コラム

高広伯彦の“メディアと広告”概論

B to Cのマーケティングは、B into Cのマーケティングへ

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コントロールしようとせず、自ら出向く姿勢

消費者間をつなぐソーシャルメディアの普及がもたらすものは、一方通行の押し付けと揶揄(やゆ)されてきたマスマーケティングに対し、消費者との対話や消費者の発言への傾聴、それらから発生する商品開発・サービス改善などだ、と言われている。これらを指して、「B to CからB with C(消費者と共に)」というニュアンスの言葉がとりわけソーシャルメディアマーケター付近で語られることも多い。

しかし私の場合はこれを、「B to Cから、B into Cへ」と言ってみたい。そのほうが、従来のマーケティングとの立ち位置がいかに違うか、が明らかにしやすいからだ。

「B with C」という言葉のニュアンスには、これまでのマスマーケティングでは消費者が置き去りにされているのではないか、一方的に押し付けているのではないかという反省が含まれている。しかし、消費者の声を聴く、消費者と商品開発をする、なんていうことは“ちゃんとした”企業であれば多かれ少なかれ、「ソーシャルメディアに頼らなくても」やっていることであり、そうした企業にとっては今さら感が大きい(むしろ、消費者の声を聞いてなければB to C企業は生きていけない)。では何が変わっていくのか。

従来のマーケティングにおいて最も強力であったマスメディアは、情報の送り手のコントロール下にあり、オーディエンスとは送り手のコンテンツによって集められた集団であった。一方、インターネット上で構成されている人の集まりはそのほとんどが自発的な集団で構成されている。現在ソーシャルメディアによってますます加速されている消費者集団は、企業が何かそこで活動をするために生み出されているものではない。この自覚をマーケターが持てるかどうか。必要とされているのはマーケター自身の意識の変化~自分たちがどこかにいて「remote(遠隔的)」にマーケティングを行うのではなく、「into(中に入っていく)」感覚~なのではないだろうか。

消費者が集まり増幅し続けるプラットフォームで起こった事例として、米国有数のスポーツビデオゲームブランド「EAスポーツ」(エレクトロニック・アーツ)がユーチューブでとったアクションを挙げてみたい。同社は何年にもわたり、「Tiger Woods PGA Tour」というゲームを出し続けてきたのだが、ゲームファンによって信じられないバグが発見された。こともあろうか、Levinator25というアカウントを持つ彼によってそのバグは動画に収められ、ユーチューブ上で公(おおやけ)にされた。それが次の動画“Tiger Woods PGA Tour 08 Jesus Shot”である。

ご覧のように、タイガー・ウッズが池の上に立ち、そこから見事なショットを決めてカップインしてしまう、という、たとえゲームとはいえ、リアリティーゲームの部類ではこれはありえない。このような「問題」が生じてしまうと、普通の企業であれば回収騒ぎか謝罪文が出るかだろう。そしてますます「炎上」してしまうのがオチ。しかしこのEAスポーツがとった施策は素晴らしいもの。消費者がいるコミュニティーの中への入り込み方として秀逸なものだった。ユーチューブは素人であれ企業であれ、自由に動画がアップでき、動画には動画で応えることができる。EAスポーツ自ら消費者集団の中で、消費者と同じポジションで行われたのが次の動画の公開である。

バグを公開したユーザー動画のあと、「levinator25さん、あなたはこの神がかりショット(Jesus Shot)がゲームのバグ(glitch)だと思っているでしょう」のメッセージ。そのあとゴルフ場の池に落ちるボール。そこに現れたのはタイガー・ウッズ本人で、見事ゲームと同じようにショットを決めてしまう。そして、「バグじゃない。彼が本当に凄いんだ!」とのメッセージで締めくくられる。(次ページに続く)

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