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コラム

高広伯彦の“メディアと広告”概論

アメリカで注目を集めている“Inbound marketing(インバウンドマーケティング)”とは何か(3)

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会場で存在感示すPR業界 広告代理店は蚊帳の外か

Inbound marketing summitの会場

Inbound marketing summitの会場

Inbound marketing summitの参加者は、Inbound marketingに関する各種ツールのベンダーとその顧客企業及びマーケティングエージェンシーやデジタルエージェンシーで、いわゆる広告代理店の人々はほとんどいない。実際、こちら(inbound marketer)側からすると、広告は outbound とポジショニングされ、結局、広告媒体を買う(media buy)話となるので、すなわちこのカンファレンスからは蚊帳の外となってしまうのは致し方ないか。

一方でブース出展をしたり、スピーカーとして話をしたりと、元気なのがPR業界である。彼らはデジタル領域を自分たちのビジネスチャンスと考えているのか、非常に活発に活動しているところが多い。日本と米国のPR業界を見比べてみると、確かに日本でもデジタル領域に力を入れ出したPR会社はいくつもある。しかしながら、日本のPR会社はどちらかと言えばデジタルに取り組んでいたとしても、昔ながらの media-centeredな考え方で、どうやってニュースメディアに取り上げられるか、ないしはニュースメディアの「PR枠」を paid mediaとして買い上げるかに注力している。

つまり、user/consumer-centeredな姿勢でデジタルに踏み込んでいるかどうかは今のところは怪しい。正直、(これはデジタル領域だけに限らないが)日本のPR業界は「メディア」に向かって仕事をしているのであって、どのぐらい媒体に取り上げられたかの露出量を売っているようなものだ。一方で米国のPR会社はターゲットたるコンシューマーやステークホルダーに向かって仕事をしている意識が強い。

モバイルによる消費者行動の変化で「OfflineはNew Online」に

2日目のMorning Keynoteのスピーカーは、Edelman Digital という大手PR会社のデジタル部門のSenior Vice President、Tim Hayden。タイトルは“The Mobile Revolution – What Every Company Needs to Know”だった。彼の話によれば、現在30%のユーザーがiOSなどモバイルデバイスからサイトにアクセスしているが、「現在デスクトップPCでサイトにアクセスしているユーザーも、(今使っている携帯電話の)2年縛りの契約が終わればスマートフォンに変えるだろう。それを見越してマーケティングをしなければならない」という。

このあたりは日本でも実感ができるようになってきており、レスポンシブルデザインによるサイト構築は必至のものとなってきているが、Timいわくモバイルからのアクセスが増えることを、「技術的な変化ととらえるのではなく、(マーケターetcは)行動の変化としてとらえるべきだ」と述べていた。

経てして、技術的側面に目がいきがちではあるが、Googleが提唱するような「ZMOT: Zero Moment of Truth」(→商品の棚が消費者との重要かつ最初の出会いの場としたP&Gが提唱した「FMOT: First Moment of Truth」から発展し、現在では棚に行く前にモバイルデバイスで商品を検索し、調べてから商品の前に現れる時代になっているという話)のように、「購買行動」や「情報行動」の変化としてマーケティング業従事者はとらえていく必要がある。

また彼は「OfflineはNew Online」だと主張していた。デスクトップにしばりつけられたネットではなく、自由に持ち出せるモバイルデバイスによって実現する世界はこれまでの「オンライン」とは違う。QRコードやAugmented Reality(AR=拡張現実)は、「オフライン」にあるものの、モバイルでのネット利用を促すキッカケとなる。それらが「新しいオンライン」なのだ、と。

Timからの4つの takeaway(=持って帰ってもらいたいキーワード/フレーズ)は、モバイルでの行動を次のようにとらえようということだった。

 Scan – スキャンをするようになる。
    なぜなら、僕たちはカメラが好き。でも一方で文字を打つことは嫌い。
 Text – タイピングはまだまだする。
    なぜなら、知り合いとのコミュニケーションが好きだから。
 Pier to Pier – 人から人、人とつながる。
     なぜなら、知人とつながり、情報を共有しあうのは楽しいから。
 Click – (モバイルデバイスを)クリックする
     なぜなら、僕らはコンピュータを使うのを止めはじめたから。

