廣田:最近まで書店に並んでいた働き方系の議論は「ノマドか、社畜か」みたいな単純な比較の話ばかりだなと思っていました。
ノマドを推奨するものもあれば、一方で絶対組織は辞めるな、しがみつけ!という議論もあります。いずれにしても、なんだか僕は納得は出来ませんでした。
『「破格」の人』で紹介されているのは、会社に属しながら、ある種楽しそうに働いている人達といえると思います。その違いというのはどこにあるんでしょうか。
阿部:戦後の日本を特徴づけてきたのは「家族」と「企業」と「国家」です。
家族や企業や国家が巨大な存在として個人を押しつぶしていくというひとつの近代化のモデルがあった。これは多くの人に共有されて、会社員は社畜的とか、女の人は主婦として家庭に縛られているといった形で戯画化されて、個人の自由と組織が二項対立的にとらえられてきました。
社会学では前期近代と呼ばれる、個人が組織に隷従する社会、安い自動車をつくるためにみんなが奴隷的に働く自動車工場のようなモデルです。
結局、その時代は1990年代に終わったというのが僕の見立てで、1990年代から2000年代にかけて、後期近代とかポストモダンと呼ばれる時代になるんですけど、いまだに、個人と組織を対立的にとらえる議論が多い。
それは、日本に古い体質が残っているから、アンチテーゼを唱えつづけなければいけないということもできます。
しかし、実際僕の同世代で、組織に属してわりと自由に働いている人を見ると、30年前の組織とは違う組織の中で働いているのが現実です。これは社会が変われば組織も変わるはずなので、当然です。
よくある議論というのは、個人の自由と抑圧を二項対立的にとらえるものです。これはわかりやすいし、受けがいい。世の中の秩序をはね返す、という秋元康的な世界観です(笑)。
秋元康さんは「後ろ指さされても、僕は自由に生きる」というものすごく近代的な、モダンな社会観を持っています。
それがなぜ受けるかというと、わかりやすいから。特に社会経験が少ない、会社で働いたことがないような中学生や高校生には受入れられやすい。それは一昔前のモデルで、今は全然違うわけですが、学生は働いたことがないからわからなくて、組織というのが巨大な悪の帝国みたいに見えるわけです。
廣田:大きな組織が個人に対する抑圧装置に見えているということですね。
阿部:わかりやすいからメディアもそれを煽って、対抗する自由な生き方みたいなものが推奨されます。
現実的に、これから働いていく上でそんなことを思っていても働けないし、時代は変わっています。
社会に出る前に、実際に今、企業で働いている人がどんな風に働いているのかを見ると、組織人であることは、企業である以上当然求められます。ただ、そのような企業の中にも、ロバート・B・ライシュがいうところの「変人」的な人が活躍できる場所はあるということが言いたかったんです。
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