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コラム

高広伯彦の“メディアと広告”概論

グーグルから学んだこと――広告ビジネスのイノベーション、そして広告人としての個人的興味:1

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広告がもっと役に立つ情報として、「整理」される

例えば、現在では「動画広告」は一つのフォーマットとして定着しているが、2003年頃はまだ「動画を使ったバナー」を流せる広告枠は存在せず、しかし、上記した『日産WebCINEMA“TRUNK”』の誘引施策として実施するためにいろんな媒体社と交渉しなければならなかった。結果、当時応じてくれたのがニフティでそのなかのブロードバンドユーザー向けコンテンツ「BB@nifty」でまず掲載可能になった。これが実質的に日本で一番最初の動画を使ったバナー広告となった(こちらのページの上部の「バナー広告」という部分から見ることができる。『日産WebCINEMA“TRUNK”』自体は映像のタイムライン上にユーザーコメントが残せたり、劇中の架空の企業のサイトを本当に作ったり、その企業の社員募集のメールを送ったりと、今でいう「ニコ動」や「ARG」的なものを実施していた。当時の同社の担当の方と会うと「早すぎたかなあ」という話によくなる)。

ほかに例えば、博報堂時代には『電子年賀状』『ペタろう』という今では数少なくなった「ネットイベント」を手がけたり、最近では見かけることが少なくなった「オーバーレイ型」の広告も企画した。当時の米アイブラスター社(現・メディアマインド社)の広告表現配信技術をDAC(デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム)が提携した矢先だったので、これまた日本第一号の「オーバーレイ型」広告を当時のインフォシークで実施。これもDACと一緒に媒体社に交渉した結果である。

グーグルという会社に興味を持ったのもこの流れの延長線上、同社が新しい広告ビジネスを「開拓」している企業だと確信したから。実は家系的には、実父や叔父によると僕の先祖には北海道へ屯田兵、開拓使として渡った人物がいるらしく、祖父も当時の満州国に家族を連れて渡っていた。自分でも感じるが、きっと50%がコミュニケーションプランニングの企画脳で、一方の50%は開拓脳とでもいうもの。その「未開の土地」に反応しやすい開拓脳側が、どうも広告業界におけるグーグルのポジションにピンと来たものがあった模様。

どうも最近ではその言葉に注目されることも、グーグル自体がそれを言う機会も減ってる気がするのだが、同社のミッションは「世界中の情報を整理する」ことにある。爆発的に情報が増えるインターネットの世界ではなかなか欲しい情報にたどり着くのが難しい。そこで、他からリンクされている(被リンク)サイトはよい情報を掲載しているという考えで「ページランク」というコンセプトを生み出し、情報を“整理”し始めたのだ。そしてご存知のように書籍や地図情報なども含めて“整理”を進めている。

そしてその“整理対象”に「広告」があった。世の中には広告が溢れている。まだテレビや新聞のように枠数が時間や紙面で物理的に制限があるのはまだマシ。インターネットには無限の枠が存在するので、よく言われる「広告クラッター(広告が溢れている状態)」はますます進み、広告が「整理されていない状態」になる。一方、興味のない人にとって「うざい」存在となる広告も、興味のある人にとっては非常に役に立つことがある。

広告業界の「産業革命」に携わりたい

たとえば普段、通勤通学途中に気にならないケーキ屋さんが、友人や子供の誕生日やクリスマスになるとその看板を目にしてしまうように、途端に「情報として」機能する。広告が「情報として」機能する。忌み嫌われる存在でありがちな「広告」が「役に立つ情報」として「整理」されると、それは広告を目にする人々にとっても、その広告を出す広告主にとっても役に立つものとなる。そのようなエコシステムをグーグルの 「アドワーズ」は目指している、と理解した瞬間、広告ビジネスのインフラ開発・推進への開拓脳が働いた。グーグルのアドワーズの新しさ、それは「広告だって役に立つ情報になれる」=「消費者にとって有効な情報としての広告提供手段」にあった。

アドワーズとして最初に提供された「検索連動型広告」については、ユーザーのクリック率がその広告表示順位にかかわるため、上位に出ている広告は「ユーザーが支持した広告」となる。これが「消費者にとって有効な情報としての広告」を実現する、実にシンプルなコンセプト。そして、マス広告にも黎明期からのネット広告についてもかかわってきた自分にとって、これが2つの点で衝撃的だった。それは、(1)効果のない広告=ユーザーにとって価値のない広告、という点。そして(2)表示順位が単に金額だけで決まらないことの2つである。(2)については、従来型広告の「いい枠ほど価格が高い」という常識をガツンと崩されたのだ。

こうしたことに気づいていくと、自分自身の業界における役割として、単にプラニングのスタッフとしてスキルを伸ばすのではなく、広告業界のためになるような、広告業界の産業革命にかかわるような仕事をしていきたいと考えるようになった。それがグーグルに入社した本当のところであり、この姿勢は独立した今も変わりなく持っている。

次回は、グーグルがもたらした広告イノベーションについて、より深く記述していこうと思う。

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