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アフリカやアジアの農地を奪う「ランドラッシュ」とは何か

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泊 みゆき バイオマス産業社会ネットワーク理事長

資源は誰のものか(1)―『環境会議』2013年春号より

ランドラッシュ、あるいはランドグラビング(農地収奪)とは、バイオ燃料、食料、炭素クレジット獲得などを目的とする、大規模な土地取得のための投資のことである。

ここ数年、その動きが非常に目立っている。2011年7月に発表された国連の機関の報告書*1によると、世界で5000~8000万haと推定されている。安価もしくは無償で数万ha単位の農地が所有移転、賃貸される。その中には地域住民に十分な情報提供もなされず、彼らの合意なしで話が進められ、土地に対する権利が尊重されず立ち退きを求められるといったケースも多数発生している。

*1 国連食糧安全保障委員会食料安全保障と栄養に関するハイレベル専門家パネル土地に対する権利と国際農業投資報告書。抄訳はこちらに掲載されている。

後手にまわる日本企業の対応

日本企業が関わっている例では、フィリピン北部で伊藤忠商事と日揮がサトウキビからエタノール(バイオ燃料の一種)生産を行う事業において、先住民や地域住民が土地を詐取されるというトラブルが起きている(詐取しているのは地域の有力者などで、企業が直接詐取したのではないが、配慮が足りなかったと考えられるケースであろう*2)。

ランドラッシュ

フィリピンの農地収奪が起きているエタノール事業に反対する農民たち。(写真提供:国際環境NGO FoE Japan)

このランドラッシュや紛争鉱物の問題への対応について、日本の政府や企業の動きは基本的に欧米の後追いである。いくつかの例外を除けば、規制が始まったから、国際的に問題とされているから、渋々動き出すというという感は否めない。その根本には、「持続可能な社会を構築すること」が政府や企業のミッションとして、充分意識されていないことがあるのではないかと思われる。関係者の人権意識の低さも理由の一つだろう。その点、そのミッションを明確にしている国々の政府や企業の動きは迅速である。

*2 詳細は、こちらを参照のこと。

大規模集約化農業は持続可能でない

また、このランドラッシュをめぐる問題点の一つは、農業への考え方の問題である。グローバリゼーションの進展とともに資本投入型で機械化され、効率を追求する大規模農業を将来のめざすべきものとするか、小規模な地域に根付く適正技術を用いた家族農業とのバランスを考えるのか、である。途上国の農村事情に詳しくない経済専門家は、前者を推進しがちだが、2008年に世界各国の400人の農業専門家がまとめたIAASTD(開発のための国際農業技術評価)報告書『岐路に立つ農業』*3では、後者の方が持続可能な農業を実現しやすく、面積当たりの雇用創出力もはるかに高いと結論づけている。

かつての日本のように、少ない労働力で収穫量を確保するには規模の集約や機械化が一定の成果を上げるが、化学肥料や農薬、不適切な灌漑に頼る近代農業は各地で土壌を疲弊させ、多くの農民を借金漬けにしている。持続可能な農業の将来を考えた場合、大規模集約化農業一辺倒というのは、偏った考え方と言えるだろう。

*3 要旨抄訳が、(*1)の55頁より掲載されている。

日本にいながらできることがある

こうした状況に対し、私たち一人ひとりの消費者には何ができるだろうか。第一は、エネルギー資源や原材料がどこからきているのかを「知ること」、「知ろうとすること」である。今は、インターネットからでも、多くの情報を得ることができる。

第二に、「購入の際に意識すること」である。自分が買おうとしているものが、どこでどのようにつくられたものなのか知った上で、購入の判断材料にすることが重要である。フェアトレードや認証など、消費者に伝えようとする商品が出始めている。割高なものもあるが、できればそういったものを選択するように意識する。そうすると、企業も動きやすくなる。社会的によい商品でも、売れなければ、生産し続けることはできない。生協や有機宅配などでも、トレーサビリティ(追跡可能性)にこだわった商品を提供しており、そうしたものを利用するのも一つの手段になる。

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株取引をする人ならその際に、金融機関を利用(預金、投信など)する場合も可能ならば問い合わせすることも有効である。ランドラッシュには世界的なファンドが関わっているが、それらには日本の年金や投信などが関わっている可能性がある。

原材料の仕入れ先を尋ねてみる

第三は、「さらに働きかけること」である。例えば、チョコレート会社に、御社の原料のカカオには児童労働を使っていないという確認をしているのかどうか、メールや電話でカスタマーセンターに問い合わせるといったことである(現在、多くのカカオ農場で児童労働が行われている)。ちょっとしたことだがそうした行動が、企業を変える原動力になる。あるいは、さまざまな機会をとらえて周りの人にこうしたことを伝えることも重要である。

第四は、NPOやNGOなどの活動に関わることである。WWF(世界自然保護基金)やFoE(フレンズ・オブ・ジ・アース)などさまざまな団体が、商品の持続可能性に関わる活動を行っている。大手企業を中心に、企業の社会的責任(CSR)について指針を立てたりサステナビリティ報告書を出したりする活動が広がっている。しかし会社によって温度差があり、方針や報告書には立派な内容が並んでいても、実際の企業活動で反映しきれていない例も多い。

グローバルな市場における価格競争力を優先すれば、農業は大規模集約化に向かう。しかし、そのために土地を奪われた人々が増え、地域の経済や社会が破たんすれば、別の支援が必要になる。また、大規模化した農地では遠からず土壌が疲弊する可能性が高い。20世紀の経験から、短期的な経済性を優先することは、長期的な経済性を損ない、新たな問題を引き起こすことは明らかだろう。

持続可能性という観点から、食品、木材、鉱物、バイオ燃料などには、よい(持続可能な)ものと、悪い(持続可能でない)ものがある。そのことを理解し、一人ひとりの消費者が、できるだけよいものを選ぶようにすることが重要である。安さだけにとらわれていると、質の悪化だけでなく、まわりまわって私たちの足元が危うくなる。そのリスクについて意識し、できるところから動く人々が増えれば、少しずつでも社会はよい方向に変わっていくだろう。

そのために、21世紀は、小規模でも持続可能な一次産業の未来像を描き、実践していくときである。それは、けっして理想論ではなく、創意工夫次第で可能になる。その一例が次回紹介する土佐の森・救援隊と吉里吉里国の木質バイオマスを活用した取組みだ。

『環境会議』2013年春号(3月5日発売)でもお読みいただけます。

『環境会議2013年春号』
『環境会議』『人間会議』は2000年の創刊以来、「社会貢献クラス」を目指すすべての人に役だつ情報発信を行っています。企業が信頼を得るために欠かせないCSRの本質を環境と哲学の二つの視座からわかりやすくお届けします。企業の経営層、環境・CSR部門、経営企画室をはじめ、環境や哲学・倫理に関わる学識者やNGO・NPOといったさまざまな分野で社会貢献を考える方々のコミュニケーション・プラットフォームとなっています。
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