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マーケターを蝕むスキル不足の病い — IBMクリス・ウォン副社長に聞く

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分岐点はすでに訪れている(写真提供:Shutterstock.com)

—一方で、そうしたデジタルツールの導入によって、仕事がなくなる人も出てくるのでは。それが、デジタルマーケティングの導入を阻むこともあるように思います。

とても重要な質問です。「デジタル化によって、職を失うのではないか」といった恐怖感は、日本に限らず、欧米でもありうることです。実際、私が見たある調査結果では、近年の、最高マーケティング責任者(CMO)の平均在職期間は1.5年間ということでした。別の調査でも2年間~3年間という結果がありました。

CMOがそんな短い期間で職を失ってしまうのは、一体なぜでしょうか。デジタルテクノロジーが彼らの仕事を奪ってしまった? –いえ、そうではないでしょう。立場を追われてしまったCMOは、テクノロジーの使い方を知らなかったのです。これはトップだけの話ではなく、マーケティングに関わる組織全体で起き得ることです。

先ほども述べましたが、マーケティングと広告が同義にとらえられていた時代がありました。企業が広告代理店を雇って、“斬新”で“創造的”で“クールな”表現を考え出し、テレビCMの枠を買い、消費者に自社商品のことを知ってもらう。それがマーケターの主な仕事だった時代です。

現代では、広告をピンポイントに個々人に届けられます。Webサイト上のディスプレー広告、Facebookのようなソーシャルメディア広告、広告の経路がとても細かくなった。どんな内容でどんな伝え方をすれば、消費者一人ひとりに適した正確なアプローチが可能になるのか。そこを追求することが、マーケティングの一つの要点になったわけです。

そうした時代に、「テレビCMをすることがマーケティングだ」、そんな考え方でいること自体が、組織にとっては大きなトラブルだと言わざるを得ません。

いや、テレビを否定しているわけではないんですよ。ただし、テレビの有効性は相対的に落ちたと言っていいと思います。いまやすべての世代に届くメディアではなくなりました。せいぜい100万人単位でしょう。私の子どもなどはテレビをほとんど見ません。SnapChatやYouTubeに夢中です。

“クリエイティブ”が力を失ったわけでもありません。消費者の感情を揺さぶる表現はいつだって大切です。けれど、それは何もテレビCMに限ったことではありません。FacebookでもYouTubeでも、それぞれに見合った表現というものがある。

要は、広告業界の多くのマーケターは、スキル不足に陥っているんです。もしもあなたが、業界歴20年を誇る広告パーソンだというなら、むしろ心配ですね。そしてCMOに就く人の多くが、そういう広告業界人です。

それでは今日、マーケティングの仕事は成立しません。広告に加え、ブランディング、パブリックリレーション(広報)、プロモーション、それら全般に関わるデジタルマーケティング…求められるスキルの幅が、とても広くなったということです。

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