想定していなかったキャリアパス
この連載も残すところあと3回なので、少し自分自身の経験談を入れながら話を進めていこうかと思う。期せずしてレジュメ的には「綺麗な」キャリアパスになってしまったので、人によっては「自慢かよ」と解釈されてしまうかもしれないが、その意図はないことを記しておきます。とりわけグーグルという会社が広告ビジネスの世界でどのようにユニークなのかを語るには、自分自身の経験とそこから生まれた考察を踏まえずには本質的な部分に触れることができないので。
さて、僕は、営業職やインタラクティブ企画職としての博報堂と電通の勤務を経て2005年、グーグルに入社した。しかしグーグルに入るために電通を退職しようとしたわけではない、実は。退職事由は、コミュニケーションデザイン(当時は「コミュニケーションプラン」よりこちらを好んで使っていた)を行うためのブティック設立ないしはフリーランスで活動しようと思っていたからだった。もちろん、退職に動き始めた2005年当時から、グーグルはネットユーザーの中では先端的で正確な「検索エンジン」として認知され始めていたが、「広告ビジネス」の企業として理解する人は非常に少なかったし、「ぐーぐる」とちゃんと聞き取ってくれる人も一般的には少なかった。そしてユーザーではあったし自分のブログでもよく触れていたが、自分自身が二つの代理店を経て、次のキャリアとして選ぶということについては想定外だった。
しかし電通を辞めるらしいと一部で噂が流れたとき、まだSNSとしてだけの姿だったGREEのメッセージ受信ボックスに、以前よりの友人でMSNからグーグルに転職をしていた某氏から「高広さんGoogleに興味はありませんか?」と連絡が入った。当初はグーグル自身のマーケティング担当者としても想定されていたようだが、結果として日本における広告セールス/プロダクトのマーケティングチームの責任者として着任することになった。
「土地」から設計する仕事に楽しさ見出す
さて、代理店時代の僕は幸運と時代の潮流もあって、博報堂時代にはあの『UNIQLOCK』を企画した田中耕一郎君や世界的に有名なクリエーター中村勇吾氏の手を借りて実現した、『WebCINEMA“TRUNK”』(日産自動車)というインタラクティブショートムービーで第2回東京インタラクティブ・アド・アワードのグランプリを頂いて以降、電通では『牛乳に相談だ。』のサイトを朴正義氏率いるバスキュールと実施したり、上司が『明日の広告』の佐藤尚之さんだったり、周囲には中村洋基君とか木谷友亮君がいたり、という状況。いろんな所でセミナーを行ったり、いろんな人と会う機会では、いわゆる「クリエーター」、特に「インタラクティブ領域のクリエーター」と思われていたし、そういう道を突き進むのだろうと周囲も考えてた模様ではある。実際、「コミュニケーションデザイン」で生計を立てようとしていたわけだから、僕自身も当初は半分ぐらいはそのように考えていた。
しかしながら、とりわけインタラクティブ(ネットといってもいいがインタラクティブという概念のほうが好きなので)の領域に関して言えば、マスメディア領域の広告とは大きく違った側面があり、その部分での広告企画が好きであり得意であるという意識も芽生え始めていた。従来型の広告はすでに「枠」が決まっており、その中でどのように効果的なメッセージや表現を流すかということに手腕が問われる。いわば区画整理された土地があってその上にどのように素晴らしく、住みやすい家を建てるか、に近い。一方、インタラクティブ領域の広告は雑木林(ないしは砂漠?)を開拓し、基礎工事を行って、そして上モノを作るという作業がある(少なくとも2000年代半ばまでは特に)。あるいは(当時よく使ってた喩えなんだけれども)テレビCMの仕事は視聴者が手にするリモコンのデザインまではできないけれど、インタラクティブ領域においてはそのリモコンすらデザインしなければならない、などなど……。
インタラクティブの領域は「土地」すらないところからスタートする。インフラそのものの開発であることもあり、表現以前にやらなければならないこと、いや、チャレンジできることが信じられないぐらいにある。そこが面白い。特に「広告枠」自体を作らなければいけないことは多々あった。(次ページに続く)
「高広伯彦の“メディアと広告”概論」バックナンバー
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- アメリカで注目を集めている“Inbound marketing(インバウンドマーケティング)”とは何か(4)(2012/7/02)
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