東京2020エンブレムを一般公募にしなかった理由

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東京2020五輪のエンブレムのデザインについて、さまざまな見解、議論が交わされている。エンブレムはどのような手順をふみ、どのような審査によって選ばれたのか。ブレーン編集部では、会見時に明らかにされていなかった審査プロセスについて、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会(以下 東京2020組織委員会)に取材を行った。
9月1日発売「ブレーン」10月号の東京2020五輪のエンブレムのデザインについての特集から、その一部を紹介する。
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東京2020五輪エンブレム審査は2014年11月17日、18日の2日間にわたり行われた。

最終応募は104名、104作品(うちイギリス・シンガポール・中国・香港から4名が参加)。通常の広告・デザイン賞の審査同様、応募作品はすべてナンバーで管理。最初の投票から、決定に至るまで、制作者名を伏せた状態で作品を審査している。

会場にはロゴと展開例があわせて並べられ、各委員は両方を見た上で、それぞれの視点で残すべき作品、議論すべき作品の上に手持ちのチップを置く方法で投票。

1日目の審査で104作品を37作品に、その後37作品を14作品まで絞りこんだ。

2日目に、あらためて14作品を審査し、再度投票。その結果、4作品が最終選考に残り、そこから新たに議論を交わしたという。それを経て再度投票し、3作品の入選(佐野氏ほか、葛西薫氏、原研哉氏)を決定した。その時点で佐野案の投票数が一番高かったが、そこで決定せず、さらなる議論を続けた。

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議論の中心になったのは、展開力と拡張性。

街中に掲出されたとき、テレビ、Webではどう見えるのか。2020年に、このエンブレムはどうあるべきかなど、多岐にわたり、それぞれの専門性、見地、価値観から意見をぶつけあった。8名全員がこれで行こうと納得をするまで、議論を尽くし決定した。

永井一正審査員代表は「審査で最も力を入れたことは、オリンピックとパラリンピックは兄弟の関係、つまり一対であるという点です。単独で見たとき、それぞれの個性を発揮しながらも、イメージは統一させなければならない。さらに、モノクロで表現したときにも違いが分かる必要もある。そういった条件をもとに、差の付け方やバランスも審査のポイントになりました。それから、2020年という少し先に展開する“未来の象徴”となるものであることも意識しました」と話す。

エンブレム候補として佐野案に決定後、事前商標調査を実施。その結果をうけて、委員会はデザインの微修正を佐野氏に依頼した(当初より、Tと円はデザインに組み込まれていた)。

近年、各国のオリンピックエンブレムが複雑化しているのは、商標が影響している。ほかと重ならないデザインを求めれば求めるほど、シンプルなデザインでは通用しなくなっている。64年開催時にはそのような調査はなく、「亀倉雄策さんの東京五輪の際の日の丸のデザインも、いまは通らない可能性もある」という声も聞かれる。

国内での調査通過後、国際オリンピック委員会、国際パラリンピック協会、組織委員会共同で、国際商標調査を実施。数か月にわたる調査を経て、7月24日の発表に至った。

「審査は利権などとは一切無縁、かつ一点の曇りもない状態で、きわめて公正に実施した」と、同委員会は断言している。

今回のコンペを、一般公募にしなかったのは、次のような理由による。

オリンピック・パラリンピックの理念をエンブレムに落とし込んだデザインであることは、デザインを選定する上で第一義にある。

しかし、マーチャンダイジングや多様なメディアへの展開を考えたとき、そこに対応できるデザイン力があること。制作物のクオリティも担保できることは必須だ。

さらには国際商標をもクリアにしたデザインでなくてはならない。ここには相当な知見とスキルが求められる。そのためロンドンやリオでは個人ではなく、デザイン・ブランドコンサルティング会社がこれらを請けおっている。

国内外のデザイン賞を複数回受賞しているデザイナー個人を応募有資格者としたのは、クオリティの高さと展開力を求めたことが大きい。

知的財産権やデザインマネジメントを専門とする日高一樹弁理士は、今回の件について次のような見解を示す。

「欧米のデザイナーは企業・個人問わず主張が強く、リエージュ劇場のシンボルマークのデザイナーの対応は、デザインやブランドに対する考え方の違いを感じます。欧米の企業にとってブランドを構築するのは戦いであり、自分の権利を侵すものとは徹底的に戦います。個人のデザイナーも抜きん出た独自性こそ自分の価値だと考えるため、権利意識が強くなります。 グローバル市場でデザインをしていくには、この価値観を前提にプロとして仕事をすべきです。ネットでコピー&ペーストが簡単にできる現代において、アマチュアとプロのデザイナーを分けるのは、高度な知財の理解と知財マネジメントを組み込み仕事に臨めるかどうかです」。

※こちらの詳細は、9月1日発売「ブレーン」10月号にて、レポートをしています。

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