佐藤尚之(さとなお)さんに聞く(前編)「効率じゃないコミュニケーションへ」

まるで、広告の未来探しの旅。
この連載は、旅に似ていて、日々の仕事をしながらも、まるで精神的な長い旅に出ているような不思議な気分になっています。

今回、ちょうど中間地点となる第6回は、佐藤尚之(さとなお)さんです。

ここから先の旅の計画を立てるにあたって、佐藤尚之さんが広告の未来について、今どう考えているのか、このタイミングでお会いして話したかったのです。

個人、政治、企業。そういうものの間をつなぎながら、佐藤尚之さんが、ずっと前から信じ、闘い、変えていこうとしていることが何なのか、対談を通して、それに少しだけ触れることができた気がします。

広告の未来の話をしよう。COMMUNICATION SHIFT

第6回は、佐藤尚之さんです。

佐藤尚之 プロフィール
1961年東京生まれ。ツナグ代表取締役。電通モダン・コミュニケーション・ラボ主宰。公益社団法人「助けあいジャパン」会長。ソーシャルメディアを中心とした次世代ソリューションを扱うコミュニケーション・ディレクター、クリエイティブ・ディレクターとして活躍。代表作は「スラムダンク1億冊感謝キャンペーン」「星野仙一優勝感謝新聞広告」「NECショートフィルム『it』」など。JIAAグランプリ、新聞広告賞グランプリ、広告電通賞金賞、ACC賞など受賞多数。著書に『明日の広告』『明日のコミュニケーション』(共にアスキー新書)などがある。 http://www.satonao.com/

企業と生活者の関係から、企業の中の個人と生活者の関係にシフトしていく。

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並河:お久しぶりです。最初に、うかがいたいのは、さとなおさんのお仕事は、何と呼べばいいのか、というところです。

さとなお:並河くんは、コミュニケーションの力で社会に貢献しようとしていて、僕にも、そうした社会に対する使命感があるとして、それをあえて言うとすると、つなぐ、ということかな。会社名の「ツナグ」には、そういう意味を込めました。

たとえば、世代間の違い。僕より上の世代はマスマーケティングの全盛期に育っていて、イメージを波及させて人を強引に振り向かせていく、という世代。でも、僕より下の世代は、もっと共感でシェアでパブリックな方向へ自然と向かっている。北風と太陽の違いに近い。

こうしたズレがいろいろな局面で起きているんだけど、僕はそのちょうど真ん中あたりで、どちらの考え方も分かるわりと特殊な場所にいると思う。だから、その間をつなぎたいと思うんですよね。とても面倒なことなんだけど……どちらにも良いところがあるから、そこをなんとかしたい。

そういう「間をつなぐ作業」っていろいろなところで必要。たとえば、官と民は、そもそも対立するものではない。だから、震災後、官民連携のプロジェクトとして復興支援情報を発信する「助けあいジャパン」を立ち上げて、官と民をつないだりしている。

並河:さとなおさん自身は、自分がやっていることは、広告だと思っていますか?定義次第なのかもしれませんが。

さとなお:どうなのかなぁ。よく分からない。僕はずっと、個人として、日々サイトやツイッター、フェイスブックでの発信を続けてきて、それらは広告じゃないけれど、でも、人が動く場ではありますよね。

そういう、広告とは違う、人と人との「響きあい」みたいなことを起こしたい。そしてそれは、僕は個人としてやっていくほうがいいんじゃないかと思ってる。企業対個人より、個人対個人のほうが、ピュアというか、人の心も動きやすいから。

並河:でも、企業も、個の集団なので、個と個の関係の延長線上として、企業と個の関係を生み出そうとする動きもありますよね。

さとなお:企業と個人の関係から、企業の中の個人と外の個人の関係にシフトしていく。僕は、そうあるべきだと思うし、そうなっていった方がいいと思う。ただ、それに関わるとしたら、当然、僕自身も、広告会社という企業として関わるのではなくて、個人として関与していくべきなんじゃないかと思ったりします。

ホリスティックな療法や、リハビリテーションに近い仕事です

並河:具体的には、企業の中の「個人」が情報を発信するリテラシーを上げる社員教育のような仕事もされているのですか?

