健康診断データを「見たくなる」ものに 東急エージェンシーの生成AIプロダクト「Health-see」ヘルステックで創出する体験価値

情報やデータがあふれる今、ただ正しく伝えるだけでは、人の気持ちや行動はなかなか動かない。東急エージェンシーの社内横断ユニット「BTEC(ビーテック)」は、そんな時代に合わせて、テクノロジーとクリエイティビティを掛け合わせた新しい価値を創出するアイデア開発に取り組んでいる。

その「最新作」でテーマにしたのは、誰にとっても身近でありながら、つい向き合うのを後回しにしがちな健康診断だ。生成AIを使って診断結果をフィギュア型のビジュアルに変換する「Health-see(ヘルシー)」には、無機質な数値を“自分ごと”として見直すきっかけをつくりたいという狙いがある。

プロジェクトの背景や制作の裏側について、BTECのメンバーでクリエイティブディレクターの矢谷暁氏、発案者の山内聡氏、アートディレクターの相賀翔太氏、ネーミングを担当した米山智輝氏に聞いた。

部署をまたいで集まり、プロトタイプを形にする

東急エージェンシーのアイデア開発ユニット「BTEC(ビーテック)」は、社内の複数部署からメンバーが集まって活動する横断型のチームだ。名称は、Business、Technology、Experience、Creativityの頭文字から取られている。クリエイティブディレクターでコピーライターでもある矢谷氏はこう説明する。

「BTECは、1つの部署の中だけで動いているチームではありません。クリエイティブ、ストラテジー、統合ソリューションなど、いろいろな部署のメンバーが集まって、今は14人ほどで活動しています。特徴は、社内の正式な部署というより、専門の異なるメンバーがフラットに集まり、アイデアを持ち寄っている点です。現在は、プロトタイプ開発を主に担うチームと、東急グループのアセットも視野に入れた、今までにない新たなリアル体験を生み出す別チームの2つが動いています」

東急エージェンシー クリエイティブソリューション局 第3統合プランニング部長 クリエイティブディレクター/コピーライター 矢谷暁 氏

クライアントから依頼を受けて動くのではなく、まず自分たちでプロトタイプをつくり、世の中に出してみる。そこで反応を見ながら次につなげていくのが、BTECの基本スタンスだ。

「完璧なものをつくってから世に出すというより、まずはβ(ベータ)版として世の中に問いかけてみる。そういうやり方を大事にしています」(矢谷氏)

これまでには、リモート会議中の「あいづち」を効果音に変換するアプリや、集中したい時間帯を周囲に知らせる仕組みなども手がけてきた。場の空気感を花の色や形状として表現(反映)する「Log Flower」は、ADFESTでブロンズを受賞している。

健康診断の結果を、ただの数字で終わらせない

3月25日に発表した「Health-see」は、健康診断の結果をAIで読み込み、フィギュア風のビジュアルとして生成するプロダクトだ。数値や判定の羅列として返ってくる健康診断結果を別の形で見せることで、自分のカラダの状態をもっと直感的に捉えられるようにすることを目指している。

発案者の山内氏は、企画のきっかけをこう振り返る。

「僕自身も毎年健康診断を受けていますが、結果を見るのはあまり楽しいものではないんです。なんとなく怖いし、判定もデータとしては見るけれど、そこから健康をちゃんと意識するところまでなかなかつながらない。あの無味無臭な感じを、もう少し違う形にできないかなと思ったのが入り口でした」

東急エージェンシー ストラテジーデザイン局 第2ストラテジーデザイン部 ストラテジックプランナー 山内聡 氏

一般に、健康診断では再検査や受診を勧められても、すぐに行動に移さない人が一定数いる。そうした背景も踏まえ、山内氏は「人は正しい情報を見せられるだけでは、なかなか動けないのではないか」と考えたという。

健康診断書を撮影した画像と本人写真をアップロードし、背景ビジュアルを選ぶとオリジナルのフィギュアのビジュアルが生成される

「頭では理解できても、それだけでは行動につながらないことがあると思うんです。だからこそ、データを見せるだけではなくて、もう少し興味や好意を持って受け止められる形に変えられないかと考えました」

