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「広報」と「広告」の新たな関係とは? 実務家と研究者が議論

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日本広報学会は10月14日、15日の2日間で第29回研究発表全国大会を開催した。その中で、大会の統一論題である「広報と広告の新たな関係~クリエイティビティの視点から~」をテーマにしたパネルディスカッションを実施。広報、広告の専門家5名が、これからの広報と広告の関係について議論した。

※本記事は『広報会議』1月号(12月1日発売号) に掲載する記事を転載しています。

博報堂 執行役員
博報堂ケトル
クリエイティブ・ディレクター
嶋 浩一郎氏

日本マクドナルド
広報部 部長
眞野昌子氏

青山学院大学 教授
日本広告学会副会長
芳賀康浩氏

南山大学 教授
川北眞紀子氏

多摩美術大学 教授
第29回研究発表全国大会
実行委員長(モデレーター)
佐藤達郎氏

広報の目的・ゴールとは?

芳賀:私は広報の専門家ではなく、マーケティングの研究が主分野なので、今回、このディスカッションのお話をいただいて改めて広報・PRについて勉強してみました。色々気づきがあったのですが、その中で疑問に思っているのが、広告の目的が「売上・利益」であるとすると、突き詰めて考えると、広報の目的とは何なのか?ということでした。

眞野:すごく難しい部分で、広報の目的やそれに沿った効果測定については永遠の課題とも言えると思います。私は広報の目的は、「ブランドのレピュテーション(評判・信用)の創造」だと考えており、日本マクドナルドでは「トラスト(信頼)」や「アフィニティ(愛着)」を強化することだと表現しています。マーケティングと同様に、売上・利益をプラスにしてビジネスを拡大することも目標ですが、何故ビジネスを行っているかというと、それはパーパスの実現のためだと考えています。

:2011年のカンヌPR部門の審査でPRのKPIについて議論しました。そこでは、最終的に“あたらしい常識”をつくるための、人々の「ビヘイビアチェンジ」、その行動変容を起こすための「パーセプションチェンジ」を目標にすべきという話しになりました。自分もその考えに賛同します。PRは露出量ではなく、どれだけパーセプションやビヘイビアの変化を起こせたかの比率で評価すべきです。また、「広報」と「広告」の違いを考えると、広告は直接的に認知・販促に繋がる一手、広報は第三者を巻き込みじわじわ新しい考え方を浸透させる漢方のようなものと考えます。

写真 パネルディスカッションの様子
パネルディスカッションの様子。

「新しいあたり前」をつくる広報

川北:私は「広報」と「広告」の一番の違いは“ステークホルダーの範囲”だと考えています。広告が顧客・消費者を一直線に見ているのに対し、広報はメディア、株主、社員、求職者、地域など、より広い範囲をステークホルダーとしてとらえます。先ほど嶋さんがおっしゃっていた、広告は直接的な効果、広報はじわじわと効く漢方的な効果という違いも、ステークホルダーの範囲の違いが関係しているように思います。

佐藤:“ステークホルダー”という言葉自体、広告業界ではあまり使用しない印象ですが、これも広告の場合ステークホルダーが“顧客・消費者”に限定されるケースが多いため、わざわざステークホルダーという言い方をする必要がないからかもしれませんね。

:広報・PRの一番の強みとは「第三者を巻き込む力」だと考えています。博報堂の新入社員などに話すことですが、ブランディングは以前はガチガチに定義された経典を伝えることでした。今は、カリフォルニアロールが認められるかが大事だという話をしています。正統派からしたらアボカドやサーモンを使うなんて許されないかもしれないけれど、それも寿司だと認めることで寿司文化が広まればそれでもいいじゃないかと。価値観の違うステークホルダーを巻き込むことで「新しいカルチャー」、「新しいあたりまえ」をつくっていけるのが広報の力。現在は、「市場の中の自社ブランド」を語るより、「社会の中の自社ブランド」を語る方が、興味をもたれやすい時代です。だからこそ、社会の中で同じ価値観を持つことができるステークホルダーを巻き込む広報の重要度が増していると考えています。

