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「君の名は。」が示すデジタル時代のヒットの形
作家であり未来学者でもあるアルビン・トフラー氏は、30年以上前に将来の消費像として消費者がそのまま生産者となる「プロシューマー(生産消費者)」を提唱していました。この姿は消費社会にデジタルネットワークが浸透した現代にこそ、ふさわしい言葉になりつつあります。
今回は、この言葉を象徴的に示した2016年のマーケティングのトピックについて振り返りたいと思います。それは大ヒットした邦画と、キュレーションメディアの問題についてです。
2016年の邦画のヒットには、目を見張るものがあります。なにしろ「シン・ゴジラ」の興行収入が80億円を超え、邦画にとって久しぶりのヒット映画になったかと思えば、新海誠監督の「君の名は。」がそれを超える200億円になっているのです。
このレベルの邦画興行収入はジブリ映画が引き合いに出されますが、興味深いのはメディアコンサルタントの境治氏による分析です。「シン・ゴジラ」と「君の名は。」のテレビCMを含むマスメディアでの露出量はそれほど変わらないにも関わらず、興行成績に差が出ているのは「Twitterでの発言数」に顕著な違いが見られることではないかという指摘です。
・『君の名は。』のメガヒットは製作委員会とみんなのツイートがもたらした
この記事では「シン・ゴジラ」公開前まで、2016年邦画の最大ヒットだった「信長協奏曲」映画版をベンチマークとして比較しています。そして「シン・ゴジラ」に関するTwitterでの発言数は「信長協奏曲」を超え、さらに「君の名は。」はその「シン・ゴジラ」さえも軽々と越えている、という分析結果を提示しています。
境氏によれば、「シン・ゴジラ」と「君の名は。」をマーケティング手法で比較すると、「シン・ゴジラ」では、監督である庵野秀明氏が公開まで徹底的に秘密主義だったのに対して、「君の名は。」は公開の数カ月前から大々的な試写の全国ロードショーを行っており、この地道な活動によるコアファンの下支えがあってこそ、ヒットにつながったのだと結論付けています。
マスメディアなどのマーケティング費用は、それほど大きく差がなかったとしても、ゴジラの知名度、石原さとみさんなどのキャスティング力、庵野秀明監督の影響力を考えると、おそらくPRでの露出量は「シン・ゴジラ」の方が、「君の名は。」をはるかに超えているはずです。
では、なぜ「君の名は。」が「シン・ゴジラ」を超えてヒットになったのかと言えば、境氏によるとTwitterなどの口コミの原動力になっている様々な要因によるとのことです。そしてそれは、この映画に関わる人たちが、それぞれでプロモートし、合わさった「みんなの力」によって成し遂げられたということです。
興味深いのは、このような「みんなの力」を合わせて加速する装置として、Twitterのようなソーシャルメディアが機能していたという点です。映画の場合は興行なので、デジタルからモノがそのまま売れるような構造ではありません。(それでも「君の名は。」の関連グッズは原作本も含めネットでもおそらく売れているだろうということは容易に想像できます。)
ですが、最近のヒット映画は「爆音」上映や「声だし可」上映など(「シン・ゴジラ」でも特別企画の上映を実施しています)、映画館自体をファン同士の声を共有する場として活用しています。
これはファンが映画を見た感想についてはデジタルネットワークで共有し、一番の感動ポイントはリアルの現場で表現したいという気持ちの現われだと思います。この形はアーティストの楽曲をYouTubeで見ていても、感動はライブで味わいたいという感覚と同じです。そして「君の名は。」では、テーマ曲であるRADWIMPSの「前前前世」が流れるシーンが“ライブ”のように機能していたと言えるでしょう。
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