BtoB企業にとって、自社の事業内容や魅力を一般層、特に若年層へ正しく伝えることは容易ではない。「運輸」という社名ながら、顧客の製造現場における請負など特殊で多角的なビジネスを展開する鴻池運輸も、知名度向上や採用広報に課題を抱えていた。
その解決の糸口として、同社は公募型広告賞「宣伝会議賞」第62回(2024年度)は一般部門、第63回(2025年度)は中高生部門へと2年連続協賛し、課題を提示した。結果として、第三者の視点による自社の魅力の再発見にとどまらず、社内コミュニケーションの活性化という思わぬ副産物も得たという。広報チームが語る、協賛の背景から白熱の審査プロセス、そしてオウンドメディアやTikTokでの具体的な活用展望までを紹介する。
BtoB企業ならではの採用広報課題と協賛の狙い
鴻池運輸が宣伝会議賞に協賛した最大の背景には、採用広報における認知度の低さという切実な課題があった。同社は2013年に株式上場しているものの、BtoB企業であるがゆえに一般の生活者との接点が少なく、企業名が広く知られているとは言い難い状況だったという。
さらに広報担当者が「名前が体を表していない」と語るように、同社の事業は「運輸」の領域を超えている。運輸に関わる事業は売上ベースで約4割であり、残りの多くは顧客の工場内に入り込み、生産ラインの一部を担うような請負業務など、独自のビジネスモデルを展開している。だからこそ、単に企業名を知ってもらうだけでなく、求職者に対して解像度高く、正しく自社の姿を理解してほしいという強い思いがあった。
また、同社は「期待を超えなければ、仕事ではない」というブランドプロミスを掲げており、顧客からその言葉に沿った評価を受けることはあった。KONOIKEグループのブランドをはじめ、事業理解を得るためのさまざまな情報発信をしているものの、発信したメッセージが世の中にどう受け取られているかまでは十分に把握しきれていなかったという。
その点、宣伝会議賞に参加することで、応募者が同社の事業内容やブランドメッセージを咀嚼し、応募者自身が理解した文脈で新しい言葉を生み出してくれる。同社にとって、年1回実施している社外向けのブランド調査の数字だけでは見えにくい「自社がどう見られているか」を、新しい視点で捉える機会となった。さらに、2024年の協賛で得た、物流という枠にとらわれずに他の側面から考えてもらうことへの手応えから、若年層に会社に興味を持ってもらう採用広報の一環として、継続的な協賛を決定した。
「KONOIKEで働きたい!」と願わずにいられないキャッチフレーズを募集した
圧倒的な熱量が引き出した課題と白熱の社内選考プロセス
宣伝会議賞の醍醐味は、普段は接点のない一般の生活者や中高生が、企業の事業について深く調べ、考え抜く点にある。広報担当者は、応募者たちの圧倒的な熱量に非常に驚かされたと振り返る。
贈賞式で直接話を聞いた際、企業を営む側とは異なる、コピーを考える側からのアプローチや熱量にすさまじいものを感じたという。特に中高生部門の協賛企業賞の受賞者である山本詩絵さんにインタビューした際には、思わずご自身が入社したくなるほど企業研究に没頭したと伺ったという。若年層ならではの視点と探求心から生まれた言葉には、企業の意図を深くくみ取った説得力があった。
一方で、集まった数万点に及ぶ応募作品の中には、同社を純粋な物流企業として捉えたコピーも多く見られた。これにより、ブランディングにおいて「物流企業だけではない」という発信をさらに強化しなければならないという客観的な課題も浮き彫りになった。
広報チームによる審査は、多大な時間をかけて丁寧に進められた。全作品をExcelに一覧化し、物流のイメージだけに絞られたものや、本来の意図から外れたものを丁寧に除外した。物流以外にも多様な事業を展開していることを正しく理解しているコピーを抽出した上で、チームメンバーが対面で集まり議論を重ねた。最終的な選考プロセスでは、純粋な広告的視点から評価するメンバーと、会社理解の深さを重視するメンバーで意見が大きく割れたという。広報担当者は「意見が真っ向から対立し、非常に白熱した議論になったが、それがとても楽しかった」と振り返り、社外からのアイデアをぶつけ合う過程そのものが有意義であったことを示唆している。
受賞作品が社内の風通しを改善 オウンドメディアやTikTokへの展開
宣伝会議賞での受賞作品は、同社のプロモーション活動に具体的な変化をもたらしている。その好例が、2024年度の一般部門でグランプリを獲得した、フンコロガシをモチーフにしたエッジの効いたコピーである。
鴻池運輸は本来、堅実な社風であり、ユーモアに富んだクリエイティブは社内審査を通しにくい土壌があった。しかし、「社外のイベントで堂々とグランプリをいただいた作品だ」と説明することで、社内の決裁がスムーズに下りたという。この作品のラジオCMや雑誌広告への起用は社内でも大きな話題となり、賛否両論ありながらも注目を集めた。「目に見えた劇的な変化ではないが、そこから社内の風通しが良くなり、活発なアイデアが出やすくなった先駆けだと感じている」と、副次的な効果を明かす。
さらに、広報の成果として明確な数字の動きも見られている。自社のオウンドメディアである「KONOIKEジャーナル」に、贈賞式の様子や山本さんのインタビュー記事を掲載したところ、大きな反響があったのだ。
オウンドメディア「KONOIKEジャーナル」に掲載した記事が反響を呼んだ
広報担当者は「宣伝会議賞関連の記事は非常に反応が良く、『宣伝会議』という検索ワードを経由して流入する読者は多い」と語り、オウンドメディアの活性化に大きく寄与している。
こうした成功体験を踏まえ、2025年度の中高生部門の協賛企業賞作についても積極的な活用を視野に入れている。採用サイトのトップなどで活用できれば、多様な部署の社員インタビューとも親和性が高く、コピーの魅力がより引き立つと考えている。さらに、最近は若年層へ向けてTikTokの展開も強化している。
広報担当者が「広報室が運用するSNSなどでもうまく受賞作を乗せて発信したい」と語るように、社外の知と熱量を取り込むことで、自社の事業価値を再定義し、社内の風土にまで良い影響を与えた鴻池運輸。宣伝会議賞は、企業の採用広報戦略を次のステージへと押し上げる強力な原動力となっている。
広報担当の葭谷隼人氏(左)と刀根明日香氏
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「宣伝会議賞」は月刊「宣伝会議」が主催し、広告表現のアイデアをキャッチフレーズまたは絵コンテ・字コンテという形で応募いただく公募広告賞です。雑誌『宣伝会議』の創刊100号を記念して1962年に始まり、以降、若手コピーライターの啓発、ならびに人材の発掘・育成やコピーライターの意識の向上を目的に開催しています。現在は「コピーライターの登竜門」として知られ、日本最大規模の公募型広告賞の一つです。
協賛企業が提供する広告課題に対して、キャッチフレーズや企画アイデアを広く募集する事で、企業のマーケティング・ブランディング施策におけるクリエイティブ価値の創出機会として評価されています。審査員は広告界の第一線で活躍するコピーライターやCMプランナー、クリエイティブディレクター約100名が務めます。





