音楽は映像を説明するものではない
広告における音楽選定を、さらに複雑にしているのが、映像との関係性である。ストーリー、カット数、テンポ、色、質感。これらすべてが音楽の選定に影響する。同じターゲット・同じ商品であっても、映像が変われば音楽の最適解は変わる。
よく起きる問題が、音楽と映像が互いを説明し合ってしまう状態だ。例えば、感動的な映像に対して、感動的な音楽をそのまま乗せる。一見正しいが、結果としてどちらの印象も弱まってしまう。逆に、適切に設計された場合は、音と映像のどちらか一方では成立しない、新たな意味が立ち上がる。そこに初めて作品としての強度が生まれる。
こうした前提をもとに、音楽の方向性が決まり、制作や選曲、編集が行われる。さらに、音楽は「時間軸」を整理する装置でもある。問題提起から解決へ、あるいは緊張から解放へ。構成の各セクションを音楽の展開によって明確にすることで、ストーリーの理解度は大きく変わる。
実際の現場では、この構造を仮説として持ちながら、複数の音楽を当て、検証し、微調整を繰り返す。そのプロセスの中で、「良い/悪い」の判断が積み重なっていく。
優れた広告において、「映像だけが良い」「音楽だけが良い」という状態はほとんど存在しない。どちらか一方を欠いた瞬間に成立しなくなる関係性が構築されている。そのとき初めて、「なぜ音楽が必要なのか」という問いに対する答えが実体として立ち上がる。
良し悪しを判断するための感覚を磨く
ここまでの話はある程度ロジックとして整理できる。しかし、それを実務レベルで成立させるのは最終的に「判断の精度」だ。
僕自身、長い時間を音楽の中で過ごしてきた。10代と20代を過ごした南カリフォルニアでバンドをやり、ボストンのバークリー音楽大学で学び、音楽に浸り続けてきた。理論も知識も、それなりに積み上げてきたつもりだった。
その後LAに移り、あるプロデューサーと出会った。彼は音楽を勉強したこともなかったが、10年間現場で音楽を作り続けてきた人間だった。明らかに、自分よりも優れていた。
違いはシンプルで、知識量ではなく「判断の精度」だった。何が良いか、悪いかを、実際の文脈の中で判断し続けてきたかどうか。その差だ。
広告における音楽も同じだ。どれだけ言葉を尽くしても、最終的には選ぶしかない。その選択の質を決めるのは、経験と蓄積された感覚だ。
だからこそ前提として必要なのは、音楽を愛していること。そしてそれを、実務の中で使い続けることだ。Vコンに音を当てる、ストーリーボードを読みながらプレイリストを組む、実際に作る。その繰り返しの中でしか、判断は研ぎ澄まされていかない。
僕の講座では、その「感覚」をどうやって広告の文脈の中で機能させるかを扱いたいと思っている。現場で実際に行われているプロセスをベースに課題を設定し、「なぜその判断になるのか」を言語化していく。さらに、広告祭の審査を通じて見てきた評価基準も共有する。
音楽は広告において、最後に乗るものではない。構造そのものを規定する要素だ。その前提に立ったとき、見えるものは大きく変わるはずだ。

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| 開講日 | 2026年4月22日(水) 19:00~21:00 |
| 講義回数 | 全6回 |
| 開催形式 | 教室(表参道)とオンラインを各回自由選択できるハイブリッド形式 |
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