小売とメーカーの関係をアップデート カテゴリー成長で共存共栄をめざせ

人口減少時代の今こそ、小売とメーカーのパートナーシップを進化させる好機――。『小売り広告の新市場 リテールメディア』(日経BP)の著者のひとりで、イトーヨーカドーでネットスーパー事業やリテールメディアをけん引する望月洋志氏と、『トレードマーケティング 売り場で勝つための4つの実践』(宣伝会議)の著者・井本悠樹氏が話し合った。

情報発信でマーケットを盛り上げたい

――『小売り広告の新市場 リテールメディア』刊行の経緯について望月さんに伺います。

望月:前職でリテールメディアのプラットフォームに携わっていて、この領域が広がっていく機運を感じていました。広告業界からの参入も始まっていましたが、運営する小売側がその真価をつかみかねているようなところがありました。

そこでマーケットを盛り上げて様々な人が活用できる環境をつくりたくて、「note」で発信していたところにお声がけいただき、書籍にまとめることになりました。


写真 人物 望月洋志
望月洋志(もちづき・ひろし)/セブン&アイ・ホールディングス グループ商品戦略本部 ネットサービス開発 シニアオフィサー 兼 イトーヨーカ堂 リテールメディアプロジェクト ディレクター 兼 イトーヨーカドーネットスーパー オペレーション本部 副本部長。電通グループ、セブンネットショッピング、博報堂プロダクツ、食品卸の日本アクセスを経て、2023年10月から現職。イトーヨーカドーのリテールメディアとネットスーパーを中心にシステム開発とマーケティングを担当。よりよいサービスの開発とリテールメディアの構築を見据えて事業を推進している。

米国のリテールメディア動向もチェックしていますが、様々な面で国内のずっと先を行っていると感じます。この書籍をきっかけに、小売やメディアにかかわる皆さんとの議論が深まって、少しでもお役に立てればうれしいですね。

――『トレードマーケティング 売り場で勝つための4つの実践』について、井本さんに伺います。

井本:足掛け11年くらいトレードマーケティング携わってきました。特にP&G時代は私の礎となっています。P&Gは一般的に対消費者向けのマーケティングが強いイメージがありますが、トレードマーケティングをビジネスの核に置いている会社だと思います。考え方としてはバイヤーやショッパーのインサイトをベースに、いかに小売とカテゴリー成長を達成していくかを大前提としています。この領域の知見はまだ世の中に出回っていないので、私の経験も含めてまとめてみようと考えました。

小売とメーカーが協力して課題に向き合う

――望月さんは小売の立場でトレードマーケティングについてどう考えていますか。

望月:今はテクノロジーも進化し、トレードマーケティングの世界は広がっているので、今だからできることにチャレンジしたいですね。

小売とメーカーの関係も変わりつつあります。例えば食料品については、少子高齢化と人口減少によってマーケットが縮小せざるを得ない状況です。そうした課題に対して、カテゴリーのくくり方から見直してマーケットを大きくしようとか、隣接するカテゴリーを育てていこうといった発想で、メーカーと一緒に取り組んでいく姿勢が必要です。

既存のマーケットでメーカーとゼロサムゲームをしても仕方がありません。そういう意味ではリテールメディアも同じで、小売もメーカーも一緒に消費者に向き合っていくために話をすることが肝なのではないでしょうか。

井本:まったくその通りですね。トレードマーケティングの手法はどんどん増えています。ただ依然として、実態は値引き、リベートが主体でメーカーがいかに納品数を増やすかをゴールとしているので、営業の現場での売り方、コミュニケーションの仕方はほとんど変わっていないという課題がありました。それがリテールメディアの登場によって、メーカーは単なる「納品最大化」を目指すのではなく、小売と同じ顧客(ショッパー)を志向し、手に取ってもらうための方法を積極的に考えるようになったのは、非常に大きな意義だと捉えています。


写真 人物 井本悠樹
井本悠樹(いもと・ゆうき)/P&Gジャパン、ジョンソン・エンド・ジョンソンで、トレードマーケターとして20を超える新製品開発や流通戦略策定に携わり、複数ブランドでNo.1シェアを獲得。4度の年間アワード受賞などの実績を残した。2019年4月フェズに参画し、リテールメディアを活用した統合プランニングの責任者を務める。また、自身でもコンサルティング会社のキャプロを創業し、大手メーカーやDtoCブランドの流通戦略策定を支援するほか、講演や寄稿などを通じてトレードマーケティング領域の啓発に努めている。

