タイトルや帯のコピー力で小説の敷居を下げたい
企業を舞台にした小説は、従来は男性向けと捉えられがちだったが、池井戸さんの作品は、かなりの女性読者も獲得している。より幅広い人に自分の小説に触れてもらうための、池井戸さんの工夫とは。
サイン会など、読者と直接触れ合える場に行くと感じることですが、近年、女性の読者が増えているのが印象的です。従来、いわゆる「企業小説」は10対0で男性が読むものと捉えられてきましたが、僕の作品は読者の3〜4割が女性です。そのため、作品中での女性の描き方は、日々研究を重ねています。女性の編集者に読んでもらい、不自然さはないか、時代錯誤なところはないかなど、チェックしているんです。驚いたのは、女性がたくさん登場すれば、女性読者の共感が得られるわけではないということ。たとえば『下町ロケット』の登場人物は男性ばかりで、女性といえば、主人公の母と娘、そして電話の相手としてしか登場しない元妻くらい。でも、これが意外と女性に支持された。エンタテインメント小説には、「ヒーローとヒロインがいて、一定の恋愛パートがあって…」といった約束事のようなものがあったのですが、それ自体がもう古いのかもしれないと実感した経験でした。