福島大学と立教大学が連携し、復興学の拠点設立

福島大学東京サテライトが立教大学構内に開設

4月から福島大学大学院地域政策科学研究科の東京サテライトが開設される。場所は立教大学(東京都豊島区)の構内で、国立大学と私立大学の連携は初の試みとなる。これを記念して2月6日、開設記念フォーラムが開催された。

フォーラムでは、いまも埼玉県加須市に集団避難している福島県双葉町の井戸川克隆町長やノーベル経済学賞を受賞したハーバード大学のアマルティア・セン教授が講演し、東日本大震災からもうすぐ1年を迎えるなか、復興を目指す実学の場として福島大学東京サテライトが開設されることへの期待が語られた。

集団での避難所生活が1年を迎える双葉町

双葉町長の井戸川克隆氏

双葉町長の井戸川克隆氏

最初に挨拶した双葉町長の井戸川克隆氏は、「経済要因や安全神話に惑わされて原子力の立地を認めてきたことを反省している」と述べた。東京電力や原子力安全保安院の言葉を性善説的にうのみにしてしまったことへの忸怩たる思いと、この経験を無駄しないように「安全の反対の不安全ということがあることをしっかりと認識したうえで町を立て直していかなければならない」と語った。

また、「原発からの飛来物が空から飛んでくるのを見て、これでもう終わりだな」と、町長自身、福島第一原発の1号機が爆発したときに被曝をしたときの生々しい体験を語った。こうした経験から、国に対して、住民の健康のための除染や医療支援を求めているが、受け入れられていないこともあるといった現状にも言及、このようななかでも希望を見失わず、復興の道を模索する必要があり、そのためにもアカデミアを通じて世界の知見を集める必要があると述べた。

~人間の安全保障を求めて~アマルティア・セン教授が講演

アマルティア・セン教授

ノーベル経済学賞を受賞したハーバード大学のアマルティア・セン教授

記念講演を行ったアマルティア・セン教授は、「大災害に直面し、福島大学が政策研究において、復興に取組むということは大変チャレンジングなことである」と述べた。

「災害からの早期復興は行政にとって途方もない挑戦ですが、同時に将来の災害を予防し、復興、再構築への大きな知見を得るチャンスでもあります。どのようなまちづくりを目指すのか、新しい時代にふさわしい指針を示すことにもなります。さらに、それを東京にサテライトの拠点を設けて、さまざまな調査において連携し、議論し、知的な集積を進めることには大きな価値があります」(セン教授)

また、日本は、英国のマグナカルタに6世紀も先立ち、AD604年、聖徳太子が17条憲法をつくったときから、双方向的な意思決定の長い伝統をもつことに触れ、「今後、福島大学により被災地への調査分析に基づくインタラクティブな議論により、それらの成果が政策に反映されることは大きな前進をもたらす」と述べた。

「日本政府は、タイプの異なるさまざまなアプローチのなかから最適なものを判断するべきでしょう。地震、津波、そして福島第一原子力発電所の事故と放射能汚染と、福島地域が直面している問題はとてつもなく複雑です。これらの問題が引き起こす経済的な問題も深刻です。いかに雇用を生み出すか、これには風評被害といった社会的な影響も含まれるため、政策決定には大変な困難が伴うでしょう」(セン教授)

放射線の問題についても、医療や心理的側面や経済的側面など、大学が果たすべき役割は大きい。セン教授は、「福島と日本の経験を通して世界が新しい文明を築くための議論をすべきときではないか」と提言した。

東日本大震災の教訓と大学の役割

入戸野修学長

福島大学の入戸野修学長

山川充夫教授

福島大学経済経営学類うつくしまふくしま未来支援センター長の山川充夫教授

続いて行われたパネルディスカッションでは、福島大学のうつくしまふくしま未来支援センター長の山川充夫教授がコーディネーターを務め、入戸野修・福島大学学長、立教大学の吉岡知也哉総長、政策研究大学院大学の黒川清教授、鈴木寛参議院議員が登壇し、復興に向けた大学の役割を論じた。

