生成ツールの進化と制作体制の変化
映画監督の山口ヒロキさんは生成AIによる映画制作に取り組み、2025年8月にはAI映画『グランマレビト』を劇場公開した。同年10月にGoogleがリリースした「NanoBanana」がキャラクターの一貫性を保てるビジュアル生成ツールだったことで制作環境は大きく変化した。
「2024年頃は同じカットに30~40回の生成を繰り返すこともありました。今はプロンプトのコツもわかってきて、狙い通りの画が1回で出ることもあります。制作期間も大幅に短縮されましたし、ノウハウのないまま実験を繰り返す段階は終わったと感じています」(山口ヒロキさん)。
使用するサービスはKling AIやRunway、音声生成のElevenLabsなどに絞られてきた。複数の画像から間のフレームを補完してカメラワークを指定できるPikaのように、特定の機能が必要なときだけ単月で契約して使うツールもある。
現在の制作体制は約7人。山口さんがディレクションとメインビジュアルを担い、動画生成などをAIオペレーターが担当する。メンバーの出自は実写の演出部や制作部、元役者の映画監督のほか、映像とは無関係の仕事からAIの登場を機に転身したクリエイターまで多様で、作風の近いつくり手を選んで起用できるようになったという。「撮影現場にしかいなかったスタッフが、ポストプロダクションで新しい仕事をしている。AIでむしろ仕事は増えています」(山口さん)。
一般部門で上映されるAI映画
2025年以降、国内でもAI映画祭やコンテストが相次いで立ち上がり、アウトプットの場の増加がAIクリエイターの裾野を広げている。山口さんがフルAIで制作した『観測者過多都市』は、「ショートショート フィルムフェスティバル & アジア 2026」のCinematic Tokyoプログラムに入選し、第4回横浜国際映画祭でも上映された。いずれもAI専門の映画祭ではなく、一般の映画祭での選出だ。
「一般の部門で普通にAI映画が上映されるのは、昨年まではなかった変化です。観客の側も、『AIでこんなものがつくれるのか』という驚きは薄れ、関心は作品の内容そのものに移っています。中身が伴わなければ見てもらえない。ようやくスタートラインに立った段階だと思います。映像業界でも、AI自体、昨年までは珍しい技術として一応知っておく、という温度感でしたが、今年はどう取り入れるかを実際に検討している会社ばかりです」(山口さん)。
