間にやっぱり、「いや入らなくていいよ」って思っちゃうもん。入ったらあなたも誤解されて殺されちゃうからっていうふうに思って。でも映画だから行くんだろうけど、ちょっと考えてくださいって(笑)。

権八:ははは!

田中:そうですね。あれは行かないと友和が殺されちゃいますから。

澤本:うんうんうん。

権八:あー、そうか。

田中:旦那さんがね、やっぱり最初に行きましたからね。そう思うと「この人、私が行かないと殺される」ってなるし、でももう静子だから行けたのかもしれないですよね。その村の人たちじゃなくて、村の関係性だったり圧力とか、上との関係とかそういうことがないからこそ、人間らしい行動ができたというか、行けたのかもしれないですよね。

中村:つまり麗奈ちゃん演じる静子は、その同調圧力からちょっと距離を置いていて、そこに屈しないけど、村人の中には、どっかでそれをおかしいと思う人ももちろんいる。その雰囲気やみんなの無言の圧に飲まれてしまう人なのかな……とかも感じますね。

田中:そうですね。当時はやらなければ自分がやられるだったりとか、やることが国への奉仕というか。私は言うことを聞いているだけですよっていう、憎しみというよりも、やることが善意であり正義である。

権八:正義感ですよね。

田中:それですよね。だから殺害があった後の気持ちも、もしかしたら自分が罪を背負うことを考えるっていうよりも、命令やそのときの状況のせいにしたり、「やらないとやられるし」とか、「だって誰かがやらなきゃいけなかったから自分がやったんだ」とか言えてしまう状況で。集団になると同じ罪でも罪じゃなくなってしまうというか。その事件自体が軽くなってしまうような、その恐ろしさっていうのはありますよね。

権八:そうですね。

澤本:「なんで殺したんだ?」って聞かれて「それはあなたたちがそういうふうな指示をされたから」っていう感じの会話をするじゃないですか。

権八:水道橋博士がね。

澤本:あれもそうなんだろうなって思うもんね、なんかね。

権八:本当にもう自分の信条ですよね。信じて正義感からやってるんだけど、本当に憎たらしく映りますよね、映画の中ではね。

中村:そうですよね。水道橋さんは長谷川秀吉さんという役なんですけど、彼の最後に言う言葉とか、ああ〜……ってなりますよね。自分は尽くしてきて何が悪かったんだってことですから。

権八:そうなんですよ。豊原(功補)さんはね、すごい頑張って素晴らしい役どころだったんだけど、逆にずっといい人として理想論を語って正義感に燃えた豊原さんが、最後の最後に弱さを出してしまうみたいなシーンもあってね、なんかすごい複層的に。

田中:やっぱ飲まれてしまうというか。うーん……。

権八:ジャーナリズムのあり方とかもね、木竜さん演じる新聞記者の態度だったり、その上長であるピエール瀧さんの態度だったりとか。全然現代もずっと続いている問題。

中村:本当にそうですよ、これは。

田中:組織とその中に組み込まれてる人間関係、圧力、やっぱ変わらないできてますもんね……。

権八:だからこれはもう目を背けられない。僕は朝鮮の方が関東大震災でたくさんお亡くなりなったことはもちろん知っていたんですけど、不勉強で福田村事件のことは実は存じ上げなかった。福田村事件っていうのは、要するにみんな語りたがらなくてずっと封印されてきたものだという。

田中:そうなんですよね。誰も語りたがらなかった。

権八:だから、こんなことがあったんだっていう気付きがありました。コピーでも「これに目をつぶることは許されない」って書かれていますが、本当に目を背けたくなるような悲惨極まりない事件で悲惨な話なんだけれども、見ないといけない。

中村:そうですね。改めまして、田中麗奈さんからも一言。見所でも個人的な感想でも。

田中:たくさんお話してきたので、難しいですね。本当に今日は皆さん、お三方ともたくさんお話していただいたんですけども、福田村事件は起きてから100年経っているもののやっぱり今と重なるところがたくさんあります。答えが出るか出ないかではなくて、やっぱ思いを馳せて考えていく、そして自分の生活と少し重ねて何か少しでも改善したり気をつけたりしていこうと思うことも、あってもいいんじゃないかなって。映画がなければ知り得なかったかもしれない事件を、ぜひ目撃していただきたいと思います。

権八:はい、ありがとうございます。

中村:というわけで残念ですが、そろそろお別れのお時間も近づいております。映画『福田村事件』ぜひご覧になってください。そしてTOKYO FMにてなんと毎週金曜夕方5時から『キュレーターズ~マイスタイル×ユアスタイル~』のナビゲーターを担当されていると。

田中:はい、そうです。やらせていただいてます。

中村:これちなみにどんな感じでやってるんですか。

田中:これは毎回ゲストの方が対談をされていて、2人の関係性や日常やってらっしゃることなど、本当にフリートークでお話いただいて、それを受けて私がコメントしていくっていう形式なんですけども、いろんなゲストの方に来ていただいています。ぜひよかったら今度ゲストに澤本さんと権八さん、いらっしゃいませんか?

権八:いいんですか。

澤本:すごい聴取率が下がっちゃったら嫌だな(笑)。

田中:本当にクリエイターの方々、コマーシャルをつくっていらっしゃる方でもあったり、お料理をつくってる方、お洋服や化粧品っていう方もいらっしゃいますし、井浦新さんのような俳優さんだったり、もちろん監督もいらっしゃったりとか、幅広くクリエイティブな方にゲストで来ていただいてるので。

権八:へえ。

澤本:もしよろしければ。

田中:ぜひよろしければ。

権八:ぜひぜひ、お願いします。

中村:というわけで、今夜のゲストは俳優の田中麗奈さんでした。ありがとうございました。

田中:ありがとうございました。

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