山川充夫教授は、福島大学うつくしまふくしま未来支援センターでは、新しい学問分野として「復興学」の構築を目指し、単に座学や机上の研究にとどまらず、研究者が現場に出ていく実践的なセンターをつくることやその成果を東京サテライトを通じて世界に発信していくつもりであると述べた。

吉岡 知哉総長

立教大学の吉岡 知哉総長

続いて、入戸野修福島大学学長は、「将来の持続可能な安心安全な社会を築くためには、復興学で得られた知見を汎用性のある内容にまとめ、社会に発信していくことが必要」と述べた。また、「被災直後は学校が地域のよりどころであったことから、地域社会とともに、地域のリスクマネジメントに取り組みたい」「震災以降、大学がもてる知的資源を復興に活かすことにとりくんできたが、今後より組織的に取組みたい」と語った。

次に、立教大学の吉岡知哉総長は、「福島大学として連携し、復興には、大学の社会的責任として取組みたい。東日本大震災で、人間と文明、自然との関係を考えなければならない状況に直面している。歴史的につくられてきた社会の仕組みを根本から考え直さなければならない。そのために大学がどんな役割を果たすことができるのかが問われている」と述べた。

世界に開かれた若者の育成

黒川 清教授

政策研究大学院大学の黒川 清教授。特定非営利活動法人日本医療政策機構 代表理事

続いて、政策研究大学院大学の黒川清教授は、次のように述べた。

「この20年、世界はものすごいスピードで変わった。WWWで世界がつながり、スマートフォンで誰でも世界にアクセスできるようになった。しかし、日本は何も変わらなかった。4年前に始まった金融危機、中東で起きたアラブの春、世界の激動のなかで起きた311。地震・津波の威力も、日本政府の対応も、国民1人ひとりの行動も、すべてが世界に公開されて、政府と大企業のだらしなさとふつうの国民の強さが際立って見えた。そして、その活動のなかでも、30代前半くらいまでの若い人たちがNPOやNGOの活動でリーダシップを発揮している。この、地に足のついた若者たちの活動がこれからの日本や世界を変える。若者たちのなかにはツイッターやフェイスブックを利用して英語で情報を発信している者もいる。そうすればどんどん世界とつながっていく。このつながりのパッションの地場が社会を変えていくエネルギーだ。福島立教のパートナーシップでも世界を視野に研究活動を行ってほしい」

新しい文明とガバナンスを問う熟議を

鈴木 寛参議院議員

鈴木 寛参議院議員

さらに、参議院議員で前文部科学副大臣の鈴木寛氏は、「福島の原発事故をなぜ避けられなかったのか」という問いかけから話しはじめた。

「安全は判断の積み重ね。その意味で東京電力、原子力安全保安院、経済産業省ともにガバナンス不全に陥っている。完全につくりかえなければいけない。実は、日本だけの話ではなく、世界的にもいえる。いわばガバナンスの危機だ。これは近代物質文明を築いてきた思考のプラットフォームや政治経済の仕組みが機能しなくなっているということだ。

いまは文明論に立ちかえって、哲学的にガバナンスのあり方を考えなければならない。大量生産、大量消費、大量廃棄はもう立ち行かなくなっている以上、いま日本中が立ち上がって、世界の叡智を仰ぐときだ。明治維新では幕府から政府にガバナンスの中心が変わった。大きな歴史の転換期への哲学的洞察のために、いま必要なのは熟議である」

4人のパネリストによる議論を受けて、会場からの質疑が行われ、時間を超過しても多くの来場者が熱心に聞き入った。

ふたつの大学のパートナーシップにより、福島復興学が21世紀の新しい文明観を築く礎となることに期待したい。

福島大学うつくしまふくしま未来支援センターがこれまでに行ってきた研究の概要はウェブサイトなどで順次公開されている。東京サテライトの開設により、発信力の強化に期待が寄せられる。

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