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コラム

やかん沸騰日記

強いクリエイティブを作るチームワークとは

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ヨーロッパの朝

ヨーロッパのある街でCMとグラフィックの撮影をした時の話です。

その街は日本に比べると湿気が少なくカラッとしてるのですが、日光は日本のそれより強烈で、日なたと日陰のコントラストがくっきりしている、歴史のある美しい街でした。

ここで僕ら日本人の企画チームと、ヨーロッパ人の監督、DP(ディレクターオブフォトグラフィ)率いる撮影チームでコラボレーションしました。

制作プロダクションも、日本と現地のコラボレーションです。

僕は、海外のDPと仕事をしたことはありましたが、海外の監督と仕事をするのはこれが初めてでした。

日本とヨーロッパでは、当然文化や感性、プロセスの違いが山ほどあります。

海外の監督と組むと、この考え方ややり方の違いが裏目に出て、うまくいかない結果になるか、逆にこの双方の違いがかけ算になって、予想外のクリエイティブシナジーを生み出すか、そのどちらかになるとよく聞きます。

その時は、僕らの場合は幸運にも後者でした。

クライアントとスタッフみんなの化学反応によって、想定していた何倍ものクオリティのアウトプットが生まれた最高のチームだったと思います。

いいクリエイティブを作るためには、いいチームワークが必要。

このことについて、あらためて非常に勉強になった撮影でした。

そこで僕がこの撮影で強く感じた、強いクリエイティブを作るためのキーワードを3つ書こうと思います。

一つ目のキーワードは「高い志の共有」です。

「こっちが言ったとおりやってほしい」

と頭ごなしに言ってしまったり、

「もうその程度のものでいいから」

と妥協してしまったら、クリエイティブはそこまでになってしまいます。

クリエイティブ作業で一番大切なのは、同じ志を高いレベルで共有すること。

もっとブランドの目的をかなえるためにはどうすればいいか、もっと強いクリエイティブにするためにはどうしたらいいかについて、スタッフ全員で時間と予算の限界まで根気よく粘ることだと思います。

僕は、監督に「ここは、こうやってくれ」とは言わず、必ず「もっとこうしたいんだけど、何か方法はないものか?」と言うようにしました。

監督は、そんな僕らの要望に対して、一回たりとも「それは無理だ」と言わず、それを実現するために、マジシャンのようにあの手この手を考え出してくれました。

こうして、ワンカットごとに、企画コンテにも演出コンテにもなかった、現場の工夫が盛り込まれていきました。

二つ目のキーワードは、この「現場の知恵」です。

撮影に限らず、イベントでもキャンペーンでも、設計図段階で想定していた以外のことが現場で必ず起こります。

このエグゼキューション段階での偶然をどうプラスに生かすかが、強いクリエイティブを生み出してキャンペーンをブーストさせる大きなポイントだと思います。

見たことのない映像演出は、教科書に載っていない手法から生まれるものです。

そしてそのようなオリジナリティのある工夫は、現場で生まれることも多いのだと思います。

カンヌなどで受賞する海外のCMには、そういった今まで見たことのない映像演出にはっとさせられることが多いのです。

タレントが出演する撮影や、時間的制約が厳しい撮影の多い日本では、こういった冒険的な現場演出はなかなか難しいのが現状かもしれません。

三つ目のキーワードは「対話と信頼」。

クライアントの事情をいっぱい背負って、一度も仕事をしたことのない海外の監督と電話で会議をしていると、ちょっとしたことで「大丈夫かな」と心配になったり、「本当にちゃんとやってくれるのかな」と不信感を持ってしまいがちです。

でも、おそらく海の向こうでも同じことを感じてるはずです。

ここでどちらかが、どちらかの国のやり方を一方的に押し付けたり、志を下げてしまったらせっかくの化学反応が止まってしまいます。

絶対的な信頼がないといい仕事はできません。

このためにはどうしたらいいか。

ベースになるのは、クライアントと僕らの絶対的な信頼構築。

そしてその上で、海外スタッフとは日本人同士でやるときの何倍も対話を重ねることなのです。

海外では、現地に飛ぶ前の段階で、演出コンテに加えて「トリートメント」という分厚い書類を提案してもらいます。

ここには、ロケ地や世界観や通常の演出に加え、ワンカットごとにどういう照明でどんな撮影をするかについてのアイデアが詳しく書き込まれてあって、僕らはこれをベースに何度も何度も電話会議を重ねました。

ハイコンテクスト社会と呼ばれる日本だと、この辺は「あうん」の呼吸で済ませることが多いのですが、ローコンテクスト社会の海外では、細部にいたるまでしっかり書面を使って対話をするということが必要なんだと思います。

現場では、よいと思ったら、しっかり「よい」という意思表示をする。

「OK」という言葉以上に、「ハピネス」という言葉が飛び交っていました。

だめな場合は、毎回企画の目的にまでさかのぼってロジカルに明快に意思を表明する。

クライアントの事情であっても、その事情の背景にまでさかのぼって説明する。

文化が違う国と一緒にものを作る場合は、意思表現とその背景説明を日本の倍以上丁寧にしなければいけないのです。

言語の壁や、シャイな性格を理由にこれを避けてはいけないのです。

このきめ細かい対話によってのみ信頼が生まれてくるからです。

クリエイティブの醍醐味のひとつは、異なる頭脳と技術と経験を持ったプロたちが、予想外の化学反応を起こすことだと思います。

その中でも、CM制作というのは、最も多くの人間の力が組み合わせて作り上げる作業。

高い志の共有。

現場の知恵。

対話と信頼。

今回僕は海外とのコラボレーションを通じて、モノを生み出す普遍的なチームワークの基本をあらためて学んだのだと思います。

次回は29日(水)に掲載致します

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