着想の背景には、AIを使って自分のことをアバターやフィギュアのように生成してSNSでシェアするトレンドもあった。ただ、そうした表現の多くは服装や趣味など外側の要素に寄りがちだ。山内氏は、むしろ内側、つまり健康状態のほうに目を向ける発想があってもいいのではないかと考えた。

立体版のフィギュアのモックアップも作成した

また、ネーミングを担当した米山氏も次のように付け加える。

「ネーミングは、健康(Health)をちゃんと見る(see)という意味を込めて『Health-see(ヘルシー)』としました。お察しの通り『Healthy』とかけたダジャレです。

健康診断の結果という、つい身構えてしまう情報を、もっと身近で軽やかなものに感じてもらいたい。そんな思いから、あえて誰もが知っている響きを選びつつ、自分の状態を直感的に捉える(see)という役割を名前に持たせています」

東急エージェンシー 統合ソリューション局 デジタルアクティベーション部 プランナー/WEBディレクター 米山智輝 氏

「正しさ」だけではなく、少し気になる伝え方を探る

このプロジェクトの根底には、「正しいことを言うだけでは、人は動かないかもしれない」という仮説がある。

山内氏は、Health-see を通じて検証したいのは、まさにその点だと話す。

「例えば、健康診断の数値が悪かったという事実だけを見せられても、人は見て見ぬふりをしてしまうことがあります。でも、それが愛嬌のあるフィギュアのような形で現れたら、見方が少し変わるかもしれない。そのように好意や興味を伴った伝え方のほうが、行動につながるのではないか。そこはこの企画で確かめてみたいところです」(山内氏)

相賀氏もまた、BTECの活動にはクライアントの業務とは少し違う面白さがあると話す。既にある商品をどう見せるかではなく、そもそも何をつくるかという段階から関われることが大きいという。

「広告会社のアートディレクターは、基本的には既にある商品やサービスをどう伝えるかを考えることが多いです。しかしBTECでは、その前段階から考えられる。何を形にするのか、どう体験として成立させるのかを考えるのは、普段とはまた違うやりがいがあります」(相賀氏)

東急エージェンシー統合ソリューション局 第1統合プランニング部 アートディレクター 相賀翔太 氏

矢谷氏も、こうした活動は単に新規案件の種になるだけでなく、社内にとっても意味があると見る。

「新しいテクノロジーに触れながら、自分たちで試してみる場になっていると思います。楽しいから始まっている部分もありますし、成長の場でもある。結果として、社内のいろんな人に活動を知ってもらえたり、外部の先端企業との新しいつながりができたりするのも大きいですね」(矢谷氏)

半歩先の未来を、まずは試してみる

BTECの活動は、すぐに事業化や収益化を狙うものばかりではない。むしろ、「こんなものがあったらどうだろう」と思えるものを、まず小さく形にしてみるところに価値がある。完成形を最初から求めるのではなく、まずはプロトタイプとして示し、そこから可能性を広げていく。その姿勢は、今回のHealth-see にも共通している。

今後について山内氏は、「出して終わりではなく、どう広げていくかを考えたい」と話す。健康管理サービスを手がける企業や、健康経営に取り組む企業などとの連携も視野に入れているという。

矢谷氏は最後に、BTECが続けていきたいことについてこう語った。

「何かを正しく伝えるだけではなくて、人がちょっと見てみたくなったり、触ってみたくなったり、そうした入り口をつくることが大事なんだと思います。Health-see もその1つです。これからも半歩先の未来を、まずは形にして試していきたいと考えています」

健康診断の結果を、ただ受け取るだけで終わらせない。BTECの試みは、人が少し前向きに向き合える伝え方を探る実践でもある。

お問い合わせ

株式会社東急エージェンシー

住所:〒105-0003東京都港区西新橋1-1-1日比谷フォートタワー
Mail:kouhou@tokyu-agc.co.jp

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