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「建築のノーベル賞」プリツカー建築賞を受賞した伊東豊雄建築設計事務所の最新プロジェクトとは

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取材協力 
伊東豊雄建築設計事務所

つかさのまち夢プロジェクト

南側外観

岐阜大学医学部の跡地を利用して始まった「つかさのまち夢プロジェクト」。画像は第Ⅰ期複合施設(図書館や展示室、研修室、多目的ホールを備えている)の南側外観

建築家の伊東豊雄氏がプリツカー建築賞を受賞することが決まった。プリツカー建築賞は、米ハイアット財団主催し、「建築のノーベル賞」といわれるほど権威ある賞。2010年には建築ユニット「SANAA」(妹島和世・西沢立衛)が受賞しており、日本人では通算6人目の受賞となる。

授賞理由について審査委員会は、「40年以上にわたり、傑出した建築物を生みだし、建築の持つ可能性を追求してきた」としている。また、東日本大震災の被災地での集会施設「みんなの家」(仙台市、岩手県陸前高田市など)についても「建築家の社会的責任感の体現」と高く評価されている。賞金は10万ドル(約950万円)、授賞式は5月29日に米ボストンで開かれる。

世界的にますます注目を集めそうな伊東豊雄建築設計事務所が岐阜市で手がける「つかさのまち夢プロジェクト」について聞いた。

駅前の活気を取り戻したい

岐阜大学医学部の跡地1万5000㎡をどう活用するか、そんな議論が岐阜市内で始まったのは10年以上前のこと。岐阜大学が、それまで分散していた各学部を一カ所に集める方針を固めたため、JR岐阜駅から2㎞ほどの場所に大きなスペースができた。「この跡地を活かして駅前の活気を取り戻したい」多くの人がそんな思いを抱いた。

岐阜はもともと繊維産業が盛んなところで、駅前には問屋街が広がりそれに隣接して柳ケ瀬商店街がある。しかし、近年は繊維産業がかつての活気を失い、それに伴って駅周辺の人通りも賑わいも消えてゆくという寂しい状況が続いていた。

反対に岐阜駅周辺から離れた愛知県に隣接するエリアに住む人が増えていった。愛知県の会社で働き、買い物は名古屋市内や郊外の大型ショッピングセンターにクルマで出かける。そんな若い世代が増えるとともに、駅前が元気を失っていたのだ。

「なんとかしなければ」という状況のなかで、岐阜大学医学部移転の話。市役所はこれを受けて、市民に跡地の利用に関するアンケート調査を実施した。その結果、多く寄せられたのが「図書館がほしい」という声だった。「いまある図書館は小さくて不便なので、建てなおしてほしい」という声が多かったという。しかし、この広い土地に図書館だけを建てるのは今の時代にはふさわしくない。

そこで、複合施設をつくるというアウトラインが決まっていった。まちのシンボル金華山と長良川プロポーザルにあたり、伊東事務所では、まず岐阜市のランドスケープに着目した。

「岐阜駅のすぐ近くに金華山があって、その頂上にはかつて織田信長や斉藤道三がいた岐阜城があります。地元の方はみんなこの山が大好きですし、歴史的に大事にされてきました。また、近くには鵜飼で有名な長良川があり、その周辺には豊富な伏流水が流れています。そこで、金華山を背景に、自然の力を有効に活用した建物をつくれないかということになりました」そう話すのは、伊東豊雄建築設計事務所の庵原義隆氏だ。

「緑豊かな金華山が借景になっていることもあり、まちのなかには緑が少なかったのです。そこで、この敷地一帯に森をつくろうということになりました。最初に、持ち上がったのが敷地のなかに250mの並木道をつくるプラン。やがて、この緑が岐阜駅まで続く並木道になっていくといいと思っています」(庵原氏)

