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広告会社はITの新興企業に学ぶべき時――レイ・イナモト(AKQAチーフ・クリエイティブ・オフィサー)

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「広告会社が時代について行こうと思うなら、“Culture of Code(コードの文化)”を受け入れなければならない」――。

僕が最近ツイッターでつぶやいた一文だ。この話は、いわゆる伝統的な広告会社で働く友人との会話の中で出てきたものだが、最近の僕のどのツイートよりもたくさんの反響が寄せられた。

ある人は、「『コード』を『技術的なノウハウ』と置き換えると良いのでは」と言い、またある人は、「アイデアのないコードは、ただの0と1の羅列でしかない」と言った。これに対して、また別の人は「実行できないアイデアはただの夢物語だ」と返した。

インターネット上で新しい“次なる目玉”が毎年のように登場してくる中、未来を予測することは日増しに難しくなっている。実際、過去10年近く、私たちはほぼ毎年、新しいブームを目の当たりにしてきた。

最初は、10年以上前に登場したYahooとNetscape。そしてGoogle、YouTubeへと続く。Friendster(フレンドスター※1)が勢いを失ったのと時を同じくして、Facebookが現れた。その2年後、Twitterは140文字のつぶやきを世界に広めた。さらに2010年はGrouponが席巻し、Instagram(インスタグラム)はたった4人のスタッフながら、わずか8カ月ほどの間に世界中で500万人以上のユーザーを獲得した。

これらの技術的な進化は、一般消費者の生活に影響を与えただけでなく、広告業界で働く私たちの仕事の進め方にも大きな変化をもたらした。そのことは、世界最大の広告の祭典(カンヌ国際広告祭)の名称から「広告」という言葉が消えたことにも表れている。

今年も多くの“広告”のプロフェショナルがカンヌに集まり、世界中の優れた作品とアイデアを評価した。この祭典の新しい名称(カンヌライオンズ 国際クリエイティビティ・フェスティバル)が直接的に示す通り、このイベントはクリエイティビティの文化を称えるものだ。

1週間にわたって数多くの賞が発表されたが、僕が注目していたのは、どの作品が受賞するかではなかった。むしろ、これまでの“公式”を書き変えるようなアイデア、「広告」の言葉を削ったことの正当性を示すような作品に出会えることを期待していた。

偶然にも、フイルム部門でグランプリを受賞したのは、ナイキの「Write the Future(未来をかきかえろ)」。これは広告業界のすべての人を嫉妬させるような素晴らしい作品だった。しかし、皮肉にもこの作品は、これまでの広告の手法を踏襲したもの。つまり、核となる“ビッグアイデア”を生み出し、優れたテレビCMをはじめとする様々な周辺施策を行うというものだった。ただし、この作品は本当に素晴らしいもので、当然ながら僕も嫉妬させられた。制作スタッフにも、心からの尊敬の意を表したい。

カンヌだけでなく、他の広告賞においても、審査員たちはアイデアについて議論を行う。「何がビッグアイデアなのか?」「どんなストーリーなのか?」「どうやって実現させたのか?」「エグゼキューション(実行施策)は優れているのか?」などが話し合われる。

広告の文脈の中で、アイデアとはブランドのストーリーを伝えるためのコミュニケーションプラットフォームだ。ストーリーは生活者の感情を動かすために有効な手段であり、生活者の心をつかみ、賛同を得ることができれば、商品やサービスの購入にもつながりやすくなる。

しかし問題なのは、今では皆がストーリーを語ろうとしているということだ。ブランドに関する優れたストーリーを持っていても、その他大勢の陰に隠れてしまう可能性も大いにある。

ストーリーを伝えることは、私たちの仕事の重要な一側面ではあるが、それだけでは多くは得られない。今では、どうやってそのストーリーを可能にさせるかまで考えなければいけない。

別の言葉で言い換えよう。20世紀は、コピーライターはCMの脚本まで書く必要はなかった。しかし、21世紀のクリエイティブは、商品のアイデアを具現化させることまでが求められているのだ。

(次ページに続く)