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コラム

いま社会課題に必要なマーケティング・コミュニケーション実践論

圧倒的な影響力を発揮している組織が実践する6つの原則

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【前回記事】「NPOが信頼とファンを得る“共感メッセージ”のつくり方」はこちら

NPOをはじめとする非営利組織の最大の課題であるマーケティング・コミュニケーションは、どのように実践されるべきか。3人のプロたちが、具体的かつ実践的な手法をリレー形式で紹介する本コラム。2周目となる第4回は、井出留美氏が、エバンジェリスト(支援者)をテーマに語ります。

組織の外にエバンジェリスト(熱烈な支持者)を育てる

英エコノミスト誌が2007年のベスト10冊に選んだ経営書、『Forces For Good』。4年の調査研究をもとに、社会に大きな影響を与えた米国内の非営利組織を12団体選び、成功している組織に共通する6つの原則を紹介したものです。日本では2012年、『世界を変える偉大なNPOの条件」として邦訳出版されています。

本著が紹介している6つの原則を挙げてみましょう。

第一の原則 政策アドボカシーとサービスを提供する
第二の原則 市場の力を利用する
第三の原則 熱烈な支持者を育てる
第四の原則 NPOのネットワークを育てる
第五の原則 環境に適応する技術を身につける
第六の原則 権限を分担する

このうち、本の中表紙に取りあげられているのが「第三の原則」です。NPO、特に日本のNPOの多くは、予算も人員も限られています。その条件下で力を発揮するのが「いかに外部の人を巻き込むか」。本書では、規模や体制の小さなNPOが大きな影響力を発揮することを「自分の体重の三倍ある巨大な石を てこと支点を使って持ち上げる人」に例えています。

組織内外の人に意義ある体験を提供する

私が広報の責任者を3年間務めたセカンドハーベスト・ジャパンは、日本で初めてフードバンクを始めたNPOです。その基となった米国のアメリカズ・セカンドハーベストは、この本の「優れた12団体」に選ばれています。

セカンドハーベスト・ジャパンは、以前より他者を巻き込む体制が整っていました。食品メーカー、スーパーマーケット、コンサルティング会社、任意団体、他のNPOなど、多様なステークホルダーと関係性を作っており、特に、この本にもある「参加意識を高めるための四つの法則」のうち「意義のある体験を生み出す」ものとして、炊き出しボランティアを上手に活用していました。

私がセカンドハーベスト・ジャパンの広報室長になる前、日本ケロッグの広報室長だったときに行なったのも、社員を「広報」に巻き込むということでした。たとえば関西からテレビ撮影の依頼が来たときには、大阪支店の営業マンに出てもらい、関西弁で上手に製品をアピールしてもらいました。また、普段はおもて舞台に出ることのない工場の総務や製造部長にも一緒に出演してもらい、「全社一丸となってテレビ番組を創る」といった機運を創り出しました。

コミュニティへの参画からチームの一員になってもらう

また、入社4年目から全社員に配信を始めた「広報室ニュースレター」では、とにかく社員を元気づける、社員に役に立つ情報発信を心がけました。社内広報の担当者の方から、よく「社内から情報が集まらない」という嘆きを聞くことがあります。

でも社員は広報部門に情報を与えるために存在するわけではありません。基本的にどの社員も自分の部署の業務で多忙なはずです。自分がもらう(take)ことばかり先に考えるのではなく、まずは自分が与える(give)ことを徹底的に実践していくと、地方の営業マンから「営業車に乗ってラジオをつけていたら、今日は自社の創立記念日だと放送していたとエフエムでやっていた」という情報をもらえたり、工場の総務から「地元の野球チームのコーチがブログで自社製品を紹介してくれた」というニュースを受け取るなど、いわゆるクリッピングサービスでは到達することのできないローカルな自社関連情報も入手することができるようになりました。

そうして入手した情報をもとに、自社製品を紹介してくださった方に直筆で御礼の手紙を書き、製品を同梱して送るということを14年半続けてきました。そうしたことから、会社を辞めて4年以上経つ今でも手紙でつながっている女優さんもいます。

組織の中だけでなく、組織の外に「エバンジェリスト(支援者)」を育てることは、一朝一夕にはいきません。だからこそ、蓄積されれば大きな価値となり、社会に大きな影響力をもたらすのだと思います。