さとなお:今年のはじめに、Looopsの斉藤徹くんと「unit SaSa」というチームをつくりました。斉藤の「さ」と、佐藤の「さ」で、「ささ」です。

これは、ソーシャルメディア時代に、企業の一人一人が、生活者に向き合うために必要な知識や現場感覚を身につけていくお手伝いをしていく、というチームです。セミナーからスタートし、インナーキャンペーンといった広告の手法を使いながら、企業のシフトを内部からゆっくりと促していく方法です。

並河:僕も、企業のCSRやCSV(Creating Shared Value)の社内横断ワークショップのファシリテーターを依頼されることも多いんです。自分の会社のプロジェクトをどう伝えていくかを、社員みんなで考え、実践していこうというワークショップで、とても盛り上がるし、面白い。社員の方から、すごく喜ばれるんですよね。

自分が代理してコミュニケーションをつくるのではなく、企業の中の「個人」が、生活者と、直接コミュニケーションをしていく方法を考えるお手伝い。

広告代理店が、代理しない、という道ですね。

さとなお: そう、代理しない。

個と個がつながっているソーシャルメディアでは、たとえば、僕が、並河くんの代理をして、何かを書くというのはありえない。でも、並河くんの補助をして、こうやったらいいんじゃんって、本当はこうだよねって、お手伝いすることはできる。

だから、企業のコミュニケーションを、ラブレターに例えると、できるだけ代筆はしない。もちろん、代筆するときもあるけれど、そのときは、見えないところでこっそり行うのではなく、自分の納得がいったときだけ、自分の名前を出して行う。

でも、最終的には、企業の中の個人が、自分で生活者にラブレターを書けるようになったほうがいいんだよね。

それは、体質改善みたいな話。西洋医学ではなく、ホリスティックな療法や、リハビリテーションに近い仕事かなと思ってる。

並河:そういう職業にはまだ、名前はないですよね。ファシリテーターやコンサルティングというのも感覚としてはちょっと違うし、コミュニケーションデザイナーでもないし。

さとなお:でも、僕はカテゴライズされたくないなぁ。だから、職業が分かりにくくてもいいかなと。

並河:いいですね。僕も、常に、なんかこうよく分からない人でいたいです。

後編に続きます。

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並河 進(電通ソーシャル・デザイン・エンジン コピーライター)
並河 進(電通ソーシャル・デザイン・エンジン コピーライター)

1973年生まれ。電通ソーシャル・デザイン・エンジン所属コピーライター。ユニセフ「世界手洗いの日」プロジェクト、祈りのツリープロジェクトなど、ソーシャル・プロジェクトを数多く手掛ける。DENTSU GAL LABO代表。ワールドシフト・ネットワーク・ジャパン・クリエーティブディレクター。宮城大学、上智大大学院、東京工芸大学非常勤講師。受賞歴に、ACCシルバー、TCC新人賞、読売広告大賞など。著書に『下駄箱のラブレター』(ポプラ社)、『しろくまくん どうして?』(朝日新聞出版社)、『ハッピーバースデイ 3.11』(飛鳥新社)他。

並河 進(電通ソーシャル・デザイン・エンジン コピーライター)

1973年生まれ。電通ソーシャル・デザイン・エンジン所属コピーライター。ユニセフ「世界手洗いの日」プロジェクト、祈りのツリープロジェクトなど、ソーシャル・プロジェクトを数多く手掛ける。DENTSU GAL LABO代表。ワールドシフト・ネットワーク・ジャパン・クリエーティブディレクター。宮城大学、上智大大学院、東京工芸大学非常勤講師。受賞歴に、ACCシルバー、TCC新人賞、読売広告大賞など。著書に『下駄箱のラブレター』(ポプラ社)、『しろくまくん どうして?』(朝日新聞出版社)、『ハッピーバースデイ 3.11』(飛鳥新社)他。

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