『ジャンプ』編集部にある「ヒットの教科書」とは?
澤本:この番組を聞いている人の中には作家になりたい人もいて、書くときにどういう作業をしていいかわからなくて、ただ「面白いもの」描こうとしている人も多いと思います。それに対して編集という人達が何をしているのか、みんな知らないと思うんですよ。佐渡島さんが考える編集とは何ですか?
佐渡島:以前、澤本さんと一度、映画の脚本の打ち合わせをさせてもらいましたよね。ここにいる御三方はみんなCMクリエイターですが、僕はCMクリエイターって、ビジネスマンでいうと「マッキンゼーの人」って感じなんです。みんな超スキル高いんですよ。問題があった場合にはガッガッガッと解決できるんです。そのHowをみんな知ってるんですね。それぞれの企業から、「これを売りたい」「認知度上げたい」と言われて、そのHowをみんな知っている。
一方で、作家になる人はHowを全く知らないんです。何となく心の中でくすぶってるWhatというか、「この気持ちを伝えたい」というのだけがあるのが新人なんですよ。その新人に対して僕はHowを教えていく。Howを教えていく中で、Whatを研ぎ澄ますために色々質問をしていきます。だから、質問でやっていくことは「Whatを明確にする」ということなんです。
マッキンゼーの方が独立したけど、いい会社はできたけど強烈じゃないときがあるじゃないですか。孫さんや柳井さんはマッキンゼーみたいなタイプと真逆で、強烈なWhatがあって、Howは仲間が用意してくれる。そういう感じで「人からWhatを引き出す」というのが僕の一番の仕事です。
澤本:今のすごく痛い(笑)。僕らがよく言うのは、「人に制約をぶっかけられないとなかなか考えられない」ということ。制約をかけられて、その制約を回避して、何か回答を出す、制約の中で最適解を出す、というのは慣れてるんですね。逆に「制約くれ」と言うんですよ。
でも、それが恐らくHowはわかってる状態で、逆に言えば、俺らはWhatがないんだね。一生懸命つくってるけど、Howを解決策として提示して、それが何となく表現になっている。でも、じつは作家の方はそういうものよりは、「俺はこれやりたい」というのがあって、そこに対して、「どうしたらいいんですか?」と聞いている感じなんですね。
佐渡島:そうですね。人間は全員、Whatは何らかあるので、それを擦り合わせて広告をつくってるから個性だと思うんですけど、どちらかというと、Howのあり方に個性が出るんだろうなと思います。たとえば、澤本さんだったら、ちょっとナンセンスっぽかったり。澤本さんの作品は記憶に残りやすいんですよ。それってちょうどいい具合でわからないから。「なんで犬がしゃべってんだっけ?」って説明もしないじゃないですか。
澤本:ちょうどいい具合でわからない・・・なるほど。
佐渡島:ちょうどいい具合でわからない、というのはつくるのが難しくて。それを直感的にできているから記憶に残りますよね。東京ガスのガス・パッ・チョ!もそうで、「なんで戸棚から出てくるんだっけ?」など、一切説明しないじゃないですか。
澤本:そうですね。ああいうのはリアルに言うと、あまり極端にズラさないようにはしてるんです。一部分だけズラして、確かにみんながおかしいなと気づく前に終わるような感じをいつも心掛けているんですけど。
質問ですが、佐渡島さんは培ってきたものを人に与えているじゃないですか。でも、人数に限界がありますよね。そのときに、第2の佐渡島さんみたいのはつくれるものですか?
佐渡島:僕はつくれると思っています。僕が持っているものはHowと言いましたけど、マッキンゼーが現れる前って、経営コンサルタントは長年経営をしていた人が50歳、60歳でやるビジネスだったんですよ。それをマービン・バウワーという「マッキンゼー中興の祖」と言われている人がこういう風にすれば新入社員でも型を覚えて、その型によって、それぞれの企業が抱えている問題を分析していける、という風にしたんです。
それと同じで、作家の持ってる欲望の聞きだし方だったり、このレベルの作家にはこういう物語の型を提案してみるといい、などは丁寧に型化できると思っていて。今、その型をつくろうと思っています。そこは僕のオリジナルじゃなくて、誰でもできることじゃないかと思っていますね。最近はベテラン編集者に色々会いに行ってるんですよ。たとえば、『ドラゴンボール』をつくられた鳥嶋和彦さんなどに。
中村:ドクターマシリトですね。
佐渡島:会いに行ったんです。それで鳥嶋さんも僕と全く同じ考えで「編集は技術だ。人間力じゃなく、教えられる」とおっしゃっていました。鳥嶋さんが『週刊少年ジャンプ』をすごい状態にしたのは、ジャンプ編集部に教科書をつくったからなんですよ。
澤本:え、教科書があったんですか?
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