異例の決定プロセスを経て東京2020大会のエンブレムに選ばれた「市松」エンブレム。作者は、幾何学的なアプローチから紋様の制作を行うアーティストの野老朝雄さんだ。発表時から様々な人がこのエンブレムをメイキングを分析し、展開案を予想しているが、作者自身の頭の中にはどんなビジョンが存在しているのか。野老さんに語ってもらった。
(本記事は、ブレーン7月号からの転載です)
(本記事は、ブレーン7月号からの転載です)
なぜ五輪エンブレムを「単色」にしたのか
「エンブレムの歴史の中で『句読点』みたいなものになるかな、と思っているんです。なんでこの人は五輪なのに単色にしたんだろう、などと思われるんじゃないかって」と野老朝雄さんは話す。そのくらい、過去のエンブレムの中でも“異色のデザイン”だという自覚がある。「地味だとも言われるけれど、色に依存したくないんです。他の可能性を捨てたくない。色を捨てることで形が浮かびあがる、といったことがあればいいと思っています」。
野老さんは、定規やコンパスといったシンプルな道具を使って紋と紋様を制作してきた「アーティスト」である。2001年の9.11テロをきっかけに、「つなげる」をテーマに独学で紋様の制作を開始した。以来、美術、建築、デザインの境界領域で活動を続けてきた。
色に依存しないという考えが生まれたのは、こうしたバックグランウンドも関係しているのだろう。野老さんの頭の中には、既にこの紋様を使ったさまざまな立体的なアイデアが駆け巡っているようだ。「例えば、この紋様がビーチサンダルの裏に彫ってあったらいいと思っているんですよ。そのサンダルで、みんなで海岸を歩き回ったら楽しいですよね。金属で作っても、キラキラと光を反射してきれいです。エンブレムを小さくすればジュエリーになります。金属やガラスはそれ自体は単色でも、光を受けるとキラキラと光りますよね。そういう、光を表現しているような意識があります。それに、市松模様というのは別の呼び方で言えば石畳ですから、そういう展開も当然できる。小さなものからランドスケープまで、地続きにアイデアが出せるんじゃないかと思っています」。
