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コラム

やかん沸騰日記

蕎麦打ちから弓道まで。ケトル研修合宿のお話

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ケトルはちょっと変わった社員研修合宿をしています。
それをご紹介します。

実は先週、飛騨高山と白川郷、金沢に行ってきました。
高山では弓道場に行ってみんなで弓道を習いました。

弓道研修

弓道研修。飛騨高山にて。

左手をまっすぐ的に向けて弓を構え、右手で矢を引いて打つのですが、やってみるとこれが意外と難しい。
矢を引く右手の力に弓を持つ左手が負けてしまい、狙ったよりも右に飛んで行ってしまうのです。
左手をしっかり固定したつもりでも、身体の細かな揺れで方向がぶれてしまう。
じっとしていることって実はすごく難しいのですね。

その後、しんしんと雪が降りつもる白川郷の合掌造りの民宿に泊まり、今年の研修担当、大木秀晃の恋愛相談を聞き、翌日金沢の造り酒屋で日本酒の仕込みを勉強して、記念にケトルのラベルを貼ったお酒を造って帰ってきました。

なぜ弓道?
なぜ日本酒?
これ、実はケトルの社員研修なんです。

ケトルは年に一回、全社員で研修合宿をしています。
2006年度の設立の年から毎年やっているので、今回で6回目です。
でも、社員研修といっても、クリエイティブやプランニングを学ぶのではなく、そういう仕事とは直接関係ない何か習い事をしています。
社員旅行もかねているのですが、すっかりケトルの文化として定着しました。

初年度は、軽井沢で蕎麦打ちと、ソーセージ作りと、陶芸を習いました。
この3つ、一見脈絡がないように思えますが、実はみんな「こねる」習い事だったりします。

まず朝一の新幹線に乗って、軽井沢に行って、午前中に蕎麦を打ちます。
そば粉に水を加えて手でこねて、棒で伸ばして、包丁で切るのです。
乾燥しないようにそば粉で水分を封じ込めて、限られた時間で均一にこねないと、後でぶちぶち切れてしまって短いそばになってしまいますし、同じ角度で同じリズムで切らないと、太さのバラバラな蕎麦が出来上がってしまいます。
なので蕎麦打ちにはその人の性格が出ます。
野趣あふれる極太な蕎麦を打つワイルドなタイプや、とにかく限界まで細く長い蕎麦を作る繊細なタイプ、一定に同じ細さで均一に切る安定感を重視したタイプ。
プランニングのタイプが如実に蕎麦に現れます。

蕎麦を食べたらソーセージの工場に直行。
結局その日は、朝そば粉をこねて、午後挽き肉をこねて、夕方には粘土をこねました。
一日中こねこねしてたわけです。
詰め込み教育的なハードスケジュールをこなしました。
研修担当の橋田和明が東大出身だからかもしれません。

でもそんなわけでケトルは、蕎麦打ち全社員標準装備。
翌年のお客様を招いてのケトルパーティでは全員で蕎麦を打ってふるまいました。
打ちたての蕎麦はやっぱりうまいですから。

2年目は、四国に行きました。
研修担当は森川俊と高松玲子。
テーマは食とアート。

金曜日の夜、東京駅9番ホームに集合して、22時発の寝台特急「サンライズ瀬戸」に乗って西へ向かうと、翌朝7時半頃、朝日で輝く瀬戸内海を眼下に瀬戸大橋を渡って高松に着きます。

まずは讃岐うどんの名店を7軒はしごするバスツアーです。
当時食に関する仕事が増えた頃だったので、讃岐うどんを極めてみようという口実です。

翌日は、船で直島に渡って、コンテンポラリーアートにどっぷりつかりました。
美術館だけなく島のあちこちにアートが点在している直島からはいろんなヒントを得ることができます。
僕らの仕事は、自分のいろいろな人生の体験のひとつひとつが企画のきっかけになったり、プレゼンの説得力になったりするからです。
だから、たとえばアートイベントを提案するとしても、実際に見ないで企画、提案するのと実際に自分の目で見て企画、提案するのはだいぶ違うと思います。
なにごとも体験!
さらにチーム全員が同じ体験をしていると、その体験やビジュアルが共通言語になるから強いのです。