また、10年前と今では小売の環境もまったく違いますし、消費者も変わっています。当然、バイヤーが抱える課題、悩みや経営に対するアジェンダも変化しているので、それぞれの商品が貢献できるポイントや解決の方向性も変わるべきです。だけど、肝心の「トレードマーケティング」という概念に明確な定義がなく、こんな大きな環境変化を前にして、未だに営業の延長線上で語られるものでしかない現状を課題に感じて、本にまとめたという経緯もあります。

最近はDtoCブランドの支援を手がけることが増えていますが、消費者にとってはもちろん、小売にとっても単価やロイヤリティの高さなどでメリットがある、良い商品がたくさんあります。ですが、その自分たちの価値を小売、バイヤーにうまく伝えることができていません。

ここにトレードマーケティングの助けがあると、良い商品が適切に店頭に並ぶ世界をつくることができると思っています。これまで「営業力」みたいな属人化した話で終わっていたことを体系化して、良い商品を届ける環境づくりをできるようにすることがトレードマーケティングの本質です。望月さんが指摘した、食料品分野の市場縮小 の解決策としても機能してくれると確信しています。

マーケティング組織の世代交代に期待

――望月さんから見て、小売とメーカーの関係を進化させるにあたってどんなことが課題と思いますか。

望月:外資系の企業は一般的に、「トレードマーケティング」を型として確立しています。P&Gはその代表である一方、日本企業は「営業」機能にとどまっています。型にすると組織力は強化されますし、再現性も生まれるので、グローバルはその点で進んでいます。

組織化への意識はリテールメディアも見習うところがあると思っています。トレードマーケティングの世界では小売は「される側」ですが、これからは小売側がトレードマーケティングを意識した状態でメーカーとの取り組みにどう向き合うのかを話をしていく時代になっていくでしょうね。

井本:バイヤーの経験者に、「こういうインサイトがありますよね、こんなこと考えたことありますよね」 と聞くと「確かに」と言われることが結構あります。インサイトって潜在ニーズよりももっと深いもので、無自覚で無意識なので、言われてはじめて意識するようなところがある。ここをもっとバイヤー側から明確に、メーカーに対して言語化できるとメーカー側からも建設的な提案が出てくるのではないかと考えています。

リテールメディアはトレードマーケティングの視点からは使いやすい戦術のひとつで、切っても切り離すことができません。リテールメディアを軸にトレードマーケティングが語られ、認知されるようになると逆算的にトレードマーケティングの価値を浸透させられるのではないかと思っています。

――これから期待していることは。

井本:「流通領域に対するマーケティングというものがあるんだ」ということを、マーケティングに携わるすべての方に知ってもらいたいですね。それこそが私が人生を通じてすべきミッションだと思っています。

最近よく感じていることですが、この領域を担う人材の世代交代が進んで一世代若返ったとき、状況は大きく変わるという期待があります。

マーケティングは経験値も大事ですが、過去の成功例がいつまでも通用するわけではありません。若い人たちがインサイトを深掘りして、どんな発想をするのか。リテールメディアの活用も選択肢のひとつですが、新しい発想を持った若い人が組織で中心的な役割を担うことがゴールのひとつになると思っています。

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写真 商品 小売り広告の新市場 リテールメディア

小売り広告の新市場 リテールメディア
望月洋志、中村勇介著

小売りに革命が起きようとしています。その台風の目となるのが、デジタル時代に登場した小売り発の新広告サービス「リテールメディア」です。その市場は、2028年にテレビ広告市場を超えると予測されています。セブン、イオン、マツキヨ、ヤマダデンキ、楽天グループ、博報堂、三菱食品、Amazon、Googleなど、小売り、大手広告代理店、ビッグテック企業から食品卸まで、様々なプレーヤーがこの新市場に熱視線を送ります。
本書はリテールメディアの定義、日米の市場の違い、国内の事例、広告主の活用例、開発支援市場まで、網羅的に徹底解説した、日本版リテールメディアの決定版です。

 

写真 商品 トレードマーケティング 売場で勝つための4つの実践

トレードマーケティング 売場で勝つための4つの実践
井本悠樹著

小売業や卸売業で仕入れを担当する「バイヤー」や、買い物客を指す「ショッパー」を対象とするトレードマーケティングに特化した、日本初の入門書。P&Gジャパンやジョンソン・エンド・ジョンソンで、トレードマーケターとして多くのブランドの商品開発や流通戦略策定に携わってきた著者の知見とノウハウを1冊にまとめました。商品が適切な売場に置かれ、店頭の売上を最大化させるためには、バイヤーのインサイトを深く理解し、その理解に基づく戦略・アイデアを立案し実行することが必要との考え方に基づき、売場で勝つために必要な考え方と具体的な実践について解説します。




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