PR会社に「モバイル戦略担当役員」

さて、ここで最初にあえて書かなかったことがある。Edelmanのような大手PR会社のSenior Vice Presidentという要職にTim Haydenはいるわけだが、彼は何担当のSVPか?“SVP of Mobile Strategy”、それがTimの正しい肩書きだ。

PR会社の中に「モバイル戦略担当役員」がいるわけだ。セッションのあと、彼に聞いた。「日本のPR会社ではモバイル単体での役員って想像できないんだけど、どうしてEdelmanではそういう肩書きが存在するの?」と。彼の答えは至極シンプル。「消費者のモバイルデバイスからの情報アクセスは増える一方。情報チャネルとしてモバイルが使われてるのに、そこにPR業界がなにもしないなんてありえないでしょ」。つまり、前述したように、誰に向かって仕事をしているのか? の感覚が、日米のPR会社におけるデジタル戦略の違いに大きく現れてるのだろう。

実際のところ、米国のPR会社がデジタル領域でやってるようなことを日本でやっているのは、ソーシャルメディアマーケティング専門企業だったりする。たまたま日本でEdelman Digitalのトップと日本のスタッフと話をする機会があり、今度は「ソーシャルメディアマーケティング企業とPR会社によるソーシャルメディア実践の違いは?」と聞いたところ、「ストーリーを作ることができること」と言っていた。つまりは、「コンテンツマーケティング」だ、ということか。

PRはinboundでのサイトアクセスを増やす重要な要素

また、ちょうどこの Inbound Marketing Summitが開催されている最中にある興味深い発表があった。プレスリリース配信サービスに PR Newswireというのがあるのだが、そこが「マーケティングダッシュボード」を開発し、リリースした、というニュースが飛び込んできた。「マーケティングダッシュボード」は、マーケティング投資(ないしは広告投資)に対してどのぐらいの効果が出ているかを確認できるツールである。これまでは広告/マーケティング業界側が開発し提供してきた。しかしここにきて(おそらく初めてではないか?)PR会社が「マーケティングダッシュボード」を作る、という時代がついに出てきたのである。

これまではPR会社の提供するサービスの検証は、「どのぐらいの露出を稼いだか」ということで、それぞれのメディアの露出回数、露出時間、などが広告費換算されるぐらいだった。しかし、PR会社がマーケティングダッシュボードを出すということは、例えばプレスリリースを出した際、そのあとどのくらいサイトのアクセスが増えたかなどを見ることができるという話になり、これまでとは違うビジネスも発生しそうな流れである。

さて、「全然 Inbound marketingの話が入ってないじゃないか、今回!」と言われてしまいそうだが、これも、Inbound marketingの世界なのである。PRはSEOと同様に inboundでのサイトアクセスを増やすトラフィックジェネレーターとして考えられており、それゆえ、Inbound marketingを行う企業への「プレスリリース作成代行」のサービスも存在するぐらい。

そして、モバイルからのアクセスが増えてくるだろう、という予測があれば、Inbound marketerとしては、1)モバイル対応のサイトを作る、2)モバイルからも読めることを配慮したリリースを作る、3)モバイルから Call to Action、つまりメール登録などがしやすいようにする、などなどをも考えなければいけない、という風にとらえてみてはいかがだろうか。

今回の記事では、Inbound marketing業界でも、モバイルxPRの領域は注目されてるということを中心に書いた。次回はまた違うポイントから Inbound marketing の話を書く。

ところで、株式会社スケダチでは近々某社とInbound marketingに関する共同声明を発表予定。Inbound marketing領域に興味のある方々、しばしお待ちください。

次回は29日掲載予定です。

【追記】
上記の「共同声明」を29日に発表しました。(編集部)

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