並木道を整備して、交通量が増えれば、柳ケ瀬商店街に立ち寄る人も増え、まちが活気を取り戻す、そんな好循環が期待される。

自然換気、自然光で快適省エネ

2階内観

図書館2階内観


環境_小

自然喚起や自然採光で消費エネルギー2分の1(1990年比)の建築を実現。

伊東事務所では、1990年比で、面積当たりのエネルギー消費量を半分にすることを目指している。そこで、外観だけでなく、内側にも自然のエネルギーを取り入れながら、省エネ性能のいいものはできないかと考え、出てきたのが、大きな家の中に小さな家が建っているという構成だった。

逆ろうと形状の大きな「かや」のようなものは「ベルマウス効果」といって、足元の空気を集めて上に向かう流れを自然に発生させる。これを動力とすることで穏やかな自然換気が可能になるのだ。これにより、機械の力は最小限で済む。また、自然光をきれいに拡散させる効果も併せ持ち、照明に要するエネルギーも最小限におさえられるという。

「小さな家で、はリビングルームのようにくつろいで本を読むことができます。小さな家の屋根は宙に浮いていて、足元が開いているので、適度な開放感があるのもポイントです。これを『グローブ』と呼んでいます」(庵原氏)

グローブに使われる素材は3方向に軸をとって編まれており、曲げるのが容易、かつ熱して冷やすと固まる性質をもっている。これを大きな家からぶら下げる。透明感があり、薄い布地のようだ。大きいものが直径14m、小さいものが8m。大小様々なグローブがあり、あちこちから自然の風や光が抜ける。図書館の閲覧室は、そんな気持ちのいい空間を目指している。

人と人のつながりをつくる図書館


p4-2特別授業

岐阜市内の小学校で行われたワークショップ。伊東豊雄氏が模型を使って説明すると、子どもたちは興味津々。ワクワクした目で聞きいっていたという。

岐阜市のように、産業構造の変化による地場産業の衰退やそれに伴う地域経済の地盤沈下といった問題を抱える地域は多い。そんな地域にとって、まちの公共施設や景観の整備は元気を取り戻すきっかけとなる。

その効果的な取組みには、そこに集いたくなる魅力ある建造物(ハード)と、住民が自ら参加したくなる仕組み(ソフト)の両方が必要だ。その点、伊東事務所のプランは、ハードのなかにソフトを織り込み、地域との交流や提案・働きかけといったソフト面の取組みがハードの魅力を高め相乗効果を生み出そうとしているようだ。

新しい図書館の使い方については、建設中も様々な人たちとの話し合いが続けられていく予定だ。

『環境会議』2013年春号(3月5日発売)より抜粋。記事全文は本誌でお読みいただけます。

伊東豊雄(いとう とよお)
1941年(昭和16年)生まれ。建築家。一級建築士。伊東豊雄建築設計事務所代表。日本統治時代の朝鮮京畿道京城府(現・大韓民国ソウル特別市)に生まれ、2歳頃から中学生までを祖父と父の郷里である長野県諏訪郡下諏訪町で過ごす。東京都立日比谷高等学校、東京大学工学部卒業後、菊竹清訓設計事務所に勤める。1971年(昭和46年)に独立。高松宮殿下記念世界文化賞、RIBAゴールドメダル、日本建築学会賞作品賞2度、グッドデザイン大賞、プリツカー賞など多数受賞。後進の建築家を多く輩出する教育者としても高い評価を得ている。世界でも重要な建築家の一人とみなされつつある。

『環境会議2013年春号』
『環境会議』『人間会議』は2000年の創刊以来、「社会貢献クラス」を目指すすべての人に役だつ情報発信を行っています。企業が信頼を得るために欠かせないCSRの本質を環境と哲学の二つの視座からわかりやすくお届けします。企業の経営層、環境・CSR部門、経営企画室をはじめ、環境や哲学・倫理に関わる学識者やNGO・NPOといったさまざまな分野で社会貢献を考える方々のコミュニケーション・プラットフォームとなっています。
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