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広告会社はITの新興企業に学ぶべき時――レイ・イナモト(AKQAチーフ・クリエイティブ・オフィサー)

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ここで、最初に紹介した僕のツイートの話に戻る。クリエイティビティは、もはや肩書に“クリエイティブ”と付く人だけが持つものではない。実際、ここ数年の優れたクリエイティブアイデアの多くは、いわゆる“クリエイティブ”でない人が生み出したものだ。彼らはいつだってクリエイティブだったとも言える。ただ、“クリエイティブ”の人々が認めていなかっただけだ。

最近の事例の中で、“emotional(情緒的)”でありながら“functional(機能的)”であったものとして、ハイネケンの「Star Player」が挙げられる(AKQAが手掛けた仕事であることを、あらかじめ伝えておきたい)。

これは、テレビでサッカーの試合を見ているファンが、「試合の中に入る」ことを可能にしたソフトウエアだ。もともと、70%以上の視聴者が自宅で中継を見ており、そしてその中の65%以上は、PCやモバイルなどの端末を触りながらテレビを見ていることが分かっていた。

そこで、「Star Player」はモバイルやフェイスブックアプリを通して、視聴者がこれから試合の中で何が起こるかを予想し、他のユーザーと考えを共有できるようにした。これにより、単に受動的にテレビを見るという体験を、より情緒的でソーシャルなものへと変えることに成功した。

この作品が、カンヌで評価されたかどうかは、ここではあまり重要ではない。(※2)ここで重要なのは、この作品は従来の一般的な「コピーライターとアートディレクター」という組み合わせから生まれたものではなく、「ストーリーを考える人とソフトウエア開発者」という新しいコンビネーションによって生み出されたものだということだ。

いまだに広告業界の多くの人が、テクノロジーを単なる実行施策の一部や制作上のタスクとしてしか見ておらず、戦略的な視点からとらえることができていないように思う。しかし、過去10年間に誕生した新興企業のように、テクノロジーをシンプルかつクリエイティブに活かすことができれば、21世紀の消費者の心をよりつかみやすくなるのではないだろうか。

つまり、今世紀のアイデアの進化、次のフェーズは、「Idea=Emotion×Function(アイデア=情緒×機能)」となるだろう。

※1 2002年にオーストラリアで開設された、SNSの草分け的存在。
※2 結果的に、ゴールドを受賞した。

(注)この原稿は、米誌「Fast Company」へのイナモト氏の寄稿を和訳したものです。原文はこちらから見ることができます。

レイ・イナモト(稲本零)
英Creativity誌「世界の最も影響のある50人」の1人にも選ばれた、世界を舞台に活躍するクリエイティブ・ディレクター。R/GA、Tronic Studioなどを経て、2004年10月、欧米大手デジタル・エージェンシーAKQAにグローバル・クリエイティブ・ディレクターとして入社 。2008年にはチーフ・クリエイティブ・オフィサーに昇進。2010年には日本人として初めてカンヌ国際広告祭チタニウム・インテグレーテッド部門の審査員に抜擢されるなど、「広告業界のイチロー」とも呼ばれている。