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コラム

いま、地域発のクリエイションが面白い!

多様な「視点」を武器にする――(博報堂関西支社 クリエイティブディレクター/CMプランナー/コピーライター 河西智彦)

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メディア企業も大手クライアントも東京に集中している日本の広告界。東京にいないと、クリエイターとしての仕事にスケールや広がりはないのでしょうか?
 コミュニティの密度が高いからこそ実現する企画、その地に暮らしているからこそ発想できるアイデアや表現…。さらにネットが登場したことで、日本全国どこにいても世界と向き合うことができるようになりました。「土地に縛られる」という物理的な制約もなくなってきた昨今の状況は、クリエイターの仕事にどのような影響を与えているのでしょうか。
 地域で働くクリエイターが感じている「限界」、そして「可能性」。6人のクリエイターが等身大で、「自分の仕事」の今を語ります。


博報堂関西支社 クリエイティブディレクター/CMプランナー/コピーライター 河西智彦

 
味覚糖グミガーム テレビCM「雪山(8時間)」編

はじめまして。博報堂関西支社の河西智彦(かわにし・ともひこ)です。1999年入社です。最近は、関西の遊園地「ひらかたパーク」やUHA味覚糖、IWATTE、大阪経済大学、トヨタ自動車などの仕事をしています。

「大阪が笑いの聖地」といったクリエイティブ論はすでに語り尽くされていると思ったので、今回は「僕が関西に来て知った視点」というテーマで話してみようと思います。すみません、やや堅めです。あくまでも僕たちクリエイターはクリエイティビティで勝負しなくてはいけない、ということは大前提として話しますね。

” 偽メジャー感覚 ” の危険性

僕は入社して7年間営業を経験した後にクリエイターになったので、人一倍「効く広告」に関心があります。

そんな僕は東京の世田谷(の田舎)で生まれ育ち、33歳まで東京以外で暮らしたことがなかったのですが、4年前に転勤で関西に来てから気づいたことがあります。それは、「クリエイターが『日本全国で効く広告』を東京の感覚で考えたら危ない」ということ。

「ひらかたパーク」 グラフィック広告

僕自身、東京でクリエイティブをしていた時はずっと「東京の感覚」で広告を考えていました。自分と同年代の若者は、自分と同じようなメディア接触をしていて、ツイッターをやっていて、テレビはそんなに見なくなって…と。

おそらく高校生くらいの時からずっと東京にいるクリエイター、東京生活が長いクリエイターは、当時の僕と同じような考え方をしていると思います。

ではなぜそうなってしまうのか。現代社会の人間は、「より自分の感覚で物事を考えてしまう」傾向があるそうです。

近年、ネットやSNSが発達し、自分と同じ考えや趣味を持つ人々とつながりやすくなりました。その結果、周囲も自分と同じ生活スタイルや考え方をしているため、実はマイノリティの考え方に属しているにもかかわらず「自分の考え方はメジャー(=社会一般)だ」と錯覚してしまうそうです(僕は” 偽メジャー感覚” と名付けています)。

これをクリエイターに当てはめてみると、こういうことだと思います。普段テレビを見ないクリエイターは「テレビCMの見られ方」を意識せず、ダラダラとした説明CMを考えたりする。

ツッコミを入れながらCMを見るクリエイターは、他人もCMにツッコんでくれると思ってCMをつくる。普段SNSで情報を得ているクリエイターは、同じような生活をしている人が周囲にいるので、彼らの反応を頼りに広告をつくる。

そして、東京で暮らしているクリエイターは東京の感覚で全国向け広告をつくってしまう。陥りがちですよね(本当に生意気ですいません)。そしてこの、東京の感覚で全国向けの広告を考えてしまうことに疑問を持ったのです。

たとえば、東京と大阪のツイッターのユーザー数を知っていますか?日本第2の都市・大阪ですら、東京の3分の1しかユーザーがいないというデータもあります(都道府県別統計とランキングで見る県民性 [とどラン] ver 1.5より。)これは、大阪で暮らしている実感にかなり近い値です。

僕も普段SNSを情報源にしていて、この夏、UHA味覚糖のストレス発散グミ「グミガーム」という商品のWEBプロモーションを手がけました。JAXAの宇宙アンテナからストレスの多い宇宙人に魅力のある広告を打ち、地球外生命体の生命反応を探す、というものです。


UHA味覚糖 地球外生命体向け広告「SPACE AD」のコンセプトムービー

ツイッターやWEB、ニュースの反応も上々でしたが、いろいろ調べてみると、やはり東京での反応が圧倒的に多かったのです。俯瞰で見れば大阪はいまだにテレビ文化が根強いです。道行く人々は、東京以上にテレビメディアから情報を得ています。このように、大阪ですら東京とは異なるメディア環境や生活スタイル、表現トーン(大阪は特に)があります。

他の地域であればなおさらです。つまり、単純に人口だけで考えても「国民の半分以上は、東京とは違う広告スタイルで生活している」ということに、僕は関西に来て初めて気づいた、というか気づけたのです。

コンビニ商品やクルマ、小売業など、全国で展開する商品やブランドはたくさんあります。首都圏とそれ以外の地域での販売比率を見たら、後者のほうが多く売り上げている商品もあるでしょう(たとえば軽自動車とか)。

となると、東京の感覚だけで全国向けの広告を考えていると、ロスする部分も出てくるのではないでしょうか。

これを解消する手段として、「同じ商品でも、地域ごとに地元のクリエイターに任せてみる」ということも考えたりしますが、現実的に重要なのは、東京と地域、両方の視点を持つことだと思います。

もちろん自分の考え方・ものの見方が、実は” 偽メジャー感覚” ではないか、という検証を俯瞰的・定期的にしてみるのもいいかもしれないですね。意識してマイノリティを貫くのはアリですが、「メジャーと思い込んでいるマイノリティ」はちょっと危険な気がします。

≫次ページ 「営業の視点も役に立つ」に続く