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トレードマーケティングはメーカー、流通双方に利益をもたらす

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トレードマーケティングに特化した日本初の入門書『トレードマーケティング 売場で勝つための4つの実践』が、2月26日に発売された。トレードマーケティングとは、小売業や卸売業で仕入れを担当する「バイヤー」や、買い物客を指す「ショッパー」を対象にしたマーケティング活動を指す。その鍵になるのが、バイヤーのインサイトを理解することにある。
 
メーカーと小売の双方でマーケティング部門を率いてきた富永朋信氏(プリファードネットワークスSVP CMO)と、本書の著者である井本悠樹氏が、トレードマーケティングの重要性について話し合った。

営業にもマーケティングの素養が欠かせない

――トレードマーケティングについて発信していくようになったきっかけは。

井本:P&Gに営業職として入り、1年目は20店舗ほどを担当して毎日訪問していました。トレードマーケティングはP&Gの中で営業の有力なキャリアパスのひとつで、当時は憧れのような目で見ていましたね。

その後実務を経てその可能性や面白さを実感し、現在は主にコンサルティングという形でトレードマーケティングの考え方やノウハウを広めてきました。ただ、一般的にトレードマーケティングについての認知度は高くないのが現状です。

そんな中で、富永さんと出会ってトレードマーケティングについてお話ししたところ、「バイヤーインサイト、面白いね」と言ってくださって。僕の中で主観的に良いものだと思っていたものが、富永さんのようにマーケティングに造詣が深い方にとっても価値があるものだと自信が持てるようになりました。本当に背中を押してもらったと思っています。

富永:マーケターは、相手に対してどのようなボールを投げればどのように変わるかを予測し、設計して、それを施策に落とし込んでいます。営業も、メディアが介在しないだけでマーケティングなんですよね。対面のコミュニケーションで同じことをやっているわけで、人間の認知変容や態度変容、行動変容の仕組みに対する理解が欠かせないことは共通しているわけです。小売のバイヤーやショッパーに対する働きかけにおいて、それを端的に言い表したのが「バイヤーインサイト」だと思いました。

加えて、バイヤーにはコンシューマーのインサイトと明らかに違って、売上をつくらなければならないなどの色々な意図が含まれます。職掌に基づく意図を掛け合わせてインサイトを深掘りするという切り口が新しいとも思いましたね。

写真 人物 プロフィール 富永朋信氏
富永朋信(とみなが・とものぶ)/早稲田大学卒業後、日本コカ・コーラなど9社でマーケティング業務に携わる。うち、西友、ドミノ・ピザジャパン、など直近4社では最高マーケティング責任者を歴任。現在はプリファードネットワークスでCMOを勤める傍ら、マーケティングの核=人間理解という考え方に基づき、企業におけるマーケティングの実践、ブランド戦略、コミュニケーション設計、人事研修の設計実施など多岐にわたるアドバイザリー業務を行う。著書に『「幸せ」をつかむ戦略』(日経BP、ダン・アリエリーとの共著)など。

なじみのない商品は手に取られない

――富永さんはトレードマーケティングの必要性についてどう感じますか。

富永:人がモノを買う理由には「なじみがあるから」「良いモノだから」「好きだから」の3つがあると考えています。その中でも一番大事なのは、「なじみがある」こと。なぜなら、それがなければ「良い」にも「好き」にもつながらないからです。

では、なじみのある状況をいかにつくるか。今のところ、その一番有効な手段が店頭に並ぶことだと思います。広告や広報によりメディアを媒介して商品を伝えることもひとつの手ですが、店頭に行って実際に商品が並んでいるのを見る、手に取って感じるという直接経験は、消費者に与えるインパクトの大きさが違います。そのため、トレードマーケティングは極めて重要だといえます。

――富永さんはメーカーも流通も経験されていますが、それぞれの視点からどのように捉えられますか。

富永:書籍で強調していることですが、バイヤーは店舗全体の売上や、担当するカテゴリー全体を成長させたいわけです。メーカーとしてもカテゴリーの成長につながるような提案をし、その中で自社商品を扱ってもらい互いに成長することが大事なことです。

