企業におけるマーケティング機能の役割が大きくなる中で、従来の「広告担当者」に留まらない、真のマーケターとしての活動、視野が求められている。「広告」という手法にとらわれずに、企業とお客さまの接点をつくり、新しいコミュニケーションを志向している3人がこれからの企業におけるマーケターの役割、必要な資質などについて意見を交わした。
<登壇者>
エイチ・アイ・エス 本社 事業開発室 室長 山岡隆志氏
日本アドバタイザーズ協会 Web広告研究会 代表幹事 本間充氏
トヨタマーケティングジャパン マーケティングディレクター 折戸弘一氏
成功のカギは「共成長マーケティング」に「アドボガシー」
── はじめに現在の仕事内容を教えてください。
トヨタマーケティングジャパン
マーケティングディレクター折戸弘一氏
折戸 トヨタマーケティングジャパンで、プリウスやアクアなどの次世代環境車のマーケティングを担当しています。アクアは2011年の12月に発売し、特徴はガソリン1リットル当たり35.4キロという世界一の低燃費と、169万円からという低価格です。
このマーケティングでは2つの戦略を立てました。まず、短期的なプロダクト戦略として、燃費の良さといった商品力の高さをテレビCMなどを使って購入者層に向けて迅速に伝えます。また、この車の月販目標は1万2000台でしたので、中長期的なプロジェクト戦略も必要です。車に関心がないと言われる若年層を中心としたブランディングを視野に入れ、“水”という意味のアクアにちなんで、水をテーマにした地域の環境保全・保護活動「アクアソーシャルフェス」を全国で展開しています。アクアを購入しなくても申し込むだけで参加できますし、免許を持っていない若い方も大勢参加されています。
我々はこの活動を「共成長マーケティング」と名づけ、社会・個人・企業の三者がWin-Winで結ばれるような関係を目指してきました。
社会には良い環境や未来がもたらされ、個人はこのプログラムに参加することで楽しむことができ、企業にとってはブランドに対する共感を得ることができます。全国のブロック紙や地方紙、各地域のNPOとコラボしながら、地域ごとの問題に応じたプログラムを作成し、地域開発から運営まで協同で活動しています。昨年は全国131カ所で開催し、結果的に1万1533名の方が参加してくださいました。
本間 本日は、日本アドバタイザーズ協会(JAA)内の委員会を母体として発足したWeb広告研究会の代表幹事として参加します。10年以上前に立ちあげた団体で、現在は広告主以外にも広告代理店や制作会社など330社ほどが参加されています。
毎年2月頃にこの研究会の宣言というのを発表していまして、これはWebマーケティングにおいて何をなすべきかと考えた時に、研究会が道筋をつけるために出しているメッセージです。今年は「デジタル・マーケティングでビジネスを成功させるのは宣伝部長です」と宣言しました。
宣伝部長をいじめているように聞こえるかもしれませんが、マーケティング責任者である方たちに「デジタル・マーケティングでビジネスを成功させるのは、あなたたちです。企業の中をリフォーメーション、リストラクチャーしてください」というメッセージを伝えたかったのです。
エイチ・アイ・エス 本社
事業開発室 室長 山岡隆志氏
山岡 エイチ・アイ・エスの事業開発室でマーケティング全般とデジタル・マーケティングを担当しています。ライフワークで学術研究も行ってまして、実業と学術を互いに応用しています。私の研究領域はアドボカシー分野です。
昔は企業が情報を持っていたので強かったのですが、今は顧客のほうが強い。このような状況では、ありのままの情報を公平に提供したほうが信頼を勝ち取れます。顧客と信頼関係を結んでから、売りを行うという顧客の利益の最大化を目指す方法が、アドボカシー・マーケティングです。提唱されたのは2004~05年ぐらいで、その頃はまだそんなにSNSが広がっていませんでしたが、顧客サイドに立つことと、ソーシャルメディアはすごく相性がいいと思っています。
会社での仕事については、当社は2012年12月にスマートフォンサイトをゼロベースで全面リニューアルしました。それまでにリリースした大規模なシステム開発を伴う海外航空券アプリや、Windows8アプリの開発で得たUI/UXの知識を活用して、スマートフォンでできる限りのユーザー・エクスペリエンスの実現を目指したのです。当社には「何でも挑戦していけ」という文化があり、SNSを含めていろんなメディアを次々に試して、それぞれにどんな価値があるのか検証するようにしています。SNS のアプリ基盤を作っておいて、後はほとんど予算ゼロでいろんなキャンペーンを打っていくという形ですね。HMV さんとの合同キャンペーンでは、お互いにオウンドメディアを持っていることが強みになり、告知するだけでも新しい方にリーチできました。机上であれこれ考えるよりも、まずはやってみて、その市場を確認してから次のキャンペーンを打っていくということが、事業会社が持つオウンドメディアと、今のSNSのインフラを使えば簡単にできます。
(次ページへ続く)
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