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コラム

長谷川、カヤックやめるってよ。

見えない10億の仕事より、自分の手から100円のものを売りたい。(牧野圭太さん)

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会議をするより、手を動かしたい。

長谷川:あえてお聞きしますが、博報堂の嫌いなところがあれば教えてください。嫌いなところに本質が出るのかな、と思いまして。
 
牧野:ひとつ挙げるとしたら、会議が多すぎるところでしょうか。博報堂って、最先端のことをやっている会社だと思われているかもしれませんが、組織としては割と古い体質の会社だと思います。20人くらいの会議も平気であったし、夜22時以降の会議もザラです。会議って何かを生んでいるようで、たいていは生んでないと思っています。その間に少しでも手を動かしてつくったほうが、よっぽど生産的です。
 
長谷川:逆に、博報堂の好きなところは?
 
牧野:好きなところもたくさんあります。中でもやっぱり「人」が最高でした。一緒に飲みにいきたいと思うような面白い人がいっぱいいましたし、すばらしいクリエイターやデザイナーとたくさん出会えたのは本当によかったと思います。

長谷川:社内で尊敬できる人はいましたか?

牧野:同世代はとくにいっぱいいました。もう先に辞めてしまった先輩ですけど、旅先で家庭の料理を味わえる「KitchHike(キッチハイク)」というWebサービスを始めた人は僕と同じ年なのですが、そういう自分のやりたいことを実現させている人が好きですね。あとデザイナーはやはり尊敬できる人が多くいました。

長谷川:個人の名前が売れて大きなクライアントを掴んでから辞める、というのではないところがいいですよね。

牧野:広告のクリエイターは、割と名前が知られてから独立するパターンが多いと思います。やっぱり多くの仕事が電通と博報堂にあるので、個人はいい仕事がとりにくいかもしれません。でもこれからは、もっと変わっていって、小さいクリエイティブの会社が大きな仕事をするようなケースも増えてくると思います。

会社にいたとき半年かけてもできなかったことが、独立したら1カ月半でできた。

長谷川:「辞める」と伝えたとき、周りの反応はどうでしたか?
 
牧野:2015年2月に上司に辞めることを伝え、実際に辞めたのが7月末だったので、だいたい半年かかりました。その間に「文鳥文庫」を博報堂のなかでやろうとしたのですが、結局うまくいきませんでした。
 
博報堂のビジネスの主軸は「代理業」なので、自分たちで「商品をつくって売る」ということがもともと計画されていないんです。前例やルールをつくることからスタートしなくちゃいけないから、とても時間がかかります。

長谷川:100年以上の歴史がある会社だから、そのぶん、説得しなければいけない人がたくさんいるんですね。
 
牧野:そういう時間がもったいないと思って、最終的に会社を辞めて自分でやることにしました。会社にいたときは半年かけてもまったく進まなかったことが、独立したら1カ月半でできました。

見えない10億の仕事よりも、自分の手から100円のものが売れるほうが嬉しい。

 
長谷川:牧野さんが、「文鳥文庫」のような自分たちで商品をつくる仕事をしたいと思ったのはなぜなのでしょう。

牧野:正直に言えば、「自分で何もつくっていない」というコンプレックスがありました。広告クリエイターって、「ザ・クリエイター」という感じで、とても偉そうにしている人がいるんですけど、それが不思議でした。本当にモノや価値を産み出しているのはメーカーや、サービスをつくっている会社のほうだと思っていました。だから、本当の意味で創造することを仕事にしたいと考えるようになったのだと思います。
 
長谷川:博報堂時代にいろいろな仕事をしたと思うのですが、「これは転機になった」と思える仕事はありますか?
 
牧野:博報堂にいると、それなりに大きなクライアントさんの仕事が多いのですが、いちばん「この仕事をやっていてよかった」と思えた仕事は、八百屋さんがクライアントの「旬八青果店」の仕事でした。

名前、ロゴ、店舗の設計からポスターやチラシまで、牧野さんが1から関わり形にした旬八青果店。中目黒をはじめ都内に10店舗展開している。

株式会社アグリゲートの代表の左今克憲さんと元々知り合いで、「八百屋をつくりたい」という話をいただいて、それは「ぜひやりましょう」ということで動きだしました。

いま、都内の八百屋がどんどん減っているんですね。そんななかで、「今日はいいデコポンが入ったよ」というやりとりのあるような、旬のものを売る場所をつくりたいと思ったんです。

1号店は中目黒の小さな場所でした。オープンの日、自分も販売スタッフとして朝7時からさつまいもを売り始めたんですよ。最初は誰も買ってくれなくて「ヤバいな」とドキドキしていたところに、トコトコとおばあちゃんがやってきて、100円のさつまいもをひとつ買ってくれたんです。

そのとき、自分の手から100円のさつまいもが売れるほうが、10億円のキャンペーンをつくるより嬉しいのかもしれないなと思いました。きれいごとかもしれませんが、人の実感なんてそんなものだと思います。仕事においては、そういうリアリティが大事だと実感しました。

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