さて、3年目はミステリーツアー。
ミステリーだったのは単に研修担当の神谷準一が直前までサボっていたためです。

デッサン研修

デッサン研修。鎌倉にて。


かまぼこ制作研修

かまぼこ制作研修。小田原にて。

赤坂を発車したバスが向かった先は鎌倉大仏。
そこで、デッサンの先生に講義を受けた後、画板と鉛筆を渡されてみんなで大仏を写生しました。
広告会社の人間なので、デザイナーでなくともデッサンの基礎は身に着けておこうというめずらしく真面目なねらいです。
これも、大仏を正面からきっちり描く真面目なタイプ、斜めから書いて画角で差をつけようとするタイプ、顔のアップを描く企画でなんとかしようというタイプ、わざと大仏を端っこに書いて余白に何かを語らせようとするタイプなど、キャラが如実に出ました。

翌日は、小田原でかまぼことちくわ作りを習いました。
かまぼことちくわの違い、知ってますか?
材料は同じ魚のすり身なのです。
板の上に盛り付けて「蒸す」とかまぼこに、棒に巻きつけて「焼く」とちくわになるのです。

その年のケトルのホームページは、個人プロフィールをクリックすると、その人の大仏のデッサンがなんの説明もなしでババーンと出てくる極めてシュールな仕様にしました。
たくさん苦情をいただきましたが、外国人の友達からは好評でした。

4年目は漁業。
全社員魚がさばける会社になろう!という目標で千葉へ。
研修担当は石原篤。
ものすごく寒かったことを覚えています。

小さな漁港に行っていけすのある埠頭で釣りをして、その後サバを使って漁港のおばちゃんたちに魚のさばき方を習い、タイの刺身を作ってみんなで食べました。
一日では魚の上手なさばき方はとうていマスターできませんでしたが、厳寒の中、埠頭で炭をたいて熱燗とともに食べた釣りたての刺身の味は忘れられません。
おいしい記憶というのは、何を食べたかだけでなく、どこで誰と食べたかが重要なんですね。

昨年は、武道。
宮崎に飛んで手裏剣道とグレイシー柔術を習いました。

手裏剣というと忍者がシュシュシュっと投げるいわゆる星型の手裏剣を思い浮かべますが、実は片手で投げてズブっと一撃で刺す、20センチくらいの棒状の「棒手裏剣」が、実際に使われていたものだったそうです。
なので、僕らも棒手裏剣の先生から棒手裏剣の投げ方を習いました。
個人的にはシュシュシュってやつを期待していたのですが(笑)。

そして、その後体育館に行って全員柔道着に着替えてグレイシー柔術を習いました。
受け身から始めて、いくつか技を習って、最後は組手まで。
普段一緒に仕事している先輩や後輩を投げ飛ばしたり、押さえ込んだり。
護身術は、相手の力を利用するので、筋肉や骨格の構造についてたくさん発見があります。
個人的にはむちゃくちゃ楽しかった。
でも当然翌日は筋肉痛です。
研修担当だった北野篤の個人的な趣味で組まれたカリキュラムでしたが、全社員護身術標準装備の会社というのも魅力的です。
ケトルが暴漢に襲われたときに役に立つかもしれません。

グレイシー柔術研修

グレイシー柔術研修。宮崎にて。

翌日は、高千穂のパワースポットに行きました。
高千穂は、天岩戸に隠れてしまった天照大神(アマテラスオオミカミ)を外に連れ出すため、八百万の神々が作戦会議をした場所。
「日本最初の作戦会議が開かれた場所にケトルが行かずにどうする?」
そんな嶋浩一郎のひとことで、宮崎から半日かけて往復してきました。

そして、最終日は宮崎県庁に当時の東国原知事を30分間表敬訪問して帰ってきました。

毎年指名された研修担当が、その年のテーマと目的地と習い事をプランニングして僕たち全員にプレゼンします。
そしてカリキュラムを組んで手配して旅のしおりを作る準備作業も、ホスピタリティの勉強になったりします。
高松玲子が入社して最初にした仕事は、地図と格闘しながら、一日でいかに多くのうどん店を回れるかのルート作成だったそうです。

かっこよくいえば、ケトルはものを作る会社なので、毎年何かしらものづくりの技術を学ぼうという精神なんですが、年に一度自分の手を使ってやったことのない何かを習う、そんな仕事と関係ない習い事をするのは理屈抜きで楽しいことなのです。

大人になるとやったことのないことを一から始める機会が少なくなるものです。
忙しい毎日を送っているとさらにそういうことがなくなる上、なかなか失敗できなくなって、自分の使い慣れた筋肉や脳味噌しか使わなくなりがちです。

だから年に一度くらいは、超初心者になって全然うまくいかない思いをして赤っ恥をかいたり、普段使わない筋肉を使って筋肉痛になったりするほうがいい。

ケトルはいつまでも、新しいことにチャレンジする会社でいたいと思っています。

木村健太郎「やかん沸騰日記」バックナンバー