眞野:嶋さんの“社会”という話でいくと、現在、グローバル企業などではかつての「コーポレートリレーションズチーム」と呼ばれていた組織が、「ソーシャルインパクトチーム」と呼ばれるようになってきており、社会の中での責任、社会にどのように影響を与えるかが重要視されているように感じます。

佐藤:目標を「売上の最大化」ではなく「ソーシャルインパクトの最大化」としている企業も見られ始めていますよね。日本でも味の素が従来型の中期経営計画を廃止して、「事業を通じて社会価値と経済価値を共創する取り組み=ASV(Ajinomoto Group Creating Shared Value)」を経営の基本方針とし、「中期ASV経営」を目標にすると聞きました。この事例もこの傾向の表れのように感じますね。

「社会の中での自社」を示す

芳賀:皆さんのお話をうかがっていて、今後、売上至上主義ではなく、社会やステークホルダー至上主義の流れが強くなっていくのであれば、企業の成長に必要な経営資源も売上だけに依存するのではなく、社会やステークホルダーから得られるようになってくるのではないかと思いました。それはクラウドファンディングのような形かもしれませんし、寄付かもしれない。経営資源の入手先が多様化する可能性を感じますね。

:すべての企業が「ステークホルダー至上主義」の経営へシフトするわけではなくそこにはグラデーションがあるでしょうが、社会とつながり、ステークホルダーを巻き込む協業を得意とする広報は重要な存在になります。

川北:社会とのつながりという話は、アメリカなどの企業で「コーポレート・ソーシャル・アドボカシー」が流行していることにも通ずる気がします。「コーポレート・ソーシャル・アドボカシー」は、政治的・社会的話題に関する発言を企業が行うこと。世の中で起こっている課題や事柄などに対して、「我々はその意見に賛成します」など、立場・意見を表明する企業が見られ始めています。その様子を見て、その意見に賛同する人が企業のファンになったり、商品を選ぶ基準になったりといった流れがあるようです。

:社会に対する自社の意見を表明する企業が評価を集めるというお話は、市場におけるブランドより社会におけるブランドの立ち位置が重視される時代の流れに即した動きですね。価値観の多様化が健在化する昨今、今年のカンヌの受賞作で興味深かったのは「異なる意見が両方あってあたりまえ」という前提のPRキャンペーンでした。スイスのスーパーマーケット「Migros」の事例です。100年前の創業以来このスーパーは消費者の健康のためにアルコール販売をしてきませんでしたが、スーパーの会員の中から時代も変わったので「販売をしてもいいのでは?」という声が上がりました。会員の中で投票を行うことになり、「販売禁止を撤回すべき」派が勝てば「OUI」(=Yes)ビール、「販売禁止を継続すべき」派が勝てば「NON」(=No)ビールという新商品を販売するキャンペーンに仕立てました。PR会社がどちらかの結論を支援するのではなく、賛成派・反対派の両者が健全な議論を行う環境をつくり、オープンなディスカッションの場を提供するしかけです。分断の時代と言われる今、PRパーソンがどんな価値を提供できるか考えさせられました。

川北:お話を聞いて思い出しましたが、去年の広報学会の全国大会で、「この場で決まったことはこれです」とステートメントを出すのではなく、「何が議論されているか」をオープンにすることが重要だと発表されている方がいて、とても印象に残っています。

芳賀:フォルニエとリー(「ブランド・コミュニティ 7つの神話と現実」『ダイヤモンド・ハーバード・ビジネスレビュー』2010年10月号)の「賢明な企業は、対立を歓迎し、コミュニティを賑わせる」という主張を思い出しました。本日皆さんのお話をうかがっていて、マーケティング研究者の観点からも、今後広報はますます重要になっていくと感じました。ありがとうございました。

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