パーパスとミッション、ナラティブとストーリーの違いは? 高広伯彦×本田哲也×片岡英彦(前編)

パブリシティ獲得からオウンドメディア活用まで広報企画の立案を指南する新刊『成果を出す 広報企画のつくり』(片岡英彦 著)が12月21日に発売となった。ここでは本書収録の鼎談を一部紹介。デジタル領域のマーケティングのプロであり研究者でもある高広伯彦氏、社会的な文脈を企業コミュニケーションによって創造する広報のプロ本田哲也氏、そして本書の筆者であり年間500本の企画に関与する東北芸術工科大学 企画構想学科 学科長/教授の片岡英彦氏の3人が、企業に今求められる物語の紡ぎ方について語り合った。

パーパスは物語化できる

片岡:このところ企業がパーパスやストーリーといったものを大事にするようになったと感じています。長い間、企業コミュニケーションに関する議論というと、広告にいくら使うかとか、メディアミックスをどうするといった内容が中心でしたが、そこに広報的なアプローチとしてストーリー性を重視する風潮が高まりました。さらに今、ナラティブという考え方に注目が集まりつつあります。これらの言葉の整理を改めてお願いできますか。

本田:まずパーパスとは、企業の社会的存在意義のことです。社会においてなぜその企業が存在するのか、世の中の側に立って存在意義を説明しているものがパーパスという理解です。これまで、ミッション・ビジョン・バリューという考え方が浸透していたので、パーパスとミッションの差がつきにくいという話はよく聞きます。ミッションを、パーパスに近い内容に設定している企業もあるのですが、「わが社は市場シェア1位になります」というようなミッションは、パーパスとは言えません。

高広:パーパスとミッションの違いは、『キングダム』で説明すると分かりやすい。『キングダム』は中華統一を目指して(後の)始皇帝たちが近隣諸国と戦う話ですが、戦乱の無い平和な世をつくる(=パーパス)ために、中華統一をしたい。そのためにわざわざ悲惨な戦いを行っている(=ミッション)。これは極端な例ですが、社会をどう変えたいのか、社会にどう役立ちたいのか、というのがパーパスで、その実現のためにミッションがあるとすると、ミッションが複数あってもおかしくないんです。

本田:どういう社会をつくりたいか、どういう世の中を良しとするか。それと自社の存在の関係性を言語化するのがパーパス。そのためにわが社は何をするのか、はミッション。そう整理ができますね。ただ現代企業の場合、『キングダム』のようにパーパスとミッションに矛盾があるとうまくいかなくなりますが。

パーパスというのは企業にとって重要で、それを起点として物語化もできるんです。世の中の側から自社について語るものなので、多くの人から共鳴されるような物語になりますし、企業が事業に関して様々なストーリーを紡いでいく時の起点にもなり得ます。

 

ナラティブの当事者は誰か

片岡:学生から「広報活動ではストーリー性が大事なんですよね?」と聞かれた時の答えは“YES”です。でも「ストーリーってなんですか?」と言われた時の説明が難しい。というのも、多くの学生が思い浮かべるストーリーというと、ポカリスエットのCMのようなコンテンツなんです。ちょっと古い例ですが高校の朝礼中に校長先生が歌い出して、高校生役のタレントさんが学校を飛び出して走っていくような。でもそれは「広報活動でいうストーリーとかナラティブとは、ちょっと違うんだよ」と説明したいのですが。どう整理したらいいでしょうか。

本田:CMや小説、映画でも、そこでのストーリーには起承転結があって、そのフォーマットの中で完結しているんです。先ほどのCMの例は、ポカリスエットの素敵なストーリーであって、学生さんたちが毎日生活している中にある「自分たちの物語」とは相容れない場合もあるのではないかと思います。自分自身の物語というのは現在進行形で終わりがありません。この、自身の語りのほうをナラティブと呼んでいます。ストーリーとナラティブには互換性もあるのですが、ナラティブは自分と周りで編んでいく、共創性があります。

高広:ナラティブには当事者性のある語りという要素がありますね。アカデミックの世界でもナラティブというのは方法論としてあって、看護研究などではよく、「患者のナラティブ」という言葉が出てきます。例えば痛みについて、当事者である患者自身が感じている痛さと、医師が確認する痛みは中身が違う可能性があるというわけです。

ここで整理しておきたいのは、ナラティブの当事者は誰なのか、ということです。今広報の世界で言われているようなナラティブは、企業のナラティブと生活者のナラティブが混在しています。企業自身が自らのことを当事者として語るというナラティブもあれば、生活者のナラティブを引き出して明らかにしていくということもあります。

片岡:企業がナラティブを重視する背景を振り返っておくと、受け手側の視点を入れたい、単純な告知広告だけでは若い世代に響かなくなってきたという流れがベースにあります。だから、顧客との親和性の高いストーリーが活用されるようになりました。ただストーリーといっても企業の押しつけではだめで、当事者によるナラティブが注目されるようになりました。ここまでは理解できたとして、疑問が残るのは、生活者のナラティブを重視するということです。一人ひとりの視点にもとづいた主観的な物語なのですから、その情報は客観性に欠け、ブランド側の一貫性が失われるリスクもあるのではないでしょうか。

本田:そここそが腕の見せどころで、企業のナラティブだけでも、生活者のナラティブだけでもだめなんです。企業のナラティブと生活者のナラティブの両方をカバーできるような話をつくってコミュニケーションをしないといけないわけです。だから僕らも、いろんな企業と試行錯誤しているわけですけれども、企業・生活者の両者で紡げる物語、Win-Winになるような文脈を見つけていきます。それは広報なのか広告なのか分かりませんが、コミュニケーションの仕事をしている人たちは、その文脈を開発する力が必要になっていくと思っています。

片岡:企業のナラティブと生活者のナラティブをリンクさせて、より大きな物語をつくっていくというわけですね。

高広:本田さんが携わっている味の素冷凍食品では、「餃子がフライパンに張り付いてしまう」という生活者の声を取り上げて、研究開発のためにフライパン3000個を回収してお礼の新聞広告も出していたけれど、これは、生活者のナラティブを企業コミュニケーションに使ったと整理すると分かりやすいですね。

本田:もう一つ言うと、最近は従業員のナラティブというのもあります。自分はなぜこの会社に入っていて、業務にどんな意義を感じているかというところ。従業員もステークホルダーであり、企業の周囲には異なるナラティブが点在しています。そこでやらなくてはいけないのは、いかに求心力のある、顧客も含めたステークホルダーが納得するような物語をつくれるか。そのチャレンジが続いています。

後編はこちら

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鼎談の全文は書籍でお読みいただけます(この10年の広報活動の変化や、BtoB企業広報についてなどに触れています)

『成果を出す 広報企画のつくり方』
片岡英彦著

本書の内容
第1章 テレビのディレクターに「取材したい」と思われる企画
第2章 ユーザーが見たくなる「動画」を広報に活用する企画
第3章 「商品・サービス広報」の企画 提案に必要な要素を整理
第4章 「企業広報」の戦略を立案 施策後の態度変容を目指す
第5章  パブリシティ活動の目標設定と効果測定
第6章 「共創」の座組みを戦略的に構築 パートナーシップ広報の企画
第7章 著名人、インフルエンサーを活用した「口コミ創出」のための企画
第8章 進化する「周年事業」の企画 将来性を伝える機会に
第9章 全社戦略を紐づけ提案「インターナルコミュニケーション」の企画
第10章 広報活動のこれから」~人の心は物語で動く~
<特別鼎談>高広伯彦氏×本田哲也氏×片岡英彦氏

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