かつて、「デジタル・デバイド(情報格差)」という言葉が取りざたされた。社会基盤にITを導入した結果、パソコンのような情報端末を持っていなかったり、使えなかったりする人が不利益を被るという問題だ。
昨今ではあまり耳にしなくなったが、いま、企業にこそデジタル・デバイド問題が起きてはいないか。デジタル手法によって得られるはずの利益を逃し、回避できるはずの損失を被る—導入に積極的な企業とそうでない企業の差はどんどん広がるだろう。
「IBM Amplify2016」の会場でクリス・ウォン氏(IBMコマース・マーケティング・ソリューションズ、ストラテジー&プロダクトマネジメント担当副社長)に単独インタビューの機会を得た。「そもそもデジタルマーケティングはなぜ重要なのか」という前提から、「デジタル化で人間の仕事はどうなるのか」「マーケティング変化とどう付き合えばいいのか」について尋ねた。
—デジタルマーケティングの有用性について、ウォン副社長はどのように考えていますか。
デジタルマーケティングには、従来型のマーケティングと比べて、とても大きなアドバンテージがあります。
一部のマーケターはいまだに、「マーケティングとは広告を打つことだ」、そんなふうに考えているようです。けれどもマーケティングの本質というのは、消費者の望みを理解すること、そして彼らの望みを満たすことにあります。それがマーケティングの基礎です。
もちろん従来のマーケティングでも、消費者のニーズを探り、商品とのマッチングを目指していたわけですが、デジタルマーケティングの利点は、大衆レベルではなく、消費者一人ひとりのレベルで、彼らの望みを知り、またアプローチできる点にあります。今日、人々の欲求を導き出すための多くの指標があり、また、その源泉となる極めて膨大な量のデータがあります。
言葉で言うと当たり前のように聞こえますが、本当にそれを実行に移すとなると、顧客を巻き込む手段が膨大な数に上ります。メッセージの種類も、それを送り届ける経路も複雑になる。そうした環境で、高いレベルで消費者と商品をマッチさせるのは、手作業ではほとんど不可能です。デジタルツールの活用なしというのは考えにくいでしょう。
また、顧客を知る上で大切なのは「購入」後です。「購入」というステップを経ると、顧客情報がさらに増えるからです。データは最初のアプローチだけでなく、顧客の保持、繰り返し購入してもらう上でも、強い味方となってくれます。
そう考えると、デジタルマーケティングにおいても、小売業が極めて有利な立場にあることがわかるでしょう。「購入」というアクションは、顧客について実にたくさんのことを教えてくれます。そうした接点を持てるのは、実店舗での販売であれ、Eコマースであれ、小売業のアドバンテージになります。
顧客のニーズを発見し、ニーズと商品とをマッチさせ、商品を届ける。それを個々人のレベルで実行するのがデジタルマーケティングの本質だと私は考えています。自分たちの顧客の望みを特定し、それと商品とをきちんとマッチさせられるマーケターこそ、成功者といえるでしょう。
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