以前勤めていたメーカーでは、コンビニエンスストアへの提案で割り当てられる店舗体積に着目し、カテゴリー成長と自社の成長を同時に達成した事例がありました。

コンビニは、狭い店舗を高速回転で回すことで成り立っているため、一番の資産は店舗空間ともいえます。そして、店舗体積あたり利益という軸でコンビニの売上を分析してみると、自社商品が含まれるカテゴリーに割り当てられた体積は少なく、利益改善の余地があることがわかりました。ということで、この話をコンビニにするとともに、このような棚をつくってそのカテゴリーをたくさん並べてはどうかという提案をしたところ、空間を増やすことに成功しました。そして、会社は業界3番手だったので、その恩恵を最も受けることになったのです。

流通視点でお話しすると、店頭に関わるステークホルダーは非常に多く、流通側だけでもバイヤーや卸、店舗オペレーション、営業、リテールのマーケティングなどがいることに加え、メーカーの営業やカスタマーマーケティング、その他ブランドの担当者などもいます。すると、どの商品もエンド棚に出したい、それができないのならPOPをつけたいとなって、店頭全体がまとまりのない状態になりかねません。

本来はバイヤーが、それをショッパーが直感的に買いやすいようにディレクションすべきところ、メーカーがトレードマーケティングの考え方を取り入れることで、バイヤーと一つのチームとなり、顧客視点での売場最適化ができるようになるわけです。

バイヤーの課題解決の先に勝機がある

――井本さんが着目しているバイヤーインサイトはどのようなものですか。
井本:マーケットの環境変化が、バイヤーの意思決定の変化にどう影響するかということです。例えば、最近は従業員の賃金や光熱費、輸送費などの高騰で販管費が上がり、バイヤーはコストプレッシャーにさらされています。そのため、下手に安売りができない状況にあるんです。バイヤーの予算は一般的に、売上と売上総利益(粗利益)であり、営業利益は特に指標にないのですが、最近はコストプレッシャーによって、粗利では利ざやが取れていても営業利益にすると赤字になるなということを意識せざるを得ない状況になっています。

写真 人物 プロフィール 井本悠樹氏
井本悠樹(いもと・ゆうき)/P&Gジャパン、ジョンソン・エンド・ジョンソンで、トレードマーケターとして20を超える新製品開発や流通戦略策定に携わり、複数ブランドでNo.1シェアを獲得。4度の年間アワード受賞などの実績を残した。2019年4月フェズに参画し、リテールメディアを活用した統合プランニングの責任者を務める。また、自身でもコンサルティング会社のキャプロを創業し、大手メーカーやDtoCブランドの流通戦略策定を支援するほか、講演や寄稿などを通じてトレードマーケティング領域の啓発に努めている。

本当に価値ある商品は、それにふさわしい価格で販売しなければ、継続的なカテゴリー伸長は実現しないということに、バイヤーの意識が向き始めているわけです。その中でバイヤーが注目しているものの一つが、DtoCブランドです。マスマーケティングができるほど体力があるわけではないので、店頭での伝え方を工夫する必要があります。そこに、DtoCブランドはもちろん、バイヤー側も注力し始めています。

そうした状況の中で、従来のメーカーも安売りや商品そのもののアピールだけでなく、それぞれの小売りやマーケットが持っている課題に対して、どうアプローチすればバイヤーに取り扱う意義を与えられるのかを考えていく必要が出てきています。マスマーケティングに頼るのではなく、きちんと消費者、そしてショッパーに向き合って、商品が売れる道筋をつくるべきなのです。そこに目を向けていくかどうかで、メーカーは自然に淘汰されていくのかなと思います。

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丸善日本橋店(ビジネス・経済2/29~3/6)、リブロ汐留シオサイト店(ビジネス3/4~10)で売上1位!

写真 表紙 トレードマーケティング 売場で勝つための4つの実践

トレードマーケティング 売場で勝つための4つの実践』(井本悠樹著)定価:2,310円(税込)

小売業や卸売業で仕入れを担当する「バイヤー」や、買い物客を指す「ショッパー」を対象にしたマーケティング活動を指す「トレードマーケティング」の実践的な指南書。彼らのインサイトを深く理解し、その理解に基づく戦略・アイデアを実行することで、商品が適切に売場に置かれ、ショッパーの目に留まるための取り組みによって、売上を最大化することができます。

P&Gジャパンやジョンソン・エンド・ジョンソンで、トレードマーケターとして多くのブランドの商品開発や流通戦略策定に携わってきた著者の知見とノウハウを1冊にまとめました。